もう戻れない。

※ネタバレしかないです。
フリゲ/囚人へのペル・エム・フル/全員死亡ルート/今日介×歩人/暗い


これからプレイしようと思う方、内容を知らない方は見ることをオススメ致しません。そして読んだ後の苦情はお受けしませんのでご了承ください。



















 ――十一人。十一人いたのだ。そんなにいたのに、今では俺と歩人の二人だけ。皆あっという間に死んでいってしまった。歩人がいることだけが不幸中の幸いだろう。その歩人も一度死にかけていたのだからゾッとする。クフ王の裁き…俺がその力を継承したらしいが、もうそんな力使う必要もないし寧ろ使いたくない。
 ――歩人くん、助けて。
 葉ちゃんの声が頭に木霊する。守ると言ったのに、助けられなかった。俺も歩人も。葉ちゃんはどうしてあの犬に喰い殺されたのか。今となっては訊くことなどできないが、彼女は何らかの罪を犯したのだろう。でなければ、歩人に助けを求めるのはおかしい。
 歩人、か……。隣で間抜けな顔をして寝ている歩人を見遣る。あの惨劇から一夜が過ぎた。九人の犠牲者、そして二人だけの生還。犠牲者の内の二人は俺たちのクラスメイトであった市川と俺の想い人でもあった葉ちゃん。昨日まで笑っていたあの二人はもういない。
 撫で心地の良い髪を手で梳く。

「ん…」

 歩人の眉間に皺が寄った。それに苦笑して俺もベッドに横になる。
 葉ちゃんが歩人のことを好きだということは知っていた。見ていれば分かる。接点のなかった俺に近づいてきたのも利用されているんだと早々に理解した。――何で歩人だったんだろうか。歩人には市川がいる。幼馴染みのあの二人には中に入ることの出来ない空間があった。この俺でさえも入れない、二人だけの。
 いや、待て。何故俺はこんなことを考えているんだ? もうあの日常など一生来ないのだ。
 手を頭から頬に滑らせる。

「んん…」

 擽ったそうに身を捩って俺の手から逃れようとする歩人。

「寧…」

 愛おしげに市川の名を呼ぶ。俺は何故だかむっとして、その口を塞ごうとした。
 予想外だったのは、塞ぐものが手ではなく口であったこと。あ、意外に柔らかいなんて考えて我に返る。
 俺は、何で歩人にキスを…!? ばっと勢い良く体を離す。どくどくと心臓が音を立てて騒いだ。

「ん…? きょ、すけ…?」

 ゴクリと唾を飲み込む。寝起きなんて泊まった時に何度も見たはずなのに、何でこんなに興奮するんだ。自分で自分がさっぱり分からない。
 顔が熱くなるのを感じて片手で口ものを隠す。

「ふぁ…あー、俺、寝てたんだ…。そっか、…」

 自嘲するように笑って。ぽろりと涙を一粒零した。

「寧…」

 俺は悲しげに呟く姿を見たくなくて、ギュッと歩人を抱き締めた。

「きょ、今日介!?」
「俺がいる…、俺がいるから、泣くなよ歩人…」
「っ今日介…俺、気付いたんだ。失って気づいた…っ。寧が好きなんだ俺……。あいつは、あの時何て言おうとしたんだろう…!」

 あの時、とは。恐らく葉ちゃんが死んで、市川が攫われたというあの時なんだろう。市川は告白する気だったのかもしれない。最後に見た嫉妬に揺れた醜い瞳を思い出して目を瞑る。

「俺は、お前が…」

 ああ、俺は一体何を言おうとしているのだろう。歩人は男だ。恋愛感情なんてない。しかし、この感情は友情で片付けていいものなのか?
 いや、そんなのはどうでもいい…。
 過去に捕らわれるお前と、そんなお前に惹かれる俺。生気のない目をした歩人の口を俺は塞いだ。








fin.




これは酷い…。ということで、全員死亡ルート又の名を今日介end。
リメイクの完成は一体いつになるんだろう…。

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