B.切原赤也の葛藤




たわいも無い話をして、お菓子たべて、お互い持ち寄った漫画を読む。
休みの日の午後は、こんな風に過ごすことも多々。
テレビゲームで対戦することもあれば、互いの小型ゲーム機で協力してインターネットゲームに興じることも。
もちろん、公営のテニスコートで打ち合うこともしばしば、その帰りにゲームセンターで遊ぶこともよくある。

これだけだと部活の先輩やクラスメートといった他の友人との過ごし方とほぼ同じだが、、、唯一の違い。



ふと、目が合ったとき。
ソファで寝っ転がりながらマンガ本を読んでいる彼の金糸の髪が、差し込む夕日に照らされ、キラキラ光る。
少し眩しいのか、顔をあげた彼とバッチリ目があって、、、
一瞬、きょとんとなったが、すぐさままん丸な目を細め、ニッと笑顔で微笑んでくれる。


「どしたの?これ、読みたい?」


手にした新作漫画をかざし、自分をじっと見る後輩……友人。
いや、彼氏とでも言おうか―を見つめ、声をかけてくる。


「…ん、後でいいッス」


確かにまだ読んでないし、何より自分が今日家に戻る前に買ったばかりの本なので、読みたいといえば読みたいが。


「あーかや」


持っていた漫画を閉じてソファに置き、ベッドサイドに背を預け座っている切原の隣に腰をおろす。
もじゃもじゃの黒髪をポンポンと撫で、にっこり微笑まれると……自分のヘアスタイルも、そんなにコンプレックスでもなくなるから不思議だ。

そのまま抱き寄せると、肩を寄せて体を預けてくれる。
顔を近づけると、察したのか目を閉じたジローの唇に、ふわっと、触れるだけのキス。


何度かかわした、切原の愛情表現。
可愛らしくチュッと音を立てて口付けたり、頬やおでこ、口元らに羽のような一瞬のフレンチキス。


同じようにゲームしたり、寄り道したりする友人とは一線を画す…明らかに異なるのは、彼にだけ湧き上がるこの愛情。

触れたい。
笑顔が見たい。
自分だけを見て欲しい。
名前を読んで欲しい。


会うたびに大きくなる、ジローに対するこの想いだ。



(もう、いいかな…いいよな?
付き合って半年だし、キス…嫌がんねぇし)



「ジローさん…」

「ん…」



自分の腕に身を預けてくれる彼の、あちこちに軽いキスを贈る。
本当は、もっと深いキスをしたい。
数センチ先にある肌に、直接触れたい。

もっともっと、先に進みたい。



…のだけど。



(ディープキスっつっても、どーやりゃいーんだ…
舌、入れてー…って、タイミングが。。
ジローさん、こういうの大丈夫かな。。
いや、でも、告白OKしてくれたし、チューしてくれるし、、
男同士とか、そういうのもわかって受け入れてくれたんだし、、)



でも。





少し開いたジローの唇からチラチラ覗く赤い舌に、もう一歩進んだ口付けをかわしたい想いが沸いてくる。

だが、経験のない自分が、ちゃんと出来るのだろうか。
いざやってみて、もし嫌がられたら……決して、そんなことを言う人じゃないし、自分がヘタでもそれを指摘したりはしない人だ。
わかっているんだけど。




なんだか自信が無い。




でも。




そろそろ…本当に先に進みたいのだ。

ええい、ままよ!




半開きの唇に舌を滑り込ませ、一歩進んだキスをしようとジローの口内をおずおずと舐めてみた。
先ほど見えていた、扇情的な赤い舌に触れて…





びくっ




「あ、す、すんません」



抱いていた肩が、少し震えた気がしたため、反射的にパッと体を離した。



「ご、ごめん、ジローさん」

「………あ、ええと」

「…なんも言わないでください」

「あの…あかや?」

「……」




これが部でモテまくる先輩だったら……
たとえば。


(仁王先輩だったら……彼女がビクッとしても、、そのままキスでメロメロにすんのかな)


これまたモテまくり、可愛いーと言われながらも肉食男子な、かの先輩だったらー


(丸井先輩も、ここでひかねぇよな、きっと)



テニス部の頂点に立つ、顔よし、頭よし、運動神経よしの3拍子どころかそれ以上もそろっているミスター立海はー


(もっとスマートにやるよな、幸村部長なら)



これが紳士なら、達人なら、皇帝なら、、、
と、身近な先輩たちの姿が出てきては消え、出てきては消え。


どの先輩も……そういう分野はからっきしっぽい先輩もいるけれど、それでも、自分のように引っ込まず、やるときはやる気がする。




(はぁ〜……なんで、俺って…)




今日こそは一線を越える!
なんで毎回意気込むが、いざデートで彼を目の前にすると…
いくら、二人っきりの部屋で、親も姉も出かけてて、完璧なシチュエーションになったとしても。

柔らかな金の髪がふわふわ揺れて、パッチリ開いた目で見つめられたら。
とてつもなくその気になり、肩を抱き寄せるところまでは行くのだけれど。


突き進もうとすると、やれ、ジローが嫌がらないか、ヘタで幻滅されないか、等等。
アレコレ考えすぎてしまい、いつもいつもフレンチキス止まり。


それに、確かにキスは嫌がらないし、微笑んでくれるけど、彼が自分のように進みたいと思ってくれているのか…
いまいちわからず、不安になって……余計に進めないのかもしれない。





男らしく、ぐぐっといきたい気持ちと、
愛しい人への気遣いとで、


ぐるぐる、ぐるぐる




こんな自分は、傍から見たら思いっきり格好悪いんだろうな…なんて。
ちょっとした情けなさを感じつつ、でも、それ以上にイヤな思いをさせたくない。



だって、大好きなんだ。





ようやく実った、想い続けた大切な人だから。





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