正反対な僕ら

俺様会長×無表情平凡/内容が薄い









「別れましょう」

 智早が淡々とした声で言うと、別れを告げられた男が目を見開いた。








 奥山智早は感情の起伏が少なく、表情が変わることも殆どない。周囲からは冷たい人間と認識され、距離を置かれていた。顔も人形のように表情がないこと以外はどこにでもいる普通の男子高校生だが、一つ普通ではない点がある。彼には同性の恋人がいた。
 恋人の名は林原愁。智早の通っている全寮制の男子校の生徒会長を務めている男だ。並々の顔をしている智早と違い、誰もが目を引く容姿をしている。少し強面寄りの顔立ちの為、近寄り難い雰囲気を醸し出している。そして彼は下半身がだらしなく、また、短気で我儘であった。皆は彼を、まるで王様だと言う。
 愁は自他共に認める面食いだった。可愛らしい女のような見た目の男しか相手にせず、見た目の良くない者には見向きもしない。絡んでくれば冷たくあしらわれる。そんな愁と、愁が最も興味の無さそうな部類の智早が恋人関係になったのか。誰もが不思議に思った。
 遡ること一ヵ月。智早は愁に告白した。告白する気はなかった智早だったが、気がつけばするりと言葉が出てしまい、愁はそれを聞いて酷く嫌なものを見たような顔をした。それを見て、智早はやってしまったなあと思いながら瞬きをする。愁は断ろうと口を開いたが、急にニヤリと笑う。彼は変わらぬ日常に退屈していた。何かいい玩具でもないか――と考えていたところに丁度いい獲物がやってきた。そうだ、こいつで遊ぼう。愁はニヤニヤとした笑みを隠しもせずに告白を受け入れた。智早はそのことに驚いたが、嬉しさに心がポカポカと暖かくなった。本人は喜んでいるが、表面には出ていないそれを愁は気味悪そうに見て、足早にその場を去った。そうして、彼らの奇妙な恋人関係がスタートしたのである。
 二人の関係は全く甘いものではなかった。智早が性交を拒んだのである。腹の立った愁は暴力で言いなりにしようとするが、一向に首を縦に振らない智早。愁とて別に智早だから抱きたいわけではない。ただの性欲処理だ。このことがあって、愁は智早に迫るのを止め、前々からいたセフレの元で性欲処理を行った。立派な浮気行為でもあるが、智早は気にした様子はない。どうでもいい、という顔で事後の恋人とセフレを見るだけだ。
 智早は傷ついていないわけではない。しかし、自分がそういった行為をしたいと思っていないというのもまた事実だ。致すのならば、まずは一緒に出かけ、手を繋ぎ、キスをして。そんな乙女思考を持っている。因みに愁とは未だに出かけたことすらない。

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