愛ってなに? −部室での会話





「最近、立海見学行かへんな」

「……」

「前は週一ペースでー」

「…そんなに行ってない」

「なら、10日に1回か?」

「別に…」

「日曜も前はしょっちゅう横浜行っとったなぁ」

「…なに」

「なんで、丸井と会わんの?」

「え…」

「先月の合同練習も、いつもなら丸井の試合バッチリ起きてんのに、一度も姿見せんと」

「……」

「どないしてん?」

「…べつに」






「丸井のこと、フッたん?」






「なに、いって―」

「お前は正直微妙やけど、丸井は一目瞭然」

「……」

「お前しか見てへんし」

「……ともだち、だし」

「別の意味で、あいつがお前に好意持ってたん、気づいてたやろ」

「…そりゃ、オレだって丸井くんのこと」

「好きなんはわかるけど、丸井の『好き』とはちゃうやんな」

「……」

「あいつはラブで、お前はライク」

「漫画みたいなフレーズだね」

「茶化すなや」

「…仮にそうだとしても、何で急にそんなこと言うの」

「なんでって―」

「忍足に、関係ナイっしょ」

「認めるん?」

「何も言って無いし」





「あんなぁ……丸井、泣いててん」

「…え?」





「お前らがよく打ってたコート」

「…川沿いの?」

「先週たまたま通りがかったら、丸井がいた」

「……」

「お前、最近そこにも行かんらしいな」

「……」

「ジローのこと聞かれて、少し話したんけど……最後のほうで、あいつ泣いた」

「……」

「あの気の強い自信過剰な男が、お前からのメールみて泣いててん。そりゃ気になるやろ」

「…丸井くん、なんて?」

「詳しいことは言わんかったけど、まぁ見てればわかる。お前のこと好きやって」

「……」

「何て言ったん?あいつに。
ジローがそういう意味で好きと違うのはわかるけど、丸井でもええんちゃうん?お前は男も女も関係あらへんし。」

「…シツレーしちゃう」

「ホンマやん」

「……」

「お前が何考えてんのか正直サッパリやけど、丸井のあんな顔見たらなぁ」

「……」

「友達付き合いもできなくなるほど―」







「丸井くん、真剣だったから」







「……」

「丸井くんのことは好き。でも、気持ちには応えられない」

「…そうか」

「オレ、誰も好きじゃない」

「え…?」

「キスも、セックスも、何でもできるよ。でも、愛せない」

「……」

「だから、オレのこと『愛してる』って人とは、一緒にいれない」

「丸井は、お前のこと―」

「うん。わかってる。その言葉を言わなきゃ一緒にいれるってことも、丸井くんはわかってた」

「……」

「口に出したのは丸井くんだ。言わなきゃこのままでいれたのに」

「…お前のこと、好きやからやん」

「丸井くんのこと好きだったのに……なんで、オレなんて好きになっちゃうの?」

「……そんなら」





「愛してなんて欲しくない」


「ジロー…」





「オレ、みんなのこと好き。大好き。でも、愛せる人なんて、いないもん」

「…お前ん中でどう違うん?」

「誰とでもキスできるし、体繋げることも躊躇わない。けど、それは丸井くんみたいに真剣な人にはダメなことなんでしょ?」

「……」

「オレは変わらないよ。誘われればついてっちゃうサイテーなヤツだもん。でも、オレはオレのことサイテーだなんて思ってない」

「……」

「けど、丸井くんのようにオレだけを『愛してる』って言ってしまう人には、やっちゃダメなことくらいわかる」

「……」

「丸井くんを受け入れても、オレは変わらないもん。そしたら、傷つくのは丸井くんだもん…」

「…だから、フッたんか」

「丸井くんだけじゃない」

「……」

「オレのこと『好き』って言ってくる人は、バイバイするしかない」

「……えらく割り切ってんな」

「丸井くんはオレが『もう会わない』って言うの、わかってたと思う」

「…それでも、お前の気持ちを変えられるかもしれないと賭けたんやろ」

「オレは変わらないのに」

「そんなら…」

「……」






「仁王はどうなん。遊んでるやろ」


「……」





「あいつもお前のこと……丸井と同じやん」

「アイツは、絶対に言ってこない」

「あいつと寝てるんか?」

「…オレは、誰とでもできるって、言ったよね」

「同じように真剣にお前のこと想ってる二人に、…片方はフッて、片方とは遊んでるん?」

「……」

「仁王が真剣なんも―」

「…わかってる」

「丸井はダメで、仁王は言わんからええん?」





「そうだよ。あいつはアレで純粋だから。オレのこと愛しちゃってるからさ」





「お前…」

「でも、言うと終わるのもわかってるから。今のまま。絶対に言葉にしないんだ」

「……」

「もういいでしょ。ほっといてよ…」

「…あんな丸井みたら、ほっとかれへん」

「じゃあ丸井くんのところに行けばいいじゃん」





「そんな顔してるお前も、放っとけん」





「…っ」

「鏡みてみ?表情、曇ってる。つらい、悲しいってお前の目が言ってる」

「……オレは、自分で決めてきたことだもん」

「けど、辛いんやろ?」

「…っ…」

「なぁ、ジロー。なんでそんなに―」





「丸井くんのこと、大好きだもんっ!!でも、オレなんて、相手なんて誰でもいいダメなヤツだし…
丸井くんが一番仲いい仁王ともやっちゃう、サイテーなやつなんだ」




「……」

「仁王だってそうだ。あいつ、ああみえてすんごいいいヤツだし、優しいし」

「……」

「アイツの親友……丸井くんとのことも知ってるのに、それでもオレのこと詰らないし。
オレが丸井くんに酷いこと言って傷つけたのに。丸井くんも、仁王も、オレのこと許すんだ」

「……」

「オレ…丸井くんも、仁王も、大好きなのに。けど…」

「…愛せない?」

「『好き』じゃダメなの?愛せないとだめ?」

「ジロー…」





「なんで、本気になっちゃうの?」


「……」






>>たとえばこんな、両想い   >>目次


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慈郎の本心がどこにあるのか、泣きそうな顔で詰め寄ってくる彼の心が見えず、何も返せなかった。

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