ああ、なんだか体が思うように動かない。 意識もぼんやりしていて、しゃきっとさせたいが鉛のように重い体は脳の『動け』という指令をまったく聞いてくれない。 (そんなにヘトヘトになるまで体を動かしたか? てういか、昨日部活あったっけ…?) 薄ぼんやりしているためか思考がクリアにならず、前日の行動を思い出そうにも何もでてこない。 単純に、ああ、夢かな……と思えど、朦朧としているとはいえ夢の中でこんなに意識があるものなのか。 それとも、寝る寸前でうとうとしているのか?…くらいは考えられる思考の中、部屋の奥で何かが動いた気がした。 落ちそうで落ちない両目を、物音のする方へ向けてみると― (ああ、これは夢だ…) 寝ぼけているわけじゃない。 これは自分がいま、見ている夢なんだ。 だから、こんなにも体が重くて、自身の実体をあまり感じられなくて……言うことを聞かないんだ。 だって、夢に決まってる。 大事な恋人が艶かしい声をあげ、頬を上気させて自分以外のやつと抱き合っているなんて。 「あ…んっ…」 「慈郎先輩…っ」 「もっと…!」 「はいっ…」 「あぁぁん…っ…」 「奥がいい?それとも、浅いところが気持ちいいですか?」 「おく…きて…っ、ん…」 (そう、ジロくんは抱きしめながら深く突いてやると、たまらなくなって甘い声をあげるんだ。 そのままゆっくり揺らすと悩ましげな、可愛い声を聞かせてくれるし、激しく揺さぶると耐え切れず泣きながらよがる。 今みたいに。) 「激しいほうが好きみたいですね」 「あぁんっ…はぁ、はぁ、やっ…」 「イヤじゃないですよね。ほら、こんなに」 「ふぅ…んん…っ、あぁん」 「奥がきゅうきゅう言ってます。もっと欲しいってー」 「やっ…おおとりっ…ゆっくりぃ…」 深くゆっくりとグラインドしていたが、何を思ったのか突如動きを変えて激しく打ち付けると、下で可愛らしく喘いでいた声も途端に高くなり、荒い吐息だけが響く。 「俺はどっちでも気持ちいいんですけど、慈郎先輩は早いほうが好きですよね」 「やっ……はげしいの、だめっ」 「ダメじゃないでしょ。ほら、こうやって早くすると」 「ひぃっ、あぁぁ」 「慈郎先輩の中、ひくひくしてギュって締め付けてきます」 「言わな…で……あんっ」 「可愛い」 そう、大事な恋人はいつでも可愛い。 元気いっぱいな太陽のような笑顔も、ハツラツしたところも。 夜に抱き合うと、恥ずかしそうに照れるところも、はにかむ顔も。 もちろんアノ時の表情も、全てが可愛い。 そんなの、お前が言わなくても、誰よりも自分がわかっている。 恋人を組み敷いている男を睨みたい、引き剥がしたい、殴りたい。 怒りで支配され、危うい衝動が体中をかけめぐる。 ただ、どうしても足が縫い付けられたかのように動かない。 いや、自分はこの場に存在していないのか? 交じり合う二人はもがいているこちらに目もくれなければ、端から存在していないかのように二人だけの空間で睦みあっている。 これが、『夢』というものか。 「あ、あ、ううんっ…」 「っ…だしますよ」 「ああんっ…ちょうたろっ…」 (出すんじゃねぇっ!!!) 彼の中で果てていいのは自分だけだ! …なんて丸井の願いも空しく、芥川の最奥で猛りをぶちまけた鳳は、満足げに微笑んで彼をかき抱いた。 U17選抜合宿では芥川とともに何かと一緒に行動することも多く、ドツボにはまっていた彼を気にかけ、見守っていた。 スランプを抜けた鳳は、ふっきれた笑顔で『丸井さん、ありがとうございます!』とさわやかに礼を述べ、うち(立海)にはいないタイプだなと笑ったものだ。 ある意味、可愛がっていた―と言えなくも無い、他校の後輩。 礼儀正しい好青年で、ただひとつの曇りも無いようなまっすぐな性格。 そんな彼の、こんなシーンを見るなんて。 (ごめん…) 自分の夢の中とはいえ、鳳長太郎という純粋な彼のいけない部分を見ているかのようで、一気に申し訳ない気持ちになった。 薄ぼんやりとした思考の中ではっきりと浮かび上がる罪悪感が、やけにリアルに感じる。 ああ、何て夢だ。 >>次ページ >>目次 |