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「おい、話聞けって! 工事!」
「だから工事じゃねえっつってんだろうが! 人の話聞けよ、こん畜生! っつーか、てめぇ、うぜえんだよ、侍らせんのは美形だけにしろ。俺を巻き込むな、視界に入れるな、存在認識すんな! そんで序でに言うけど、俺の名前はそこのバカ犬カッコわらいカッコとじ、と一緒の孝太だから! 次に工事とか呼びやがったら、末代までお前の母ちゃん出臍っていってやんからな! あー、腹立つ!」

 食堂はしんと静まる。何だか、とてつもなくヤバいことをした気がしないでもないが、俺は兎に角、怒り心頭なこの熱を取り除きたかった。ドスドスと力一杯、足を踏み出しながら、俺は食堂を後にした。







(side:不良)



 実を言うと、松風孝太の存在は随分前から知っていた。勿論名前をしっかり記憶している。だからモジャモジャが名前を間違っていることに当然気付いたし、それを訂正しようと頑張っているヤツにも気づいていた。それを敢えて言わなかったのには、訳がある。
 木下舞。俺はこんな奴が一番嫌いだ。好みなのは……そう、あいつの苦渋な表情。平凡だが、歪んだその顔は、俺にとって極上に等しい。つまり、俺は松風孝太が好きである。最初は名前が同じの平凡としか思わなかったが、それが変わったのは、このモジャモジャが来てからだ。嫌々ながらモジャモジャに連れられて訪れた食堂に松風孝太がいたのだ。絡まれる松風孝太を見て、驚くほどに興奮した。
 もっと歪んだ表情が見たい、そんな理由で、俺はモジャモジャの傍を離れなかった。見当違いな暴言を吐いたのだって、あいつのあの顔を見るためだ。
 しかし、そろそろ潮時だろう。怒りマークを頭に沢山付けて、大股で出て行った松風孝太に愛しさを感じながら、俺は後を追って食堂を出た。

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