無口な男のキレる時

俺様×無口長身/淡白/ツンデレ













 その日は雨だった。外に出るのが嫌だからって、俺の部屋に来た恋人の迫は、俺のベッドを我が物のように使い、勝手に本棚から出した漫画を読んでいる。

「飽きた」

 俺はその声を聞いて自分の読んでいた本から顔を上げ、少し下がった眼鏡を指で上げた。その漫画、つまらなかったのだろうか。それともここにいるのに飽きた? それなら漫画を読むのをやめるにしろ、帰るにしろ、好きにしたらいい。俺は黙って迫の言葉を待った。

「飽きたっつってんだよ」
「そうか」
「別れる」

 あ。飽きたって、俺のことか。
 元から好かれていなかっただろうし、特に驚きはしなかった。というかこの女性なら誰もが放っておかないような男前が男の俺と付き合うことがおかしかったのだ。まあ質の悪い遊びだってことは、知っている。何せそれを聞いていたのだから。だから漸く飽きたのか、というのが俺の感想だ。この男、俺に色々な物を奢らせるわこうやって家に上がり込んで好き勝手するわ、正直迷惑していた。良かった飽きてくれて。

「そうか」

 俺はじっとこっちを見てくる迫にそう返して、本に視線を落とす。迫が舌打ちをした。

「つまんねーやつ」

 知っている。俺は背中を向けた迫を見て、自嘲めいた笑みを零した。





























 迫も言っていたが、俺はつまらない人間だ。昔から口下手で、友達は数えるくらいしかできなかった。その友達も、俺があまりにもつまらない人間だったからか、次第に離れていった。そして俺は友達を作ることが段々面倒になってきて、もういいやと一人孤立していた。しかしいじめられることはなかった。何故なら俺は無駄に身長が高く、体格も良いからだ。しかも握力も強いので怖がられている。
 あまり物には興味を抱かないが、ひとつだけ、好きなものがある。花だ。俺は花が好きなのだ。こんな男臭いくせに、花が好きなんてと思われるかもしれないが。好きなものは好きなんだから仕方ないだろう?

「おはよう」
「あ、おはよう。ご飯、今から用意するわね」
「うん」

 俺は返事をして、母さんの横を通り過ぎ、ペットボトルに水を入れた。そして愛する花たちに水を与える。

「あんた、ほんと、勿体無いわ…」

 茶碗を持ってきた母さんは、俺のデレデレに緩みきった顔を見て、そう言った。気持ち悪いことは自覚している。そう思っていることに気づいたのか、母さんは溜息を吐いた。

「確かに、無口で硬派ってのもポイントは高いけど。もっと笑った方がいいわよ。花に向けるその笑顔、誰かに見せたことあるの? 例えば彼女とか」

 いまいち言っていることがわからなかったけど、取り敢えずこんな顔は誰にも見せたことはないな。彼女はいたことないし、つい昨日までいた恋人にも見せることなく振られたし。
 ゆるく首を振って、いただきますと手を合わせた。

「……はぁ」

 母さんの溜息が部屋に響いた。

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