臨海学校の怪



臨海学校に肝試しなんて、何てベタなイベントなのだろう。
くじ引きで脅かし役になった生徒も、歩く側になる生徒も。
それぞれ、『今どき肝試しって…』なんていいつつも、いざ始めて見ると意外とノリ気でいそいそと茂みに隠れるもの、仮装しておばけになり切るもの。
作り物だとわかっていながら言葉通りに『肝を冷やし』、悲鳴とともにゴールを目指すもの。


面倒くさいと彼のように、ひと気のない草むらに隠れ、終わるまでじっとしているタイプの生徒も少数だがもちろんいる。
ただ、今まで誰の足音もしなかった、肝試しルートから少し外れた滝近くのスポットに、忍び寄ってくる靴の音。
目を凝らしてよく見てみると、それが見慣れたチームメートのもので、かつあちらはくじ引きで『肝試しに挑戦する側』になったはず。
さらに肝試しはペア制で進むはずが、なぜか一人でふらふらしている。


普段、このチームメートのそばには、常に幼馴染や最強のキング、その従者……と誰かしらガードがいるため、中々ちょっかいを出すことが出来ない。
だが、今まさに目の前に歩いている彼は、無防備にもたったひとりだ。


―チャンス。



「ーっ!」



とぼとぼ歩く彼の前に急に飛び出し、びっくり眼の姿をキャッチ。
ひたすら驚いている彼を抱え上げ、滝の音のする誰もいないスポットへと連れて行った。


「……」

「……」


てっきり、いつものようにコテっと寝てしまうか、ガードを探すかのどちらかだと思ったのだが。



「なに、何か用?」

「…自分、何で一人なん?」


連れ去った誘拐犯ともとれる人物が、中学からの同級生でチームメートだと気づき、彼は当たり前な質問をしてきた。
ただ、のんびりした声とは裏腹に、黒髪のチームメートへ向けるのは、ガラス玉のような無機質な瞳。


覚醒しているときは、いつも笑顔で太陽のようにランランとまぶしい、明るい表情。
ぼんやり寝そうなときは、半分目が閉じていて、ひたすらぼけーっとしている。
だいたい、どちらかだ。

こんな風に、妙に冷静で感情のない瞳で見つめられることは、記憶の中に無かった気がする。


「わかんない。気づいたらペアの人、どっかいっちゃった」

「そんなら、終わるまで一緒にいよか」

「…いいけど」



暗闇の中、唯一聞こえるのは激しく落ちる水の音のみ。
手持ち無沙汰に携帯をいじる彼をじっと見てみると、画面の光が照らし出すのは、薄く開いた口元―



ほんのり見えた赤色が、やけに扇情的に思えた。



後から考えてみれば、『スイッチが入ってしまった』とでも言えばいいのか。
暗闇に浮かぶ赤に心が波打ち、反射的に彼の肩を掴んで草むらに押し倒し、上から覗き込んだ。



「…なに?」

「……なんやろな」

「………なにそれ」

「なぁ」

「んー?」

「やっていい?」

「は?」

「なんか今、キタ」

「…オレはこないけど」

「すんごくヤリたい気分になってん」

「……そのへんの女の子つかまえてくりゃいーじゃん」

「アホ。んなワケいかんやろ」

「オトコならいいわけ?」

「男もあかん。……けど、お前はええやろ」

「……どういう意味?」

「勘、やな。―お前は拒まない」

「……」



眼鏡の奥から真剣な瞳で、じっと組み敷いた彼をみつめる。
無機質なガラス玉は、徐々に色を帯びてきて……

やがて根負けしたのか、一瞬瞳を閉じて深呼吸したと思ったら、カッと両目をあけて面白そうにニヤっと笑った。



「オレ、痛いのヤなんだよね」

「そこそこ上手いから、安心してええで」

「あっそ……ま、いっか」

「オッケー?」

「…一回だけだから。どうせヒマだし」

「じゃ、遠慮なく」

「ただし」

「うん?」


諦めたように一息ついて、ジャージのジップをさげては自ら両足を広げ、忍足の首に両腕をまわしてぎゅっと抱きついた。
自分で誘っておきながら予想外ともいえる展開を歓迎しつつ、進めようとしたら腕の中の肢体が急に起き上がり、反対に押されて巨木に背を預ける形になる。
対する慈郎は………上に、乗ってる?



「オレ、野外で寝ころがるのイヤ。土ついちゃうじゃん」



いつも散々、裏庭だの中庭だの、おかまいなしに昼寝をしてるくせに何言うか。

真意を測りかねて慈郎をじっと見つめると、フっと微笑んで、忍足のジャージのジップを上からゆっくり下げだした。
膝に乗っている慈郎に、そのままシャツの下から両手を差し入れられ、ちょうど胸元あたりで手を止められる。これまた予想外 ―しかし。
続いた台詞に、一瞬思考が止まった。



「忍足が汚れてよ」



オレのジャージ、汚さないでね?
そうやってふんわり浮かべる笑顔はいつも太陽の下で見るものと大差なく思えるが、瞳の奥に見え隠れする情欲が普段の慈郎には無い色だ。

新たな発見……なんて思いつつ、お互いが単なる暇つぶしですが、据え膳は有難くいただきましょう…とばかりに、上に乗っかる彼のずぼんを半分ずり下げて、受け入れるところに指を這わせると『性急すぎ』と呆れられた。


「ん…っ」

「急がんと、肝試し終わってまうやん」

「はぁ…っ…」

「痛かったらちゃんと言ってな」

「用意、いいね…んんっ」


左で慈郎の後ろをまさぐりながら、余った右手でポケットからなにやらチューブを取り出し、器用に蓋をあけてゼリー状の中身を出す。
そのままチューブをポンと草むらに投げて、たっぷり取り出したモノを後蕾に塗り、ゆっくり襞をほぐすように撫でながら、ずずっと中に一本入れて少しずつ塗りたくっていく。


「何があるかわからんやん」

「ゴムも持ってるって?」

「当たり前。男の身だしなみやで?」

「あっそ……んっ…」

「やっぱ想像通り、カワイー声やんなぁ」

「な…に、オレで変なこ…っ、考えんな…」

「なぁ、もう挿れてええやろ?」

「ん…っ…まだ」

「ぐちょぐちょやん」

「…ちゃんと、慣らして」

「はいはい」


すでに右の3本の指を交互に動かしなら、浅く、深く、出し入れしている。
奥をつつくと体が跳ねて、左手で慈郎の中心をゆるゆる扱いてやると、悩ましげに顔をゆがませ、甘い声が耳元であがる。


「なんでこんなに慣れてんのか聞きたいところやけど」

「ああんっ…」

「もう、ええやろ?」

「…っ…」

「挿れんで」

「……ん」


自ら腰を少し浮かせて受け入れる体制をとる彼に、いったい今まで誰とどういう経験をしているのだと問いただしたくなるも、とりあえず目先の快感を追うことに集中することにした。
己の起立したモノを後孔にあて、下からゆっくり挿れていき、先端が入ったところで一気に貫いた。


「あぁぁ…んん…っ」

「くっ…」

「もうっ…急すぎ……ああん」

「…お前ん中、喜んどるやん」

「なに言ってんの…」

「ぎゅうぎゅうしてくるし」

「ん…」

「ゆっくり?それとも、早いほうが好きなん?」

「……」

「せっかくやし、お互い気持ちようなりたいやん」

「……もっと、奥」

「……」

「深く、突いて?」

「……」

「忍足を全部感じられるくらい、激しいの……奥に、ちょーだい」

「……りょーかい」



両膝に腕を入れて軽く持ち上げ、ストンと一気に上から落とすと彼の重みもあり、望むとおり深々と突き刺さった。




まずい。


今まで経験してきたその誰よりも、体の相性がいいとでも言うのか。
適度に締め付けてきて、抜こうとすると襞が纏わりつくように引き止められる。
逆に挿れると、さらに奥へ奥へと誘うかのように中が収縮し、もっと味わいたいと腰をすすめたくなる。


(アカン、はまりそうやな……)


まったく抵抗のない慈郎の姿態を見れば、かなり慣れているであろうことがわかる。
女であるはずがない。
この後蕾の味を知るのが、一体何人いるのか…

または、数あるうちの一人として、自分もカウントされているのか。


気持ち良さそうに喘ぐ慈郎に、聞きたい衝動が湧き上がるも、今この瞬間にそれを問うのは無粋だろう。
とりあえずはこの体を堪能することにして、あとはなすがまま、終わってから考えようと臀部を掴む手に力を込めた。





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