実地志願 from 切原赤也
「お願いしますッ!!」
「ちょ、ちょっと」
うららかな日差し降り注ぐ、土曜日の午後。
ともに学校が休みで、部活もオフな完全なる休日。
メールで呼び出されて彼の自宅を訪れると、家族は皆不在かつ高校生の彼一人で今夜は留守番なのだという。
それは別にいい。
父は仕事柄出張が多々あり、母は趣味の旅行で週末不在もよくあること、さらに姉は両親不在時に恋人の元へ出かけ、結果自宅に残されるのは一人になるのは定例のこと…と、招かれたリビングでお茶を用意している彼に告げられた。
「こんなこと、ジローさんにしか頼めねぇ」
「む、無理じゃないかな〜」
学校も違えば学年も違う彼とは、練習試合で知り合った仲だ。
当時、彼の所属する立海大付属中学テニス部との練習試合で……目的は尊敬するプレイヤーとの対戦だったのだが、その場には一年生の彼も参加しており、そこで初対面。
その後も大会で会うこともあれば、アコガレのプレイヤーとお友達になった縁で、一緒にファーストフードに行ったり、テニスコートで打ったりする機会を経てこちらともお友達になった。
「俺に教えてください!!」
「赤也、ちょっ、落ち着いてー」
切原赤也。
立海大付属高校1年生、テニス部所属。
中等部で出会い、友達になった他校のひとつ上の先輩は、年上とは思えないくらい可愛らしく、ふわふわしていて、太陽のように吸引力がある不思議な人だ。
およそ普段は周りがつい何かしてあげたくなるような人物だが、話すと意外にしっかりしていて、さすが一つとはいえ年上というべきか、的確なアドバイスをくれることがあるため、何かあると相談もする奇妙な関係である。
「初めてだからって、何もわかんねぇのヤだし」
「あー…」
芥川慈郎。
氷帝学園高等部2年生、テニス部所属。
中等部で運命的な出会いを果たした同い年のプレイヤーは、赤い髪と風船ガムがトレードマークの、全国区のダブルスプレイヤー・丸井ブン太である。
彼と友達になった縁で知り合った目の前の切原赤也は、学校と学年は違えど仲良くしており、たまに相談を受けることもあって、今では可愛い後輩といった感もある。
たいがいが丸井と一緒のときに切原が加わるパターンだが、相談を受けるときは決まってメールで呼び出され、カフェやファーストフードで二人っきり。
彼の自宅へ来たこともあるが、いつも丸井がいたため、今日のように二人っきりで家というのは初めてのことで。
それだけ、誰にも聞かれたくない真剣な相談なのかな…?
『今夜は家に誰もいないから、一人で留守番』
先ほど聞かされたとき、咄嗟に何があったんだか…と考えたみたが、さっぱり浮かばない。
ここの来る際も、呼び出されたメール文面には『丸井先輩には言わないでください。ていうか誰にも内緒で!』の一文が添えてあった。
内緒…の部分にひっかかりを覚えるが、そこまで言うからには余程、何かあったのか、真剣な悩み事なのか。
物凄くヤキモチ焼きな恋人を想えば、なるべく内緒にしておくのは後々バレたときが恐いと思いつつも、可愛い後輩のお願いを聞いてあげたい気持ちが勝った。
「…俺、ジローさんだから言うけど、こういうの全然わかんねぇんス」
「ええと、それは」
「今まで付き合ったヤツもいなかったし、ソウイウこともそんなに興味なかったし」
「…うん、でも」
ヤンチャで元気、明けても暮れてもテニス一色で、色恋沙汰とは無縁だった中学時代。
思春期に興味を持ちそうな事柄もすべてすっとばしてラケットとボールに全精力を注ぎ、3強を倒すべく邁進してきた。
部活の先輩と、目の前の人がお付き合い始めました、と知ったときも、多少はびっくりしたものの特別へンには思わなかった。
男同士云々を疑問に思うよりも、面倒見はいいが俺サマな赤い髪の先輩と、ふわふわな金髪と笑顔がよく似合う、可愛らしい他校の彼は、一対のペアのようにどこかしっくりきて。
「俺、先輩にヘンに気使わせたくねぇ」
「あっちは喜ぶと思うけどなぁ」
「喜ぶって何スか」
「…自然と、そうなるモンだよ?」
高校になっても日々は変わらず、テニスに打ち込むのは毎日だと思っていた。
確かに朝も夕方も休みも、部活部活で中学以上に厳しい練習に日々もうヘトヘト。
部活後に先輩やチームメートの連中と買い食いしたり、部活オフな休日も先輩とテニスコートで打ち合って、他校の先輩も交えてゲームやファーストフードやーという生活も相変わらず。
ただ、唯一違うことといえば。
「練習しなくても、大丈夫だと思うなぁ」
「……でも、俺、またパニックになったら、先輩に悪いし」
「オレとそういう練習しようとしているほうが、あっちは怒りそうだけどねぇ」
「ちょっとでも慣れたい」
「…赤也が慣れてないこと、わかってると思うんだけど」
「そりゃ、そうでしょうけど、でもね?!」
切原赤也、高校1年生。
入学以来、目標にしていた立海3強。
高等部に進学しても変わらぬ倒すべき頂だった3強の一人が、何がどうなってそうなったのか、いつの間に自分の隣にいて。
暴走しそうな自分を押しとどめ、うまいことコントロールされていたら、テニス関係ないオフな間もそういう立ち位置になっていた。
紆余曲折を経て、どうしてそうなったのかは今でもよくわかっていないのだが、それでもかの先輩への特別な想いは自覚している。
「恋人が他の人とソウイウことやるのって、よくないデショ?」
「でも!」
「柳、怒るんじゃない?」
「…俺、そういう雰囲気になるだけで、顔が赤くなってあたふたしちゃって」
「恥ずかしい?」
「………うん」
「でも、柳もわかってるでしょ」
「柳先輩は優しいから、怒んないし…呆れてるかもしれないけど」
「そんなことないと思うけど」
「あります。いっつもこんなんだから、いつまでも進めないくて……俺、こんなんじゃ」
「進みたいとは思ってるんだ」
「そりゃ…!」
思春期に入った彼のお悩みはというと、遅い目覚めの恋愛沙汰。
切原がお付き合いを始める前から相談を受けていて、自分なりに見守ってきたので二人の経緯も知っているし、その後のことも…こちらは自分の恋人からの情報だが、彼らの進捗具合もまぁ、大まかなことは聞いている。
でも、二人は二人なりに、適したペースで進めばいいと思っているし、何よりも切原がことそういう点においては恥ずかしがりやで照れ屋で、とんと鈍いことも知っている。
柳には悪いが、長い道のりだなーなんて人の悪い笑みを浮かべていた丸井に、『そゆこといわないの』と小突いたのも最近の話だ。
「せめて、パニックにならないくらいは慣れたいんス」
「そっかぁ。…といってもねぇ」
慣れたいと言われても、教えてくれといわれても。
いったい全体、何をどう教えればいいものなのか。
口で説明?したところで切原は納得しなそうだし、そもそも調べるだけならネットでも何でも知識を得ることはできる。
わざわざ家族が不在時に自分を呼び出して、しかも他言無用でこさせるからには公にしたくない頼みごと、かつして欲しいとの要望なワケで。
「オレ、どうしたらいいの?」
「ジローさん!」
ほとほと困ったな。
頭をかいた慈郎がつぶやいた一言に、切原の表情がパァーっと明るくなり、ソファに身を沈めている慈郎のすぐ隣に寄ってきた。
「聞く、とは言ってないC…」
「お願いします!!」
「…ちなみに、ナニを教えてほしいの?」
「セッ○スについて、です」
あいたたた…
お前、そういう方面は恥ずかしがりやでめっちゃ照れるくせに、言葉はストレートなのな。
喉まででかかったが、かなり真剣なまなざしでこちらを見つめられると、突っ込もうにも脱力してしまう。
「えっちについて教える、と言ってもさ…」
ええとね、それは一般的なセックスについてでいいの?保険体育的な?
それとも、AV的な『教えてアゲる』感じ?
はたまた、初めてのエッチ用のアイテムとか準備とか、そういうモノ?
赤也は女の子ともシタこと無いんだよね?なら一般的な男女間の場合にしとく?
それか、相手が相手だから男同士のほうがいいのかな?
ツラツラと述べてみると、どれを出しても首をふられ、却下される。
「そういうのはもう把握済みだから、いい」
「…というと」
「実地で、教えてくだサイ」
「!!」
おいおいおいおい。
「実地って、ちょっ、赤也…?」
「本気ッス」
「なに考えてんだよ…」
「俺、柳先輩に握られても、平気でいられるように慣れたい」
−そうか…握られてパニックになったのか。
思わず遠くを見つめてしまう慈郎だった。
真剣で集中しているときの切原はすごいものがある。
だがしかし。
(真剣になるところが違うよ…)
「赤也は、受け入れるほう、なんだよね?」
「へ?」
実地云々の前に、男同士のアレコレで大事な部分というか、役割なくリバーシブルなカップルもいるだろうけど、柳と切原だったらどっちがどっちかなんて予想はついてはいるけれど、一応の確認を。
慈郎の一言に一瞬で顔を赤らめ、呟くように『…ハイ』と頷く切原に、可愛いなぁとなんだかホンワカしてしまう。
だが、しかし。
ここで呑まれてはいけない。
「実地といっても、オレにどうして欲しいの?」
「……」
「まさかオレが赤也に挿れるワケにはいかないでしょ」
「…それは無いッス」
初めては、柳先輩ですから、とまたも小さく呟く彼に、やっぱり可愛いC−と、ついつい頭をなでなでしてしまった。
「寸前まで?」
「……」
「そこまでしたら、オレが柳にコロされそうなんだけど」
「柳先輩にはぜってぇ内緒だから」
いや、絶対バレる。
だいたい、切原は隠し事が出来るタイプではないし、そもそもそういう場面でパニックになっていた恋人が、いきなり慣れてたらどう思うのか。
いくら言い訳しても、相手はあの柳だ。
切原の考えることなんぞお見通しだろうし、彼の望むとおりに自分が実地で教えてしまったとして、それがバレるのもきっと切原の口からだと思うと自分の身が危うい。
というか。
「あのさぁ、赤也」
「…はい」
「お前、オレにされても平気なの?」
「…?」
「元々オトコが好きなワケじゃねぇっしょ」
「…まぁ」
初恋は小学校の頃、隣の席の女の子だった。
中学時代に一瞬いいなと思ったのも、近所のお姉さんだ。
結局は同性の友達と遊ぶことや、テニスのほうが勝って、その女の子たちとの進展はまったく無かったのだが。
好きになったのがたまたまオトコだったーなんてどこかの本の台詞のようだが、男や女云々というよりも、自分は元々そういう感覚がニュートラルなのだろう。
丸井と慈郎のカップルに思うことも無ければ、自分が当事者になった際も、そこを疑問に思うよりも、相手が目標の一人である3強だったことに悩んだくらいだ。
「他の男に触られたら、勃つどころか気持ち悪くなっちゃうかもだしぃ」
「……そうなんスか?」
「たぶん」
慈郎としては、過去お付き合いしたのは『彼女』であって、男は丸井以外考えられない。
女、男といった性別を超越して、丸井ブン太という個人が自分の中のスペシャルワンになったからの今があるからして、この先何があるかわからないが。
考えたくは無いけど、万が一彼とどうにかなってしまったとしても、次の恋人は女性だろう、と思う。
今考えてもゾっとする体験として、過去に電車でチカンされたことを思い出す。
痴女!?と振り返ったら、スーツを着たサラリーマンが、慈郎のお尻部分に勃ったモノを擦り付け、前に回した手で制服の上からぎゅっと握られて大層気持ち悪くなったものだ。
恥ずかしくて、泣きそうになった自分を助けてくれたのは……となりに立っていた、見知らぬ美人なお姉さんなのもこれまた情けない話。
高いヒールで痴漢の足を思いっきり踏み付け、鳩尾に肘鉄を食らわせた姿は勇猛果敢そのもの。
思わず見ほれる美人は、気さくな関西弁のお姉さんで−名を恵里奈といった−、停車した駅で慈郎を連れ出し、落ち着くまで背中をなでてくれた。
(『弟と同じ制服だから』とのセリフと、名乗った彼女の苗字にピンときたが、バレたくは無い出来事だったので、忍足には今も内緒にしている)
自分を痴漢と同じ立場におきたくは無いが、とにかく、『同性に触られること』への抵抗について切原に問いかけてみるが、なんともピンときていないようで。
「ジローさんも、丸井先輩以外に触られると、気持ち悪い?」
「そりゃあ…」
恋人以外の男に、そういうトコロを触られたこと無いから何ともいえないが。
(痴漢事件は付き合う前のことなので)
ただ、触られて嫌悪感しか抱かなかった一件以来、友達同士のちょっとしたスキンシップでさえ躊躇するようになった時期があったのは確かだ。
丸井との『友達からのステップアップ』を経て、彼に触れられても嫌じゃなかった自分。
どきどきして、恥ずかしいけどどこか嬉しくて。
結局、ソウイウことに抵抗が無くて、すんなり受け入れてしまったことが、自分の気持ちを自覚する一番の切欠だったとも言える。
「あ、こら!」
「ジローさんなら、大丈夫かも」
「ちょ、待っー」
「……うん、俺、平気」
「『平気』じゃないだろ、こら!」
おもむろに中心をつかまれ、ぎょっとして思わず後ずさりしてしまった。
切原はというと、何も疑問に思わないのか、慈郎のジャージを思いっきり引っ張り、トランクス一丁にむいたと思ったら、それすら下げようとして慈郎の両手に止められる。
「ば、ばか、赤也!」
「実地で、頼んます」
「だったら逆だろ?!何でオレを脱がすんだよ」
「いや、何となく」
他の男のアレを触るなんて、気持ち悪くないのかよ!?
という慈郎に、アンタなら平気ですと引かない切原。
というか、それぞれちゃんと恋人がいるというのに、しかも同性なのに、いったい何をやっているのか…。
「柳先輩がしてくれたように、俺もしたい」
だったら柳にしてやれよ!との慈郎の訴えも何のその。
そのために『実地で練習』と返す切原は、もはやちゃんと考えているのかいないのか、わかっているのかどうなのか。
恋人にしてあげたいことを、別で練習するなんてそもそもオカシイだろうが!なんて言っても、聞いちゃいない。
というかお前!
誰が照れて恥ずかしくてパニックになっちゃうだって!?
全然そんなそぶりが見えませんがー!?
「赤也、ちょっと、ストップ!」
「…ンだよ」
「悪態つくな!…苦手なんでしょ?こういうの」
「うん」
「の割には、平気でオレの触ろうとしてない?」
「不思議ッスよね〜」
「のほほんと言うなよ…」
たぶん、それは慈郎の持つ柔らかな空気と、全て包んでくれそうな、おおらかさのせい。
何を相談しても優しく返してくれて、多少のワガママも笑顔で聞いてくれる。
『先輩の恋人』なんだけど、我侭でジャイアンな先輩に付き合っているせいか、自分に対しても甘やかしてくれて、お願いゴトも聞いてくれる。
頼れるお兄さん、、、というよりも、何だか『優しい近所のお姉サマ』のような存在、と告げれば頭をポカっと叩かれ、『誰がお姉さんだ!』と頬を膨らませる表情も可愛いらしい。
恋人とは違う感情だけど、自分はこの人が好きなんだな、と感じている。
他の誰にもこんなことはお願いできない。
女の人に頼むなんて不道徳すぎてできないし、する気もなければ思いつきもしない。
同性ならいいのかといわれると、それもやっぱり違う。
他の先輩にこんなこと頼もうなんてこれっぽっちも思わないし、言葉で教えてもらうとしても実地なんてありえない。
自分だって、まさかこんな風に実地を願いでるなんて思ってもなかったけれど、それには切欠もちゃんとあって。
「ジローさん、気持ち悪い?」
「ん…っ」
「俺にこうやって触られンの、イヤ?」
「あッ…」
迷子の子犬のように純粋な目で見つめながらも、その手は慈郎のトランクスに忍び込み、ゆるゆるとさすってくる。
「ちょっとカタくなってきた」
「ばかっ…」
「気持ちいい?こうすっと、どうですか?」
「ひゃっ…んっ」
どういうつもりで慈郎のモノをいじくりながら、フムフムと頷いているのか。
(あ…まずい、かも)
ええ、生理現象ですし。
恋人とは違う手で、その動きも違いますけど。
普段から懐いてくる彼は、ちょっと手のかかる後輩みたいなもので、可愛いし、そりゃ好きだし。
どちらかというと面倒見られるほうの自分が、相談を受けるなんてあまりないことだけど、彼は悩み事に対する自分の答えに『ありがと。ジローさんに言って、よかった』なんてカワイイこと言ってくれるし。
他のオトコに触られる云々言っていた自分だが、切原はあの変な痴漢ではないし。
可愛がっている後輩で……というか、やっぱり男って即物的なモノですからー
いいや、落ち着け、ちょっとまて、自分。
そうだ、これは単なる触りっこだ。かきっこだ。慌てることは無い。
いやいや、慌てろ。
ここで流されて切原のいいようにしてしまって、いいのか?
実地云々の最初は、『慣れたい』と言っていたはずだ。
触られてパニックになるのを何とかしたいはずの彼が、『触られる実地』ではなく、『触っている』のはどういうことか。
逆じゃないのか?!
というか。
(丸井くんにバレたら…)
丸井自身も後輩の切原を可愛がっているし、なんだかんだ言いながらも面倒見がいいので、彼が悩んでいるとすれば親身になるだろう。
けれども、ものすごぉく嫉妬深いのも事実であって。
二人でこんなことしてるのがバレだら、何をしでかすか……といっても、若干モラルが低いというか、性に対して寛容とでも言うのか。
怒りまくるのはデフォルトだとしても、その後、彼をなだめるために何を言われるのかがわかったもんじゃない。
やれ、あれを着ろ、これをつけろ、ここでスル、通販でゲットした、このAVと同じシチュエーションでー云々。
相手が切原で、いわば触りっこなのでそこまで怒らないかもしれない。
バレたときの恋人を思い浮かべ、眉を寄せて思案顔になった慈郎だが、切原が発した一言がその迷いを吹き飛ばした。
「丸井くんが…」
「丸井先輩なら大丈夫ッス」
「ほぇ?」
「正直、俺もこういうのジローさんに相談するの躊躇したんスけど、先輩がー」
「…が?」
こんなこと誰にも相談できない、と悶々としていたらしい。
特に丸井に言ったワケでもないが、柳とお付き合いしていることは丸井も知っている事実。
どっちがどっちなんて、普段の二人の力関係を見たら把握できるらしく、最初はからかっていただけのようだが、徐々に変な方向へ進んでいった。
受身の切原に、ソレ関係で困ったことあれば、ジロくんに相談してみろよ〜 とのこと。
「…なにそれ」
「受身同士だから、ジローさんに聞けば優しく教えてくれる、って」
「………」
「『なんなら実地でお願いしてみろ、俺が許す!』」
「…何だって?」
「『ジローくんうまいから、イカせてもらえ』って」
「ーっ、あんのバカっ!!」
ジロくんなら実地で教えてくれるぞー
言いそうなセリフだった。
ただのからかいだと思いたいし、切原がトライするなんて思ってもないのかもしれないが、実際にいまこの状況である。
あ の オ ト コ …
ああそう。
そーかそーか。
赤也はかわいい後輩だもんね?
ついついからかいたくなっちゃうんだよね?
どういうつもりかわかんないけど、オレに教えてもらえって、そう唆したんだね??
まさかこういうことをすんごく恥ずかしがる赤也が、本当にお願いしてくるなんて思ってないのかもしんないけど、でも、丸井くんが赤也のスイッチ入れたんだからね。
お望みとおり、イカせてやろうじゃないの。
「赤也」
「…はい」
「手、はなして?」
「……」
「ほら、放せ」
「……はい」
「触れられると、どうしたらいいのかわかんないんでしょ?」
「…うん」
「じゃ、オレを触るんじゃなくて、触られる練習しないとね」
「へ?」
「暴れないでよ?」
ぽかんとしている切原の両肩を押し、そのままソファに押し倒す。
上に乗り、シャツのボタンをひとつずつ外して露になった胸元に手を這わせると、くすぐったいのか軽く身をよじった。
左胸の突起を舌でつつくとビクっと震えたが、お構いなしに舌で転がして軽く歯をたて、徐々に硬くなってくる乳首がツンと上向くまで愛撫を加える。
そのまま右手をスウェットにしのばせ、感じていたのかこちらも少し上向いている赤也自身を優しく握ると、不規則な吐息が口から漏れた。
「ジローさ…っ」
「声、おさえないで」
「くっ…」
チラっと顔を見ると、いつのまにやら真っ赤になっていて、視線もきょろきょろと定まっておらず、どこを見ていいやら何をしていいやら、さっぱりわからないようで、挙動不審ともいえる。
なるほど、『触れられるとパニックになる』のか。
(自分からはいいけど、されるのに弱いのかな…)
ならば、柳を押し倒して触ってみてはどうだ、と一瞬頭をよぎったが、きっとそういう雰囲気になったら相手に主導権を握られ、パニックになって終了するのだろう。
「赤也、落ち着いて」
「はぁ…っ」
「大丈夫だから」
「…っ……は…い」
あ、ちょっと面白いかもー
真っ赤な顔で視線彷徨わせて、…本人はこんがらがっているのだろうが、両手で慈郎のシャツをきゅっと掴んでくる姿に、ちょっとドキっとしてしまった。
…のは誰にも言わずに置こう。
(どうしよう…このまま、手でイカせてあげるほうがいいのかな)
というか、どこまでやればいいんだ?
一回イカせてハイ終わりーていいのか、受け入れるアレコレについても実地?
いや〜いくらなんでもねぇ〜
なんて思いながらも、徐々に大きくなる赤也の中心を、丸井のいう『うまい』手腕で絶妙な刺激を与えると、いよいよ限界を訴えるかの如くはちきれんばかりにー
ーピンポーン
「はぁ、はぁ…っ」
「……だれか、きたね」
今にも達しようとしていた赤也自身から手を放し、呼吸の乱れている彼の頬にチュっと触れるだけのキスをしたら、びっくりした顔で見つめ返された。
(あ、しまった。つい)
ごまかすように優しく微笑むと、安心したのか緊張も解け、強張っていた力を抜いて呼吸を整えだす。
「オレ、玄関出てくるから、赤也は休憩してて」
「……頼んます」
黒いクセッ毛をひと撫でし、脱がされてソファ脇に落ちていたジャージをひっつかみ素早く身につける。
玄関へ向かう前に、リビングの扉横にあるインターホンの、受話器を取ろうとしたら、映像に出てきたのが−
「赤也!まずい、服きて!!」
「…へ?」
「まじまじ、勘弁だしぃ…」
「誰ッスか?」
「よりによって、なんで今来るんだよ」
肌蹴たシャツのままよろよろと起き上がり、慈郎の元まで寄ってきた切原だが、インターホンに写る映像に硬直した。
「……今日、大学部の聴講に行くって言ってたんスけど」
「柳はともかく、何で…」
一瞬居留守を使おうかと視線を交わした二人だったが、リビングの電気がついているのでバレバレだ。
諦めて「通話」ボタンに手を伸ばす切原に受話器を渡した慈郎は、彼のシャツのボタンを一つずつとめてあげた。
「…ハイ」
『赤也か』
「どうしたんスか。今日、聴講って」
『ああ。予定が変わってな』
「丸井先輩も、どーしたんスか」
『赤也!そこにジロくんいるだろ、出せ!』
「出せ、って」
『こら、ジロくん!いるのはわかってるんだぞ』
(ジローさん、どうする?)
(出たくないよ…)
「丸井先輩、人ん家の軒先でデカイ声出さないでください」
『とっとと開けろ!』
(どうします?)
(オレ、裏口から逃げる。ちょっと玄関から靴とってくるから、引き伸ばしといて)
(…わかったッス)
−ピロリロリロ〜
そ〜っと玄関へ向かおうとした慈郎の足を止めたのは、ソファから聞こえてきた自分の携帯の着信音。
やばい。
『あ、ほら、やっぱりいるじゃねぇか。ジロくん!!』
『赤也。早く開けたほうがいいぞ』
「いや、その、えっと」
聞こえてきたメロディは、丸井が自分の着信用にと慈郎の携帯をいじり、設定したオレンジ○ンジ。
インターホン越しにかすかに聞こえてきた聞き覚えのあるメロディに、中にいる人物を確信する。
やばい、まずい。
小走りでソファにかけてあったオレンジのリュックをひっつかみ、赤也に『もうちょっと引き伸ばして!』と小声で告げて玄関へダッシュ。
駅に急がねば!家に帰らないと!ていうかどこでもいいから、ここから離れないと。
物音を立てないようにそ〜っと靴を取り、裏口へ抜けるドアのある洗濯場へ向かった。
鍵は後で切原にかけてもらうとして、とりあえず今は逃げるが先決。
ゆっくり鍵をまわし、靴をはいて音をたてないようにそ〜っと切原宅を出ようドアを開けたらー
「いるのはわかってるって、言ったよな」
「!!」
目の前に、米神をヒクつかせながら仁王立ちしている、恋人の姿があった。
「なんで逃げようとしたのか、ゆっくり聞かせてもらおうか」
「っ!!」
手をつかまれ、そのままずるずる引っ張られていく。
ずんずんと先を歩きながらも、力を緩めず進む丸井は、『痛い!』の抗議も聞く耳持たず。
そのまま連れて行かれたのは何度もお邪魔している丸井宅で、いつもなら夕餉のニオイとチビちゃんたちのバタバタ走り回る声が聞こえるところだが、あいにくシーンとしていて、誰もいないだろうことが察せられる、無音のリビングルーム。
「赤也ん家、今日誰もいないんだよな」
「…っ、いたいってば、放してよ」
「泊まるつもりだったのかよ」
「ーっ!」
「ナニ、しようとしてたんだ?」
「帰る!」
「帰すわけねーじゃん」
「放せってば」
「俺も今日、一人っきりで留守番なんだよな〜」
「…知らないC」
「俺のお誘いメールより、赤也優先するんだもんな」
「………だって、赤也のほうが先に約束したから」
「じゃあ俺呼んでもいいんじゃねぇの?なんで二人なんだよ」
「だって…」
あんな相談、丸井に聞かれたら切原がテンパっちゃうし、そもそも誰にも言いたくないという彼の希望に答えたかったからであって。
バレたら嫉妬は想定内だが、なにゆえ『ナニしようとしてた』なんて訝しまれなければならないのか。
というか。
『実地で教えてもらえ』と唆したのは、どこの誰だ。
「なに怒ってんだよ。赤也だよ?」
「赤也だろうが誰だろうが、怒る!」
「二人で遊ぶなんて、今までもあったC」
「今回はそうじゃねぇだろ」
「…なにが?」
「ナニが」
「は?」
「お前、赤也とー」
「バカじゃないの?」
「あんだと?!」
「男同士で友達で、そんなこと、ならないでしょーが!」
「なっただろーが」
「それは丸井くんだからだろ!」
「!!」
「丸井くん以外の男となんて、ありえないC!」
「ジロくん!」
先ほどの切原とのさわりっこはもちろん棚に上げて。
(事実は伏せておくのが吉)
『ありえない』と言い切る慈郎をヒシっと強く抱きしめ、金糸の柔らかな髪に唇を寄せ、背にまわした手でふわふわの髪を撫でた。
くすぐったそうに身をよじるが、放してくれないのはわかっているので、好きにさせることにして、こちらも両手を丸井の背中にまわしてぎゅっと抱きつく。
「なぁ、ジロくん」
「なに?」
「まさか赤也に『実地』なんて、してねぇだろうな」
「………」
「…おい」
「………」
「お前、まさかー」
「ジロくんに教えてもらえなんて赤也唆したの、どこの誰だよ…」
「ありえねぇだろい!本気にするヤツがどこにいる!!」
「赤也は純粋なんだから、信じるに決まってるでしょーが!」
「…お前、まさか最後までさせたんじゃ」
「バカなこと言うな!」
「じゃ、赤也に挿れー」
「柳にコロされるっつーの」
「どこまでやったんだ!?つーか、何やってんだよ、お前!!」
「はぁ〜!?どの口がそんなこというワケ!?」
「なんだよ!?」
「どこかの誰かさんが、オレがうまいからイカせてもらえとか何とか言ったんじゃなかったんですかねー!?」
「!!そ、それは……事実だろい!」
「ばっっっっかじゃないの!?」
ぎゃーぎゃー言い合うこと数十分。
実りのない罵りあいを続けている二人……互いに引くつもりは無いらしく、ひたすらヒートアップし続けた言い争いは夜にまで及んだ。
一方の切原宅では、本人も予想もしなかったシチュエーションで、初体験を迎えることになった切原と柳の一夜が更けていった、…らしい。
(終わり) >>目次
********結果ブンジロが好きなんだなと思いつつも、終始楽しくかけました。
赤也はジローさん以外は受けだと思っておりますー。けど、立海メンツはジロくんの相手くらいの感覚なので、いざ赤也の彼氏を誰にしようか考えたときに、誰も浮かばぬ。。。
よく見かけるのは、ブン赤?赤ブン?や、幸赤?仁赤?…わからぬ!!
と、立海サーチさまの赤也のところを見ると、柳赤取り扱いサイト様が一番おおくて、テニプリリンクさまも柳赤が多くて、そうか、赤也受けのメジャーカプは柳なのね!
→恋人が柳になりました。
赤也と柳の初体験を書けないワテクシ……結局ジロちゃんで締めくくるワテクシ、、、だってここはジロ受けサイトDA KA RA !
ちなみに達人は聴講に行こうとしたら丸井くんとバッタリあい、『実地』云々で赤也をからかった話を聞かされピンと感を働かせたらしいです。
芥川はどこにいる?で各所確認をとり、切原宅に乗り込んだんだよーという。>そこを本編に盛り込めないのがワテクシの力量…!
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