切原赤也のサンノゼ道中



サンフランシスコ市内から車を走らせること3時間ちょっとばかり、ひたすらフリーウェイを突っ走り、南下しながらサンノゼ方面を目指す。
市内からサンノゼまでは、カルトレインと呼ばれる電車も走っているので、それで移動してもよかったのだけど、時間に縛られず思いついたまま遊んでみたい、と意見が一致したためレンタカーを数泊借りることにした。
なので、サンノゼで遊んだ後は適当にご飯を食べて、そのままサンフランシスコ市内に戻ってくればオーケイ、ということで。

一口にサンノゼ、といっても特段思いつくものもなくて、シリコンバレーのお膝元程度の知識しかなかったのだけど、西海岸を拠点にプロテニスプレイヤーとして活動している共通の友人・越前リョーマに聞いてみたところ『遊園地あるよ』との一言で、一応の目的地を決めてアクセルをぶっ放した。

いわく、『絶叫系だらけの遊園地』とのことで、それって日本でいう富士急?と聞いてみたけれど、あいにく越前は富士急に行った事がないらしく、『よくわかんないけど、とりあえずぐるんぐるんまわるアトラクションばっかりがある』と言われた。
他に、スタンフォードにショッピングモールがあるし、やれ○○の地域に●●があってー、ととりあえずはサンノゼ周辺の情報収集は全て越前経由で済ませた。

『基本的に週末しかやってないから、行く曜日は注意したほうがいいッスよ』

遠くアメリカ在住の友人の忠告に従い、開園時間もバッチリ調べての来場だ。
確かにホームページでスケジュールをチェックした際に、営業時間が土日か金〜日のみで、平日はほぼ閉園していることに、日本では考えられないと二人して驚いた。


「フライトデックいこ!」

「…なんかアレ、サンダル脱げそうで怖いッスね」


ウキウキと目を輝かせながら、パンフレット片手に恋人が指差す先には、足元がぶらんぶらんと宙にういているジェットコースター。
椅子に座り上半身のみガードでホールドし、膝から下は空中に投げ出しているのでスニーカーならともかく、かかとの開いているサンダルを引っ掛けているだけの状態だと、脱げそうでコワイのが正直なところ。


「あはははは!!」

「早ぇ〜っっ!!」


猛スピードでコースターがぐるんぐるん廻るなか、スニーカーをばっちり履いている金髪の方はひたすら笑っていた。
対して、サンダルを手に持って落ちないようにしたらしい黒髪の方は、楽しみつつもやはり胸にかけたサンダルがスポっと落ちてしまわないかで意識が分散したようで、始終ハラハラしていた。


オーソドックスなローラーコースター、ザ・グリズリーに、北米一の高さと速さを誇るらしいコースター・ゴールドストライカー
俗に言うフリーフォールなドロップ・タワー、他にぐるんぐるん廻る系なデリリウム、ティキ・トゥエル…


一通りのアトラクションを楽しみ、一周したところで休憩のためパーク内でコーラとセブンアップをゲットしてベンチに腰掛ける。


「は〜、いっぱい乗ったねぇ」

「久しぶりっすね、遊園地も」


男二人で夢の国……は少し行きづらいかもしれないけど、絶叫系遊園地なら何のその。
金髪ふわふわの方は、夢の国の雰囲気もキャラクターもこのうえなく似合っているので、彼と行くのであればたとえ男二人だろうが違和感が無いのかもしれない。
ただ、年上の恋人は可愛らしい外見と雰囲気とは裏腹に、中身は意外と男らしい。
絶叫系のアトラクションも顔色一つ変えないし、お化け屋敷も涼やかな表情ですたすた歩く。
フリーフォール等の高いところもへっちゃらで、大磯ロングビーチに行ったときは10メートルの飛び込み台から躊躇せず飛び、しかも回転とポーズまで決めて喝采を浴びていた。
富士急ハイラ○ドのホラーハウスにトライしたときは、正直切原としては入りたくなかったのだけど、それ以上に芥川がどう反応するかが気になって、一緒に入ることにした――ことを後悔したのは、はいって5分もしないうち。
恐がってしがみついてくる年上の恋人……というシチュエーションをちょっぴり期待していたのだが、声ひとつあげずスタスタと廊下を突き進んでいき、後ろでポカンとしている切原を置いていこうとしたことは忘れもしない。
逆にこういうモノが苦手な切原の方が、最初は強がっていたけれど。。。結局は芥川の腕をガシっとつかみ、一時も離れず最後までくっついていたという。

『なんて俺、これに入ろうって言っちゃったんだろう…』

ゾンビに脅かされながらも病棟を駆け足で、泣きベソかいて芥川にピタっとくっついていたときに、ふと後悔したんだとか。
以来、ホラー系は入らないよう心に決めた。
幸い、ここグレートアメリカは絶叫系メインで、日本のようなお化け屋敷は無いので心配することはない。

芥川としても、ホラーハウスが好きなのかは謎だが、暑い時期だと『涼みに入ろうよ』と言ってくることがあるため。
(全力で拒否するのだが)


「一通り乗ったし、これからどうする?」

「そうっスね。まぁ、もうすぐ15時だし、移動します?」

「越前がおすすめしてた、スタンフォードのショッピングモールにでもいこっか」

「ちょうどいい時間ですかね。店みて、夕飯にするか」

「イタリアンレストランが美味しいって言ってたもんね」


これからの過ごし方も決まったところで、残りのドリンクを片付ける。
パンフレットを眺めながら、グレートアメリカ内にある遊園地以外の施設に目を走らせている芥川をチラっとみて、小さく『ごめん』と呟く。


「どうしたの?赤也」

「ジローさん、プール入りたがってたっしょ」

「まぁ、大きいし色々スライダーもあるから楽しそうではあるね」

「…すんません」

「……まぁ、どうしても入りたいワケじゃないから、いいよ」


グレートアメリカには遊園地パートの他に、ウォーターパークがあるため夏場はプールに訪れる客も多い。
スライダー類も数多く設置されているので、越前から『グレートアメリカ』を紹介された際にチェックしたホームページで、何ならついでにプールも入ってきてもいいな、と遊ぶ候補に入れていたのは確かだ。
そのために水着もスーツケースに入れていた。
ただし。


「俺、すっかり忘れてて、つい」

「あーかや。大丈夫だから。プールはまた今度、日本戻ったら、いこ?」

「……」

「何なら海いく?湘南でサーフィンでもしよっか」

「…うん」


久しぶりの旅行に浮かれていたのか、到着した日の夜、二人っきりのホテルでやることといえば……

『あとつけちゃダメだよ?プール入れなくなっちゃうし』

確かに彼はそう言っていた。
まだじゃれ合っている段階で、笑いながらそういって切原の黒髪を撫でていた―のだがその1時間後には行為が本格的になっていき、夢中になりすぎたとでも言おうか。
気づいたら彼の肌、一面にはっきりソレとわかる痕をあちこちに残してしまい、どうやっても隠せない部分にも散らしてしまっていた。
ともすれば首元もシャツで隠せない部分に残ってしまった痕を、翌朝鏡をみながら困った様子でボタンを上までとめて『とりあえずコレでいっか〜』なんて苦笑していた彼に、ひたすら申し訳なくなり謝り倒した。


「じゃ、移動しよっか」

「はい」


パーキングに戻り車のドアを開けると、モワっと生ぬるい空気が体を駆け抜ける。
瞬間最高気温が40度に達するか否かな夏日で日差しも強いため、数時間野ざらしにされたレンタカーは熱気がこもった状態だ。
すぐさま窓を全開にして、少しでも温度を下げようと冷房も最大に風量を変える。

朝早くから運転手として数時間頑張ってくれたからと、帰りは運転席へ座ってくれた年上の恋人の申し出を有難くうけて。
フリーウェイにあがり北上、来た道を少しばかり戻っていく。
目的地は友人・越前にすすめられたスタンフォードのショッピングセンターだ。

人気のイタリアンレストランで、少し早めの夕飯を楽しんでサンフランシスコ市内へ戻ろう。
何ならそのまま、ツインピークスの上から市内の夜景でも眺めようか。幸い、天気は晴れていることだし、霧の街といえども本日くらいは山頂から素晴らしい夜景が望めるはずだ。
誰もいなかったら、夜空の下で煌びやかな夜景を背景にコイビトを抱き寄せて……が、もし観光客で溢れていたら、車の中でイチャイチャすることにして。

昨晩の反省点も踏まえて………ホテルに戻ったら、風呂上りのコイビトに全身マッサージでも施して、旅疲れを癒してやろう。
コイビトのほうがマッサージが上手いのだけど。

絶対にヘンなことはしない……つもり。
いや、変なことなんて何も無い。
愛の営みであるからして。


マッサージで、コイビトががフニャフニャになってくれたら。。。求めてくれたら、いいことにしよう。
きっと、困ったように笑って、『いいよ、赤也』と言ってくれるはずだ。
たいがいのことは許してくれて、受け入れてくれて、甘えさせてくれる。
甘えたな自分にはこのうえなくピッタリなパートナーで、許容量はハンパなく、底が見えないくらい優しくて何でも叶えてくれる人だから。



…が。


一番肝心なことを忘れていた。



「…ジローさん?」

「ん……」



全身全霊を込めたマッサージは、確かにコイビトは喜んでくれて、何度も『ありがとう』と繰り返してくれた。
旅疲れも昨晩の疲れも、多少は解れたのだと思う。

ただ。


「どーすっかなぁ……」

「Zzz…」



そう。
ふかふかで寝心地のいいベッドのうえで丁寧にマッサージなんぞ施したら、結果なんて目に見えすぎていた。
ただでさえ横になって瞬時に意識を飛ばせるコイビトだ。
ソウイウことをするときは寝ないけど、それでも普段、ちょっとした時間とスペースがあれば、すぐに目をトロンとさせてコテっと寝転んでしまう。


ゆっくりと寝かせてあげたい想いはある。
昨夜激しくしてしまったし、後半は辛かったはずなのに付き合ってくれたし。
今朝は鏡をみて自身の上半身に驚きながらも怒らなかったし、『しょうがないか〜』と笑ってくれたし。


でも、起こしたい気持ちもある……正直、そっちのほうが強い。
だって、まだ夜10時もまわってないし。

たとえソウイウことをしないとしても、もう少しくらいはベタベタしていたいし、いちゃいちゃしたいんですけど……。


「うぅぅ〜」


気持ち良さそうに眠っている彼を起こすのは気が引けるし、無意識の相手に邪な気持ちで近づくのもどうだろう。
それで起きてしまったとしても、きっといつものように眉をハの字に寄せて、困ったように微笑みながら『しょーがないね。おいで、赤也』と受け入れてくれるだろう。

ただ、少しばかりの良心が、彼の肌に手が伸びそうな己を自制しているのであって。


悶々と悩みながら、時計の針だけが進む、切原赤也・サンフランシスコの夜だった。





(終わり)

>>目次

**********
世界を旅するプリガムレッド、赤也のサンノゼ編。
これといって起伏があるわけでなく、起承転結があるわけでもない、切ジロの旅行の1シーン短編です。起伏をつけようかとも思ったけど、途中でもういっかーとアッサリ終えただけともいえる>え。
(台北編もそんな感じでしたけど。ブンジロだけちゃんと書いて、あとの2人は適当……あ、いや。その。
適当というか、こう、旅の1シーンをただ切り取っただけの、特にオチも何もない短編というかー
…いや、『世界を旅する〜』シリーズは、特に何かあるわけでもない、ただの旅の1シーンを描く、起伏のないアッサリした『短編』なのです…)
グレートアメリカはほぼ絶叫系しかないんじゃないか?というくらい、コースター揃いの遊園地です。西海岸の富士急?みたいな。
のわりに開園時間というか、営業しなさすぎじゃないか…?な営業時間・期間にびっくりするという。
ジロくんの背中にぴったりついて裾をつかみ、戦●迷宮(富士急)の病棟廊下をビクビクしながら歩く赤也が書きたひ。。。
いや、読みたい>え。



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