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 発端は朝のこの言葉だった。

「今日の運勢の一位は双子座のあなた! 二人にアタックされちゃうかも!? ラッキーカラーは青でラッキーアイテムは……」

 毎朝見ているニュース番組の最後には一日の運勢が発表される。占いなんて女々しいものを信じているわけではないが、一位と言われて悪い気はしない。恋愛運が高いらしく、二人の人にアタックされ……ん? アタックされる? って、ことは彼女を作るチャンスなのではないか? 年齢=彼女いない歴の俺には思いもしなかったまさかの吉日だ。今日は休日だし、よし、出掛けよう。一応ハルには出かける旨をメモに書いておこうかな。ああ、なんか彼女できる気がしてきた。確証はないけど!
 俺は青のパーカーにダメージジーンズに着替え、鼻歌を歌いながら部屋を出たのだった。
 






 出会いといえばやはり、王道は角でぶつかるっていう展開だよな。今日は休日だからパンを銜えてってのはないだろうけど、ぶつかるだけでも運命だ! さあ、行くかと一人頷いて走り出す。まあこれで誰にもぶつからなかったらただの変人だけどそれは気にしない方向で。

「ぶっ!?」

 本当にぶつかった、と考える暇なく間抜けな声を出した俺は勢いをつけすぎたらしく、尻餅をついてしまった。コンクリートのヒンヤリした感触を感じながら、どんな人だろうと顔を上げようとした瞬間。ポトリと何かが目の前に落ちてきた。……何故コッペパン。しかも歯型くっきりつきすぎだろう。

「お前、何やってんだ」

 暫くコッペパン(歯型つき)に見とれていると、激しく聞き覚えの声が耳に入ってきた。顔を上げたくない。っていうか俺の微かな期待を返せ!

「俺様を無視するとはいい度胸じゃねえか、オイ、シロ」
「ぎゃー!」

 色気を含んだ声と共に覗き込まれた顔には最近知り合った端整な顔があった。言わずもがな、国分寺先輩だ。思わず叫んでしまうと(どうでもいいけど無表情で叫ぶ姿って不気味だよな)、国分寺先輩は眉を顰めて何だその反応は、と馬鹿にしたように笑った。
 っていうか、

「コッペパン……」

 何というか、ミスマッチすぎる。多分そこらのコンビニのどこにでもあるただのコッペパンなんだろうけど、国分寺先輩と合わせると高級なものに見えるから不思議だ。それにしても地面に落ちてしまっているこのパンはどうするんだろう。未だ地面に尻をつけたままの俺は凄く場違いなことを考えていた。

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