丸井の五感



顔?まー正直言って、可愛いだろ。
欲目を抜きにしても、世間一般から見ても、可愛いのは間違いない。
髪の毛はふわふわでさわり心地いいし、なんか子供みたいな、太陽みたいな、公園みたいな、なんか、日向のニオイがするんだよな。
パッチリ目でくりくりしてっだろ。起きてるときはまんまるな目でじっとこっち見たりして、めちゃくちゃ可愛いし。
身長の割りには細身だけど華奢でもねぇし、筋肉もキレイについてるからバランスいいよな。
なんといっても笑顔!これはアイツの代名詞といってもいくらい。
ハツラツ元気な笑顔、寝起きのはにゃっとした柔らかな笑顔、お菓子食べてるときの幸せな笑顔…あいつの笑顔にはみんな癒される。


髪の毛だけじゃなくて、肌もすんごくさわり心地い〜んだよなぁ。
なんつーの?シルクの肌触り的に、ずっと撫でてたい感じ。
ビーズクッション?のつるつる感に感動したときを思い出すっつーか、頬、首筋、腕、胸、腹、太もも、足……ま、全部ってことだな。
腕枕して寝るのも中々に翌朝しびれることもあるけど、一晩中触っていたいからしょーがねぇ。
抱きしめて寝ると、たまに蹴られんだよな。
ほとんど無意識なんだけど、たまに起きてて『暑いCー!邪魔ー!!』なんて言うんだからヒドイよな。
目隠ししても触れば一発でわかるってくらい自信ある!


たいがいいつも洗いたての洗濯物のにおい。柔軟材?
あいつんちクリーニング屋だからかもしんねーけど。
お日様の下で乾かしたタオルみたいな、あったかいにおいがする。
お菓子のにおいのときもある。甘いキャラメルみたいなときは、実際にキャラメルポップコーン食ってた。
メープルシロップとバターのにおいのときは、パンケーキショップでお茶してきた帰りだった。
みたらし団子みたいな砂糖醤油の美味しそうな香りがしたら、案の定、団子やで作りたての団子を買い食いしたらしい。
ニオイがうつりやすいのか謎だけど、あいつの柔らかな髪の香りは、その日は何のお菓子を食べたかわかるようになってるらしい。


かといってみたらし団子食べた後に会って、ちゅーしても砂糖醤油の味はしない。
不思議と髪からは甘いニオイがただようのに、口の中はミント系だったりイチゴ系だったり……つまりはその時食べてる飴かガムの味がする。
口寂しくなるとミントやら飴やらガムやら、とりあえず口に入れている、のは俺も一緒だけど、でも、たまにドリアン飴やゴボウ飴みたいな、よくわかんねぇモン食ってるときもある。
アイスやケーキは割りと定番なものが好きなくせに、飴やガムみたいなお菓子に関してはチャレンジャーなんだよな。
風呂上りのキスは、ホットミルクのような、子供のような、赤ちゃんのような。そんな懐かしい味と香りがする。
ほら、弟たちがまだ小さいからさ。あいつらみたいな純粋なニオイっつーの?これ言うと拗ねるんだけどさ。子供じゃねぇ!って。
ボディシャンプーがミルク系だからだって言うんだけど、同じのつかっても俺はそんなニオイしねーもん。あいつ独特のものなんだろうな。


『まるいくん!』
待ち合わせで会うたびに、心地いいミドルトーンとはっきりした元気いっぱいの声で呼ばれる……いや、叫ばれる、か?
『まるいくぅぅぅん』
何かしでかしたときには、眉を寄せて泣きそうな目で、情けない声色で頼ってくるのがたまらなく可愛い。
『まる…いっ…くん』
アノ時でも苗字呼びを崩さないアイツの中で、俺は『丸井ブン太』ではなく『丸井くん』なんだなと思うもたまには名前で呼んで欲しい。
いいかげん、名前で呼んでもよくねぇ?といくらいっても、恥ずかしがって呼べないらしい。可愛いヤツだな、ったく。




ああ、もう。
全ての感覚が、アイツでいっぱいなんだ。










「ジャッカル先輩、あの…」

「声を出すな。……絡まれるぞ」

「いや、あの。あそこの人、何言ってるんスか」

「……五感、回復中なんだろ」

「さっきまで幸村部長と打ってたんスよね?」

「ああ。ちょっと前までは感覚麻痺してたんだけどな」

「で、ああやって元に戻してるんスか?ていうかアレで戻るのかよ」

「ブン太はアレで戻るんだよ…」

「さっきから何回も出てくる『アイツ』って」

「一人しかいねぇだろ」

「…そーっスか」

「近づくなよ。絡むんじゃねぇぞ。後々面倒くせぇから」

「でも、自分の世界に入り込んでるッスよ?」

「一歩でも近づいて声かけてみろ。延々と五感の話を聞かされ続けるぞ」

「五感の話って…」

「最終的にブン太の五感は全て『アイツ』に行き着く、という話だ」

「……絡んだんスか」

「好きで声かけたワケじゃねぇ!ブン太があまりにもブツブツ怪しかったから」

「あー…心配になった、と」

「かけるんじゃなかったぜ」

「で、あれは放っとけばいいんスか」

「ああなったら近づかないことにしている。しばらくすりゃ戻るからいいんだ」

「部長と打つと、毎回あーなるんスか?」

「俺が知る限りは」

「…よく毎回打ちますね」

「幸村が面白がって、わざとああなるよう打つんだよな…」

「……」

「当初よりだいぶ、五感回復が早くなったらしいぞ」

「…はぁ」





「ふふふ。愛のなせる技だね」



「幸村!」「部長!」



「5つ目まで語り終わったから、そろそろ復活するよ。見ていてごらん」








「おーっし、休憩終わり!!おーいジャッカルー!どこ行った。ラリーすっぞい!」





「…ほんとだ」

「ブン太…」



「10分か。だいぶ早くなったようだ。
もう少し特訓すれば、試合中に感覚取り戻すかもね。
そうすればブン太に通用しなくなるかな?ふふふ」


「部長…」

「幸村…」






「おーい、ハゲーどこいったー?」

「ハゲ言うな!」

「あ、そこにいたのかよ。おら、打つぞ!コート入れ」

「ったく」





見る、香る、触る、味わう、聞く
すべての感覚は、ただ一人に直結する、という。





(終わり)

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ジロくんバカなんです。



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