仁ジロ台湾編*夜の九イ分…の意味があったのか。




赤い提灯が道なりにぽん、ぽん、と浮かんでる。
周りは暗くて、明かりもそんなに強くない中に、赤の灯篭がゆらゆら揺れているみたいで、なんだか幻想的だなぁ。


「ほら、気をつけんしゃい」


階段で躓かないようにと手を引いてくれる仁王に任せて、繋いだまま歩きながら周りを観光して早10分が過ぎたところ。
二人ともまったく知らなかったんだけど、ガイドさんが言うには日本のアニメで舞台となったところらしく、色々と教えてくれた。
(ジ○リのアニメなんだけど、小さい頃に見たような見てないような、う〜ん、どうだったかな)


「休むか?」

「ううん、大丈夫」


きょろきょろ周りを眺めては足が止まり、ボーっとしていたからか、斜め前の仁王がちょこちょこ気にかけてくれる。
なんだか、初めてきた場所なんだけど、どこか懐かしいような、不思議な場所だな。
昭和っぽい?とでも言うのかな?
(言うほど昭和は知らないけれど)
外国なんだけど、外国じゃないような、でも日本っぽいわけでもない。

夜の、九イ分。



たまたま互いの休みがうまいこと重なり、サークルもバイトも都合つけて連休利用の海外旅行。
何度かこういうことはあって、旅好きな仁王がいつも計画・手配をすべてやってくれる。
オレはというと、ただパスポートを無くさないように注意するだけで。

仁王は一人旅もしょっちゅうやっている、いわゆるバックパッカーってやつ。
台北も何度かきたことあるらしいんだけど、今回は珍しく一人旅ではなく二人で行こうと誘ってきた。

これといって台北のどこへ行きたいとか、何をしたいとか、そういうのは無いらしいんだけど、のんびりして美味しいもの食べて、観光して、とリラックスしたかったみたい。
そういうのだとビーチ方面?に行きそうなんだけど、そこは仁王的に都市部がいいらしくて。
ご飯が美味しいところ!で絞った結果、最終的に台湾になったんだって。

オレはどこでも嬉しいから、いいんだけどね!

(ただ、食べにいくレストラン、屋台がほとんど肉ばっかりだから、ちょっと違うジャンルも食べたいところだけど)


昨日の夜だって、台湾料理のお店にいったのに肉料理ばっかり頼むし。。。
言葉わかんないから仁王に任せっぱなしなんだ。
アレもわかってるのか微妙だけど、バックパックとなんとなくで培ったボディランゲージで通じてるっぽいんだよね。


一人旅のときはいつも適当なホテルやユースホステルに泊まったりするみたいなんだけど、今回は高そうなホテルを取ってくれた。
跡部以外で男同士でスイートなんて、初めてだよ。。


仁王は学生の片手間で株をやっていて、それが結構儲かってるみたいで羽振りがいい。
丸井くんや切原なんかは『ケチだ!』て言ってるけど、オレとデートのときはいつのまに全部出してくれるから。
オレも男として、いつもいつも奢られることにいささか思うところもあるけど、丸井くんや岳人なんかは『あいつはお前にしてやることが好きなんだから、素直に奢られておけ』って言う。

このまま卒業したらデイトレーダーになりそうだよね。
それか適当に就職して、生活費を余裕で稼ぐくらいは株やりそう。。。
(でも、決してアナリストや証券マンじゃないんだろうな)


料理も上手いし、掃除、洗濯もマメでキレイ好き。
大学生になって一人暮らしを始めたからか、なんでも自分でやるようになってさらに磨きがかかった仁王の家事能力。
まだ学生なのにパソコンひとつでお金稼いで、家のことを全部こなして、オレが遊びに行けばご飯つくってお湯わかしてコーヒーいれて、と何から何までやってくれる。

オレって何だかダメ彼氏みたいじゃない?

なんて思ったこともあったけど、『世話してもらうことがお前の役目』って言うんだもん。
何もさせてくんないんだよねぇ。


「座るか?」

「うん」


高台の奥にはベンチがいくつかあって、何人か座っているカップルがいる。
一番端っこが空いてたので腰掛けると、目の前に広がる景色に息を呑んだ。


「すっげぇ!」



九イ分の灯篭、街灯、お店のあかりがチラホラ見えて、夜の闇と溶け合って光が浮いているかのように広がる。
とてもキレイで、入り口の赤い灯篭みたいに、幻想的だ。


「ねぇねぇ、あれ、さっきあがってきた階段だよね?」


赤い灯篭が両サイドを照らしていた場所、いわくアニメのモチーフのひとつと言われた階段が見える。
ついついはしゃいでアレコレ指差しながら騒いでたんだけど、隣の仁王ときたら黙ったまま。


「どしたの?」

「ん」

「さっきから静かだしぃ」


なんか…

喋らないけど、
静かだけど、
じーっとこっちを見てるというか、…夜景見てないし!


「なに?なんか変?」

「何が?」

「何がじゃなくて。なんでさっきからこっち見てんの?」


オレじゃなくて、景色見てよ…なんて言ったら、にやって笑って腕を引っ張られる。


「わっ…」

「暴れるんじゃなか」

「…暴れてないし」

「大人しくするように」

「…ここ、外なんですけど」

「旅先では気にならんじゃろ」

「気になるってば」

「誰も見とらん」



確かに、各ベンチのカップルはそれぞれ自分たちの世界に没頭してるだろうけど。
でもさ。
いくら旅先で異国とはいえ、いやいやどこであれ。
外でイチャイチャする気、無いのにさぁ…


「んんっ、ちょっと…」

「キスだけじゃけぇ」

「あ、んんっ」



当たり前だよ…


それ以上なんて、まじまじ無理だしぃ。
ていうかキスもヤだよ。。


がっちり両腕で正面から抱きしめられて、結構な力でぎゅうぎゅうしてくるから解けない。
(抵抗しないように強く力入れてんだろうけど)

拳で胸を軽く叩いてストップ!と伝えたんだけど、……まだ、離れないよぉ。


「んっ…」


舌、入ってきたしぃ…


はぁ…。



とりあえず仁王が満足するまで、この両腕は解けないんだろうな。
諦めて身を任せるしかないのか……いや、調子にのるとヘンなところ触ってくるしな。

ええい。


ひとまず力をぬいて相手に任せることにする。
一瞬でも力を緩めたら、すぐさま思いっきり放して脱出するとして。


だって、まだお茶屋さんも行ってないし(妹にお土産頼まれてるんだ)
仁王の姉ちゃんにラベンダーのバスソルトとハンドメイド石鹸、香袋頼まれてるし。
(ていうか仁王が頼まれてただろ!?)

こんなことしてたら周れないし、ガイドさんのお迎え時間になっちゃうよ…。



あと、1分。
長くてもあと1分以内に脱出しなければ。

油断させるためには、完全に身を預け(たフリをし)ないと。


両腕を仁王の背にまわして、ぎゅっと抱きしめ返したらピクって少し反応した。
そーっと、そぉ〜っと。
積極的に絡め返して、答えていく。


「あ…っ…んん」


なんだか化かしあいみたいだけど……って、普段いっつも騙されてるから、たまにはオレが引っ掛けてやるんだしぃ。


30、29、28 …


妹よ。
もしここでお茶買えなかったら、台北市内のお茶屋さんで勘弁してくれ。


20、19、18 …


仁王の姉ちゃん。
ラベンダーグッズ買えなかったら、オレじゃなくて是非とも弟に怒りをぶつけてくれ。


10、9、8 …



…あれ?

ホールドしてる力が全然弱くならない。
ていうか、唇が腫れちゃうよ……仁王、ディープって言葉とおりにどんどん深くなってるしぃ。


どうしよう。


5、4、3 …



あぁ。


「ふっ、ン…っ」



どんどん激しくなるキスに、とっくに1分のカウントが終わった今、いったいどうすればいいんだとぐるぐる考えては数をカウントし、また考えては…

だんだんわかんなくなってきて、頭がボーっとしてきた…



何しにここまで来たんだか。
こういうの、ホテルでやってほしいんだしぃ。。。








(終わり)

>>目次

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におくんは、稼ぐ夫兼家事万能な妻を一人で行うのです。
ジロちゃんが一人じゃ何もできないように、自分を頼らないと生きていけないようにとひっそり網をはってるんです。
大学卒業と同時にプロポーズするんですね、きっと。
そして働きたいジロちゃんと、家に置いておきたいにおくんの攻防が始まるという。
(ジロちゃんが在宅ワークになることで落ち着きます、たぶん。デザイナーか芸術家的に)

当初はウーライで温泉♪な仁ジロ予定でしたが、また温泉かよ…と思って、九イ分にこさせました。
が、ワテクシ自身が九イ分観光に行ったのも、もうかなり前……う〜ん、あまり覚えてないという。



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