雀の恋

不良×平凡









「よお、雀卵斑」
「っ、誰だ!」

 ソファーで雑誌を読んでいると、不良スタイル(金髪でピアスには数多のピアス、顔は眉間に皺を寄せているのがデフォルトのようだ)の男がいきなり無遠慮に部屋に入って来てた。驚いた後、俺はすぐさま段違いに端正な顔つきのそいつを睨んだ。やれやれと肩を竦めた男が勝手にソファへと腰を下ろす。

「お前の世話係さ」
「何だって! 俺に世話係? 一体どうして」
「ウェーズリーだ。あいつがお前の面倒を見てやれと俺にな」
「くそ、ウェーズリー。あいつ、馬鹿にしやがって」

 ウェーズリーとは俺が通っている学校のお坊ちゃんだ。イギリス人とのハーフで、綺麗な顔をしている。しかしその綺麗な顔と反して性格は我儘、人を見下した態度で俺はあいつが大嫌いだ。いつも馬鹿にしてくるんだ。地獄に落ちてしまえばいいと思うが、人を呪わば穴二つという恐ろしい言葉もあるのだから、俺は彼を大して呪っていない…筈だ。
 最初は靴を隠された。次には教科書の全てのページに落書きがあって、その次には靴箱にゴミが入っていた。そうそう、この前は足を引っ掛けられて転んでしまった。彼の上辺だけの友達――取り巻きも俺を蔑んで嗤った。くそ、くそ、思い出したら腹が立ってきた。

「おい、ウェーズリーを悪く言うなよ、雀卵斑」
「俺に世話係なんて必要ないんだよ。それよりお前、人のこと雀卵斑、雀卵斑って、馬鹿にしてんのか」
「俺だってウェーズリーに頼まれなければお前なんか。それに俺は事実を言ったまでだ。その汚ねえ面をこっちに向けるなよ」
「…ふん、お前、ウェーズリーに似てるな。類は友を呼ぶってやつか」
「へえ、俺はウェーズリーに似ているのか。お前なんかに言われるのは癪だが、それはいいことを聞いた」
「変な趣味してるぜ、お前。いいから早く出て行けよ、俺は疲れてるんだ」
「出て行く? ウェーズリーはこの家を買ったんだ。だからここは俺の家でもある」
「はあ!?」

 身を起こして信じられないと呟く。男はうっとりと言った。「こんな雀卵斑の世話のために家を買うなんて、ウェーズリーは何て慈悲深くて器の広い男だろう」

 なんてことだ。男が気持ち悪い程ウェーズリー信者な上、そんな奴と一つ屋根の下だなんて! しかもあいつが慈悲深い? 俺を馬鹿にしているだけではないか!
 そもそもこいつは一体誰なんだ。ウェーズリー関係なのは分かるが、それ以外の素性なんかが一切不明だ。俺がじっと男を見つめると、不愉快そうに眉を顰めた。

「汚ねえ面を向けんじゃねえって言っているだろ」
「どこまでも失礼な男だな」
「おっと、そういえば言っておくが、お前に教える名なんて生憎持ち合わせていないからな。間違っても俺の名を訊いたり言ったりするんじゃねえぞ」
「あー、そうかい」
「ああ、あと、俺がカッコいいからって絶対に惚れんじゃねえぞ。その雀卵斑だらけの顔を変形させたくなければな。いや、寧ろ変形した方が綺麗になるかもしれないが」

 ニヤニヤと嘲笑ってくるこの男、人を怒らせる天才かもしれない。ウェーズリーと素晴らしくお似合いなんじゃないか。ナルシストなところまでそっくりだ。俺はもう相槌を打つのさえ面倒になって、無気力に宙を見つめる。どっちにしろ、俺はもう馬鹿にされ慣れてるんだ。どうでもいいや。男がまだ何か言っていた気がしたが、俺は愛しのエリィを想って目を閉じる。

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