昼休みの屋上。給水塔のうえで仰向けに太陽を浴びながら、うとうとすること数分。 ふと影が差して、目を開けると馴染みのチームメートの姿があった。 「…オシタリ?」 「おはよう」 「なぁに?何か用……ミーティング、あったっけ?」 「いや、何もないで」 「あっそ……じゃ、バイバイ」 言い捨てると忍足をシャットアウトし、ポケットから携帯を取り出してはメッセージをチェックしだす。 みればお隣の県で、今は同じく屋上でランチ中らしい他校の親友から、昨日みたバラエティの内容と、次の約束の詳細を確かめるメール。 素早くオッケーの旨を返す。 『今度の日曜、10時に八王子駅、りょーかい!』 すぐさま返信がきて、寝坊厳禁・遅刻禁止、と毎度言われるフレーズが並んでいた。 そのかわり昼飯用の弁当は作ってやるという彼のメールに、自然と笑みがこぼれ『おねがいします』と再度返事。 お願いすればきっと、デザートのゼリーも手作りでクーラーボックスにいれてきてくれるだろう。 『水筒は大きいの持ってくから、飲み物はまかせて』 せめて、これくらいは…… 次の日曜、高尾山でプチ登山―というか、ピクニックになっていはいるが。 楽しみ〜 鼻歌うたいながら携帯画面をオフ。さて、もうひと眠り。 …が、いつまでたっても太陽の光に包まれることは無く、となると相変わらず上から覗き込まれている、というワケで。 「…オシタリ、なに〜?」 「楽しそうな顔してたなぁ」 「楽しいもん」 「相手、丸井?」 「そーだよ。今度遊ぶんだし〜」 「なんや、またデートか」 「なんだよデートって。山登りだよーだ」 「ふ〜ん」 寝転がる慈郎の隣に腰掛けて、柔らかなひよこ頭をポンポンと撫でてきた。 何やってんだと思ったが、暖かい陽気と優しいタッチが心地よく、されるがままじっと目を閉じて、忍足の好きなようにさせた。 「なぁ、丸井とどこまで行ってるん?」 「……は?」 「恋人―ではないやんな。そういう雰囲気ちゃうし」 「しっつれーな」 「せやけどお前、丸井のことそういう意味で好きなんちゃうやろ」 「どーいう意味さ。オレ、丸井くんのこと好きだよー?」 「好きなんは見ててわかる。けど、丸井とはこういうコト、せぇへんやん」 「ん…っ」 金糸を撫でていた指に力をこめ、ぎゅっと力を入れて軽く引くと、痛みに眉を寄せた慈郎の顎が浮く。 そこへすかさず上から覆いかぶさり、唇をふさいだ。 入れさせないとばかりに真一文字に口を閉ざしたため、そうくるならばと鼻をつまみ数秒…… 「ぶっ…ばか…っ…はぁ、はぁ、苦しいし……んんっー」 やがて息苦しくなり開いた唇に、すかさず忍び込ませて逃げ惑う彼の舌先を絡めとり、吸い上げると組み敷いた肢体がびくっと震えた。 「はぁ、はぁ…っ…もう、何なの、急に」 「なんとなく」 「はぁ?!…ったく」 「ええやろ別に」 「よくねぇし」 「特定のヤツ、おれへんねやろ」 「……丸井くんとはそういう関係じゃねぇけど、だからってオメェとするモンでもねえっしょ」 「そういいなや」 制服のシャツのボタンを器用に上から外されて、すっと入り込んでくる冷たい手に、そのままにするか一瞬考えるも、いくら自分がこういうコトにあまり考えず受け入れてしまうからって、さすがにチームメートは後々面倒。 やっぱりストップとばかりに胸をまさぐる忍足を両手で止めて、首をふってあらがった。 「忍足はヤ」 「…なんで?ジロー、拒まんのちゃうん」 「誰から聞いたのさ、それ」 「さてな」 「……ケンヤでしょ」 「知っとるやん」 「あいつ、まじコロス」 「そう言いなや。あいつも浮かれすぎてうるさくてなぁ、無理やり聞きだしてん」 「……言っとくけど、つきあってねぇし。一回だけだし」 「ケンヤ、遠恋や思とるからちゃんと、きっぱり断ったほうがええで」 「何百回断ったと思ってんだよ」 「せやな」 「……これが最後の告白で、一回だけでいいって言うから」 「んで、抱かれたん?」 「はっきり言わないでくれる?」 従兄弟が浮かれすぎた能天気な電話をかけてきて、惚気まくってくれたおかげで見えてきたチームメートの意外すぎる性格と行為。 沸いた興味で日々観察していたが、寝てるかぼんやりしているか覚醒中は元気いっぱいなお子サマだと思っていた同級生は、どうやらソウイウ面で大変ドライな考え方らしい。 色々と調べた結果、いけると踏んで試しにキスしてみたら、相手は驚くこともなく拒まれなかった。 さすがに続けようとしたら止めてきたけれど。 「…ヤメテ。やんないっつってんじゃん」 「ええやん。同意やで?」 「何が同意……誰もOKしてない」 「なんで?同じ学校のヤツはアカンの?」 「あかんでしょ。ていうか面倒だし、氷帝のヤツとはやんねーよ」 「俺は気にせんよ?」 「オレはヤなの」 「本気で嫌なら止めるけど、まいっかーって思ってンなら大人しくしとき」 「………」 押し黙る慈郎の頬を優しく撫でて、はてさて続き〜とばかりにチェックのずぼんのジップをさげ、中心を愛撫しだす。 しかめっ面で不機嫌そうに睨みつける視線なんておかまいなし、制止が入らない限り進めようとばかりに反応のない慈郎のシンボルに、『俺のテクニック、見せたる』とアホなことをのたまい、ぎゅっと握って強弱をつけては刺激を与える。 「っ…もう、ばか…」 「声出してええよ。誰もおらんし」 「てういか学校でヤんないっつーの」 「じゃ、どっか行こか〜」 「……ヤ。もう、どっか行ってよ……寝かせて」 「好きにするから、寝ててええし」 「アホ。んなことやられて、寝れるか」 「ほら、かたなってきた。気持ちええねんな」 「…ただの生理現象だし」 「じゃ、遠慮なく続けますー」 「あ、ん…っ…」 はぁ。 同じ学校の生徒とは関係持たないと決めていたのに、同級生、しかも部のチームメートとこんなことになってしまうとは。 ただ、それに『絶対にイヤだ』と言うほとこだわりを持っていたわけでもない。 快楽に弱いといわれればそれまでだし、断るのが面倒くさいからと波風たてないよう受け入れる行為が尻軽だと言われれば、それもそれでその通りなので反論もできない(するつもりもないが) (ややこしくなんなきゃいいけど……) 一応、そういう行為をする際は、相手を見極めて割り切れそうなヤツだけにしている。 …のだが、たまに勘が狂い、1回だけの関係を了承しない相手とこじれることがある。 今のところうまく交わしながら、のらりくらりと逃げているのでそこまで執拗に迫られることはなく、複数いる相手も『慈郎の数ある中の一人』と自覚させているのでトラブルになることはない。 ただ、本人はそういう相手―ましてや複数なんて元々つくるつもりもなく、断るための『一回』をOKしてしまい、こじれた結果の『数ある相手』たちだ。 念のため、OKした相手たち ―この男の従兄弟も含め― に言い聞かせる台詞を、一応は紡ぐ。 「一回だけだかんね」 それで謙也は納得したのか問いたいところだったが、電話口で浮かれ調子、花が飛んでいるかのようにふわふわしていた従兄弟を思えば、『割り切れる相手』でないのは明白。 「となると、俺と謙也はキョーダイになるんか。それもイヤやなぁ」 「…っ…あんっ…」 何バカなこと言って―というか、ならこの手をはなせ! 突き飛ばそうとするも思った以上に強い力で押さえ込まれているため、組み敷かれた下から抜け出すことはできない。 それに、楽しそうに笑いながら弄ってくるこの手は、放すつもりも毛頭ないのだろう。 (はぁ…オレ、また間違っちゃったかな…) なし崩しに目の前の男も、数日後には『数ある相手』になってやしないか。 明るくは無い未来にどんよりするも、とりあえずはこいつがいれば大阪のアイツへ、いい断りになるかもしれない。 従兄弟同士の関係がこじれたら? …そんなものは、知ったことではない。 どちらの忍足も、慈郎の言うことなんて結局は聞かないのだから。 諦めにも似た境地で、太陽の光を浴びれないまま、忍足の影に包まれて数十分。 与えられる快感を受け入れ、抗うことなく、…声は抑えつつも、頭の中でひたすらカウントすることにした。 ヒツジが一匹、ヒツジが二匹… 早く、終わりますように。 いつの間にか疲れて眠ってしまい、全ての後片付けを終えた忍足におぶられて彼のマンションに着く頃にはすっかり日も暮れ、目覚めたら見慣れぬベッドの上。 高校から一人暮らしをはじめた忍足の部屋はガランとしていて殺風景。 『勝手に連れてくんじゃねぇ』と悪態つきつつ、すでに家にも連絡されていつのまに泊ることになってしまい、ぎゃあぎゃあ文句を言っていたらまたしてもベッドに縫い付けられて、暗転。 一回だけだって言ったのに…… そんな呟きも何のその。 お構いなしに覆いかぶさってくる男は、一体何を考えているのか。 真っ最中に従兄弟へ電話をかけだし、後ろから突きながら大阪の彼へ『ほら、声聞かせてやって?』なんて笑う顔を見て、本気で勘弁してくれと、とんでもないヤツにOKしてしまった。 深く後悔するも、時すでに遅し。 あ〜あ。面倒くさくなりそ…… ねちっこく攻める忍足を見上げながら、これならまだあっちの忍足のほうがマシだと、照れくさそうに笑う金髪の彼が頭をよぎったが、何百回も断ってきた過去を思えば、どっこいどっこいのしつこさかもしれない。 どちらの忍足もNGだ。 本気で困ったことになったら、跡部に土下座しよう。 『てめぇはまた、面倒くさいこと引き起こしやがって!』 怒鳴られるのは間違いないが、それでも何だかんだ言いながら収めてくれるので。 願わくばそこまでいきませんように。 ― 一晩で満足してくれ ― 頭上の忍足へ、ひとまず祈ることにした。 >>『好き』と『愛』? >>目次 |