宍戸亮Happy BirthDay!2014

*2014向日誕の後日談


9月初旬に出場した全米オープンテニスの準決勝。
思わぬ怪我で途中棄権した幼馴染は拠点のアメリカでリハビリに励むのかと思いきや、すぐさま来日して実家でぐーたらしだした。
元々は全米大会後日本で少し休養をとって次のツアーへと旅立つ予定だったらしいけど、本人いわく『捻っただけ』な足首は、実は今年いっぱい棒に振るうほどのもので、勝手にアメリカを飛び出してきたアイツは同居人にしこたま怒られていた。

2週間程前、岳人から『いまジローと一緒。これからメシいくから、学校終わったら直行よろしく』と携帯にメッセージが入って、ちょうど仕事が終わったのでそのまま指定されたレストランへ着いたら個室に通された。しばらくすると跡部とジロー、岳人が合流して、その後に忍足も加わって久々に氷帝元テニス部メンバーが揃った(滝はパリに出張中で残念ながら不参加。


―帰るぞ
―帰らない
―戻れ
―嫌だ


最初はいつも通りの二人だったけど、徐々にヒートアップして『アメリカにつれて帰りたい跡部』と『日本でのんびりしたいジロー』の言い合いが始まり、レストランまで車に同乗してた岳人は疲れきった顔をしていた。
顧問を務めている部活も練習が無い日だったから、早めに帰宅してのんびりしようと思ってたんだよな。職員室で準備していたら岳人から連絡がきて、来いと言われたレストランはいわゆる高級店。いつもの俺たちの飲み会や食事会だとああいう高めのレストランは選ばないのでどうしたモンかとつい財布の中身をチェックしたけど、続けざまにきたメールには『タダ飯だから心配すんな。金持ちにゴチになる』だと。よ〜くこっちの心情をわかってるもんだな、さすが幼馴染ってことか?

レストランで名乗ろうとしたら『景吾様よりお伺いしております。こちらへどうぞ』と案内され、すぐさまここが跡部系列の店だとわかった。

…って、景吾様?
日本に戻ってきてるのかよ!?

世界に羽ばたく跡部グループの御曹司は、グループ系列の会社に就職して北米を拠点に世界を飛び回っているらしい。
プロテニスプレイヤーになった幼馴染の最初のスポンサーになったところも跡部んとこのグループ関連会社で、アイツは結局、中学で跡部と出会ってからずっと世話になり続けてるんだな、なんてプロになりたての頃はからかったものだ。
プロなってようやく独り立ち―なんてとんでもない。
そりゃあ試合は一人だし、プロ選手ともなれば周りのサポートは必要不可欠だけど、アイツの場合はちょっと違うんだよな。アメリカではどっちがどっちに合わせてんだか知らないけど、ジローの練習拠点のテニスコート近くにマンション借りて、そこで同居だろ?しかも跡部の職場も近いっていうし。『跡部の会社付近のテニスコートを拠点に置いたジロー』が先なのか『ジローの練習場近くの支店を勤務地に選んだ跡部』なのか。
とにかく、中学の頃からジローの面倒を見ていた跡部は、大人になっても立場を変えずについには同居ときたもんだ。


個室とはいえレストランで言い合いを始めて、その内容が『アメリカへ戻れ』だの『今年は日本でのんびりするC!』だの。
いつもなら仲裁に入る岳人がじっと黙っているから、どうしたんだと聞いてみればレストランまでの道中、車内で散々した争いでもう面倒くさいから放っておくとひたすら豪華ディナーを平らげていた。
遅れてやってきた忍足が『はいはい、二人ともええかげん落ち着けや。夫婦喧嘩は犬も食わんってなー』なんて間に入って、跡部とジローから冷たい視線をあびていた。
滝はあいにく出張で参加できなかったけど、久しぶりに気心知れた同級生で集まれて何だかんだで楽しかったな。

ジローと跡部はアメリカにすぐ戻るんだろうしそうなったらまた会えるのは年末かもっと先か、という予想は大きく外れた。そしてジローが大人しくついていかなかったのは跡部も予想外だったらしい。
といってもアイツが素直に聞くわけは無いんだけど、いつもならギャアギャア言いながらも結局跡部の言うとおりに収まるところが、今回はやけに意地になって『帰らない!』といって聞かず、レストラン出る頃には岳人にしがみついていた。


まぁ、何というか。

てっきり跡部に引きずられてすぐにアメリカに戻ると思っていた幼馴染は、何故か実家で始終寝ていたり、フラフラ歩いては『ジローちゃん、久しぶりだねぇ』なんて商店街のアイドルっぷりを見せ付けたり、ストリートテニス場に顔を出しては『あ、芥川選手!?』とテニス少年たちを驚かせている。
まったく、何やってんだかな。







「ししーどせーんせい」

「お前っ、急に来んじゃねーよ」



―来るなら来るで前もって言え。そしてラケットを持って来い!


勤務先は母校の氷帝学園高等部で、いわゆる高校教師ってヤツをやっている。
ちょうど赴任した年は残念ながらテニス部には他の先生がついていて、たまに休みの日や時間があるときにコーチングや手伝いをしたり、中等部のヘルプ要因として今も顧問をつとめている榊先生に呼ばれてラケットをふったりしていた。けど、今年になって高等部テニス部顧問が他校へ異動したため、わりとすんなりと後釜におさまり、春からは正式なテニス部顧問として毎日放課後は部活、休みも部活、試合、遠征の毎日。中学時代の恩師、榊先生の顧問っぷりとはだいぶ違う気がするけど、まぁ自分なりにやれることはやっているつもりだ。

高校の頃は団体戦全国準優勝の氷帝学園テニス部でレギュラーをつとめたし、チームメートには個人戦全国優勝した、今はプロテニスプレイヤーとして活躍する幼馴染がいる。高等テニス部の部室にはその頃の写真が飾られているので、最初にこのテニス部に顔を出したときから、生徒たちは俺のことを知っていて何だか不思議な感じだったけど、そのおかげで顔と名前覚えられ、馴染むのもあっという間だった。

高校時代の団体戦全国決勝はかなりの接戦で、結果は負けたんだけど跡部のいなくなった氷帝で、決勝の舞台までチームを引っ張り続けたのはアイツだ。中学の頃しょっちゅう寝ていたのなんて嘘みたいに、高校生になったジローは毎日ストイックに練習に打ち込んで、高校二年の夏の大会は団体戦準優勝、全国個人優勝と華々しい結果を残して、年明けには渡米していった。
しばらくしてプロテニスプレイヤーになり、小さな大会だけどついに優勝したときは岳人と二人で抱き合って喜んだモンだ。
(試合の放送はもちろん無くて、試合の録画を後日跡部にデータ転送してもらって、部室で皆で鑑賞した。高校3年の夏だったかな)


最初は確かコーチの自宅にホームステイしていたはずなのに、いつの間に跡部のマンションで同居していて時は驚いた。というか跡部は英国にいたはずで、そのまま大学も英国って聞いていたんだけどな。在籍は英国の大学て、生活はアメリカ西海岸でジローと一緒ってところが意味がわかんねぇけど、単位取っていればどこにいようが基本的には問題ないらしく、大学時代の跡部は割と自由人だった。在学中に『暇だから』と会社始めるあたりがアイツらしいというか、何というか。あれよあれよと大きくなっていって、気づけば社員数百人を抱える企業に成長して、頃よいところで跡部グループに『売却』して会社代表をおりたところもらしいっちゃらしいけどよ。


『遊びは学生で終わりだ。俺様も社会人なもんでな』


しょーがねぇオレサマだな。
抱えてる数百人のスタッフどーすんだよ。

けど、ちゃんとアフターケアがばっちりなところもアトベサマで、そのへんは抜かりが無い。
正当な手続きを経て、雇用している社員全員が次の経営者の元でも引き続き働けるようにケアしていたので、社長の退任を残念がる社員はかなり多かったらしいが文句や退社するスタッフはほぼ出なかったんだと。
元々が年棒契約制、出来高制で日本の一般企業のように安定しているわけではないらしいんだけど、スタッフも皆優秀な人たちばかりというので、経営陣が変っても跡部グループの傘下に入ったことによりあの会社は今やより成功している。

そういや大学時代、1年休学してアメリカ西海岸に留学していた忍足は、跡部の会社でこき使われていたな。バイトかと思いきや『学生ビザやで。こういう会社でバイトは禁止やし…』ということで社会勉強の名目でほぼタダ働きしていたようだけど、聞けば滞在中は跡部とジローの部屋に世話になっていて生活費がかからなかったから大助かりだったんだと。
忍足のおかげで1年間は家政婦がいらなかったらしい。


とまぁ、色々あって今は跡部は会社員、ジローはプロ選手、そして忍足は研修医で忙しい毎日を送っていて、俺は教師として通いなれた氷帝学園が勤務地。
毎日練習を重ねたテニスコートも、今は『教える側』として立っているってとこが何だか不思議な気もするけど。


「せっかく来たなら、コート入れよ」
「手ぶらだもん」
「なんで持ってこねーんだよ。てか何しに来た?」
「えぇ〜?久しぶりに母校の見学をしに来たんだC〜。りょーちゃんもいるから」
「亮ちゃんはヤメロ」


職員室を出てテニスコートへ向かう途中、聞きなれた間抜けな声に呼び止められた。
振り返ればもちろん幼馴染のアイツで、最近あちこちフラフラしていると岳人に聞いてはいたが、今日はここなのか。ていうかせっかく来たんならうちの連中にアドバイスでもしたもらうか……ってダメだ、こいつ手ぶらだ。何でラケット持ってねーんだよ。


「おい、ラケットは?」
「えぇ〜?散歩中だよ。持ってるわけないし〜」
「ないしーじゃねぇ!お前、ストテニにはラケット持ってうろついてるくせに、ここのテニスコートに何も持ってこないってどういうことだよ」
「オレ、怪我療養中だもん」
「ストテニで色んなヤツを打ち負かしてるって聞いてるけどな」
「ストリートは遊びだC〜。軽く打ってるだけだもん」
「あーそうか。ならコート入れ」
「えぇ〜?」


さっきからチラッチラと生徒たちが見てんだよ。
ラケット持っていなくても、ウェアを着ていなくても、前の全米大会は日本でも大きく取り上げられたこともあってコイツの名前と顔は有名だ。なんせベスト4に二人も日本人が入っていて、一人は氷帝出身だからな。この前の氷帝学内新聞でも特集組まれて『当時のチームメート、テニス部顧問宍戸先生の語る芥川選手とは?』なんつーインタビューも受けたし…。


「ラケット貸してやる」
「う〜ん、どうすっかなー」
「うちの連中、見てくれよ」
「…宍戸から見て、どう?」
「1年でいいのがいるんだ。目標は、越前選手だとよ」
「へぇ〜、どのこ?」
「Eコートでサーブ練習してる。ほら、あそこの―」
「ほぉ〜」
「そこらへんの2,3年より強いから、ちょっと調子にのっててなー」
「跡部ってこと?」
「あんなのが二人もいたら怖ェだろ。あそこまでじゃねーよ。アレに比べれば可愛いモンだ」
「なに?あの子の相手すればいーの?オレ」
「おー、鼻っ柱へし折ってやれ」
「ふーん。ま、いっか。じゃ、軽くね。終わったら久々に打とーよ」
「あのなぁ。俺は先生だぞ。部活中に学校のコートで顧問と部外者が打つっておかしいだろ」
「部外者だって……ヒドーイ」


幼馴染とはいえプロテニスプレイヤーに、高校生の相手をお願いするのは………といってもコイツなので別に頼みづらいことも無く、一応は怪我でリハビリ中のはずだから練習を見てもらうだけでもいいんだけど、フラフラしながらストリートテニス場でラケットぶんぶんふってると聞くし、本人も『別にへいき〜』というから、この際お願いすることにした。

氷帝学園テニス部の有望株を面白そうに眺めているけど、コイツの興味は俺と久しぶりに打つことの方が優先らしく『1セットでい〜い?10分くらいかなー』なんてシレっというので、叩きのめせと言っておきながら何だけど、つい『お前はプロだろーが。いたいけな高校生に勝とうとするんじゃねぇ!』と叱ってしまった。


「え、あ、あ、あの…あくた、がわ、選手…?」
「うん。芥川ジローです。よろしく」
「は、は、はい、、、え、し、宍戸、先生…?」
「よし、1セットマッチ。サーブあげるね」
「え、えぇ?」


あーあ。
完全にのまれている……まぁ、無理もないか。
全米で途中棄権したとはいえ、目の前のほわほわしたヤツは、今ノリにのっているプロテニスプレイヤーだ。
しかも『憧れの越前選手』をクレーコートで破った男で、この氷帝で一番有名な卒業生。つい最近氷帝新聞でデカデカと顔写真が載っていたしな。


「全力でぶつかって、1ポイントでもいいから取ってみろ」
「え、え、先生、おれ、芥川選手と、試合、です…か?」
「お前が嫌なら、他のやつに―」
「や、やります!!」
「よし。頑張ってこい。コートに入れ」
「はい!」


恐る恐る、けど嬉しそうにラケット抱えて走っていく生徒を眺め、隣の幼馴染にお前も早く行けと急かすと『えぇ〜、行ってよしじゃねーの?』って……さすがにソレは言わねーよ。


「いってきま〜す。宍戸。オレサマのびぎに酔いな!」
「……氷帝コールでもしてやるか?」
「えへへ、勝つのは氷帝!」
「勝者は芥川ってか……言い辛ぇな。やっぱ勝者は跡部!か?」
「ぶー、勝者はジロー、でいいC〜」
「はいはい」


それをやるからには破滅へのロンドでもかましてこいと背中を軽く叩いて、コートへ送り出した。
久しぶりに生で見るジローの試合、か。
といっても相手が高校生なのでジローにとってはお遊びのようなモンだろうが………って早速、鮮やかなリターンが決まった。キレイなフォームだな。ジローの打ち方は少しクセがあるんだけど、周りのギャラリー(テニス部員たち)に見せている試合ということを意識してるのか、基本の忠実なフォームでやっていることが珍しい。
アイツもああいうふうに、考えてプレーすることが出来るようになったんだな。

……プロ相手に言うことじゃ無いんだろうけど。

ラケット持ってない普段のジローは小さいころから殆ど変ってないから、テレビで見る試合中のジローと違いすぎるんだよな。俺の頭ん中には、まだまだ学生時代のジローの印象の方が大きいってことか?


あっという間に4本のリターンを決めて1-0か。
おーおー、容赦ねぇな、アイツ。ジローのサービスゲーム……おい、キックサーブかよ。『憧れが越前選手』って伝えたからか?
この調子で2-0になったら、ちょっとブレイクしてジローに説教、いや、ハンデをつけるか。


昔からだけどアイツは手加減ってモンが出来ないんだよな。
何度も勝負を申し込んでくる日吉を、ボロッボロにしていたし(高校時代、特に)。


…若に連絡してみるか。
アイツは今も、休みの日はテニスしてるし、長太郎ともたまにATOBEジムで打つと言っていたしな。
久しぶりにジローと打つといったら、仕事でもない限り絶対に来るだろう。


よし、決まり。


携帯を取り出して、若と長太郎、この前は出張で会えなかった萩、ついでに岳人。
思いつく限りのテニス部メンツを集めてみようと皆にメッセージを飛ばした。

研修医はどうするかな。
毎日忙殺されていて、休みの日はほぼ寝ているというから連絡取れないかもしれないけど、一応メールしとくか。

となればストリートテニス場よりもATOBEジムが最適か。よし、予約を入れておこう。
何となく榊先生にも連絡を入れたら、意外にも来ると返事をもらったので、こうなればテニス後は同窓会だな。



『行きます。集合はジムでいいですか?それとも学校?今日こそ芥川さんに勝ってやりますよ』
―相手がジローとはいえ、プロ相手にも若は若だな。

『お久しぶりです、宍戸さん。もちろん参加させていただきます!仕事終わったらまた連絡します』
―早いな長太郎。仕事中じゃねぇのかよ。

『この前は出張で皆に会えなかったからね。もちろんいくよ。跡部のジムでいいよね?』
―滝もオーケイ、と。

『定時で終わらせて合流する。終わったらどーする?メシ、どっか予約しとこうか?』
―頑張れよ岳人。そして予約も頼む。

『ええなぁ、テニスか。久しくラケット握ってないなぁ。もー毎日毎日こき使われて、繊細なハートがボロボロ―』
―よし、忍足は不参加だな。
『ちょお待ち!何やねん、俺だけ仲間はずれて酷っ……ATOBEジム行けばええのん?』
―来るのか、珍しいな。ていうか今日休みなのか、アイツ。


結果的には中学3年の頃、団体戦レギュラーをつとめたメンバーがほぼ揃うことになった。
跡部と樺地がいないことが残念だけど、まぁ年末にまた集まれるだろ。


……いつのまに4-0に。
よし、ちょっとブレイクタイムだな。


「おい、ジロー!」


残りの2ゲームはなるべくラリーを続けて、うちの有望株の弱点を洗い出してくれと頼むことにしよう。
『えぇ〜?めんどいC〜』が出たら、この前女子生徒から貰ったポッキーで釣ってみるか。
紫いも?
新作らしいし、ジローの好きなムースポッキーっぽいヤツだから、まぁ大丈夫だろ。

ラケットくるくる回しながら、ひょこひょことこちらにやってきた幼馴染の変らないふわふわした天パを、ひとまずポカっと叩いて注意することにした。





(終わり)

>>目次

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宍戸きゅん、Happy Birthday 2014!

数週間前の岳人くん誕生日の後日談。
結局、芥川選手はアメリカには帰らず、そのまま日本での滞在を楽しんでいるようです。
そしてジャパンオープンは宍戸さんらとともに観戦に行って、日本人選手の優勝を見届け、何だかんだでエンジョイしております。
男子シングルスの優勝は、果たして全米覇者の越前選手か、はたまたランキング1位の手塚選手か。どっちだったかな。

まだまだのんびりするという慈郎くん。
いったいいつ、跡部さんの待つアメリカに帰ることやら。



>>>さらに後日談(2014手塚誕)


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