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「し、ししししし」

 ふと、後ろから笑い声なのか何なのか分からない(というか言葉じゃないよな)声が聞こえた。首を捻って後ろを見ると、同室者であり、同姓同名の――ハルが真っ赤な顔をして少し離れた場所に突っ立っていた。…風邪か? だったら部屋で大人しくしてた方がいいんじゃなかろうか。

「し、シロ、お前何してんだ」

 大股で近づいてきた彼は、口をもごもごしながら話しかけてきた。まだ名前を呼ぶのに照れているらしい。……可愛い奴め。
 ハルは道に座り込んでいる俺とコッペパン(歯型つき)を交互に訝しんだ表情で見た後、国分寺先輩を睨んだ。

「パンを横取りなんてみっともねぇぞ!」
「なんでやねん!」

 おっと、思わず突っ込んでしまった。いや、なんでやねんって使ってみたかったんだよな。っていうかいい加減立とう……。
 何だか満足した俺の横でポカンとしているハルの表情に国分寺先輩は肩を震わせて笑っている。あまりにも間抜けな顔に俺も思わず顔が緩んだ。はっと我に返ったハルは、俺を見て目を見開き、顔を真っ赤にさせた。そんなに笑われたのが恥ずかしかったのだろうか?

「……オイ」

 氷のような冷たい声が聞こえ、国分寺先輩を見ると綺麗な顔を歪めてハルを睨んでいた。それを真っ向から受け止めたハルは一瞬顔を青くするが、予想外にも睨み返した。国分寺先輩はフン、と鼻で笑うと何故か俺の手を掴んだ。

「俺様は今からコイツと“デート“すンだよ。下僕はさっさと帰れ」
「でーとっ!?」

 これでもかというくらい目を見開いて叫んだハルは道行く人の注目を浴びている。いや、この二人は美形だから最初から注目浴びてたけど(俺? 視界にすら入ってないよ。ははは、…はぁ)。
 それにしてもデートって何だよ。いつ約束したんだっていうか男とデートとか夢もロマンもあったもんじゃない!

「じゃあ行くか」

 されるがままに手を引っ張られ、体が傾く。が、反対側からも引っ張られ、体は中途半端に後ろに引っ張られている形になった。
「てめぇと行かせられるか! おっ、俺も行くぜ!」

 国分寺先輩が返した反応は盛大な舌打ちでした。

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