死神が抱く灰の山

元同級生と(×?)死神/ビターエンド予定/死ネタ













「死ぬの?」

 周りの音が全て消えて、彼の声だけが僕の耳に届いた。俺は何も答えずに、フェンスに足をかける。おい、と咎めるような――しかしそれにしては軽い、声がかかる。俺は空を見上げた。鳥が二羽仲良く、青い空を気持ちよさそうに飛んでいる。

「死なないよ」

 俺は答えた。
 濁った雲が集まって一つになる。ざわざわと木が揺れた。

「死ねないんだ」

 ぽつりと一滴、俺の頬に落ちる。
 鳥が二羽仲良く、濁った雲に覆い尽くされた空から落ちた。









 僕は数ヶ月前、車に轢かれた。即死だった。しかし、それは体が、ということで、僕の魂――意識は、確かにそこにあった。気がつくとフードを目深く被った男が立っていて、横たわっている僕の体の上で傘をさした。瞬いた次の瞬間にそれは大きな鎌へと変わっていて。

「殺すんですか」
「殺しはしないさ」

 男はにたりと笑った。この世で一番恐ろしい笑みだったのに、僕の目にはきらきらとした輝かしい笑みが映っていた

「喜べ。君は優良物件だ」

 鎌が振り下ろされた。ぐちゃりと生々しい音が鳴ったけれど、痛みはない。当然だ。僕の体は死んでいたのだから。
 あの日確かに僕は死んだ。しかし後にオーナーとなるこの男に、強制的に生かされた。
 そして僕は――俺は、死神となった。死んだはずの人間が醜く生きながらえて、命を狩る。大きな鎌を携えて……。


 











 オーナー曰く、優良物件とは。俺が僕であった時代の不幸体質のことらしい。確かに生前、何かと目を付けられやすく、パシられたり暴力を振るわれたり、雑巾を絞った水をかけられたりということが良くあった。漸くできた友人には裏切られ、人間不信、疑心暗鬼、それらがいつまでも付き纏っていた。だから車に轢かれた時、あの時俺は少なからず安心した。これで楽になれると思った。しかしオーナーは見逃さなかった。だからこそ、俺をここに留まらせたのだから質が悪い。
 人間が好きだったり幸せだったりした奴は、死神になれない。つまりはそういうことだ。不幸体質により人の何倍も不幸を背負ってきた哀れな人間を選んだのだ。
 俺は今神代しおんとして学校に通っている。仕事をするためだ。仕事――つまり、人の命を狩ること。この大きな箱の中に、もうすぐ死ぬ奴がいるんだと思うと、笑いが止まらなかった。
 学校に通っていると言っても、気配は消している。だから普通の人間には見えない。……普通の人間には。死期が近づくと死神が見えるようになるから、見える人間は――。
 くすりと笑って、フェンスから屋上に向かって飛び降りた。ぱしゃりと水が跳ねる。
 俺は顔をあげて、しっかりと彼の顔を見る。

「初めまして、大山一成くん」

 彼は訝しげな顔で、俺を見た。
 大山一成。小学生の時に俺を地獄へ落とした男だった。




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