A.丸井ブン太の自制




「イイ?ねぇ、ジロくんっ…」

「…っ…、はっ…ん」



下で喘ぐ可愛い恋人の両足を深く抱え込み、大きくグラインドしていっそう激しく突く。
金糸の髪が白いシーツに乱れ、蠱惑的な赤い唇から漏れる吐息は、ひたすら甘い。


「うっ、くっ……ごめっ」

「―っ!!」


最奥に思いっきり打ち付けると中がぎゅっと締め付けられ、その刺激に耐えられず、そのまま果ててしまった。


「はぁ、はぁ、っ…」

「わ、わりぃ」


普段はとても気をつけてどこまでも優しくしてくれる恋人は、後々に大変になることを想い、抜かずにそのまま果てることはあまり無い。
久しぶりに中で出されたことへの少しばかりの驚きはあったが、すぐさま謝られたことに多少の戸惑いを覚える。


「ごめん、後でちゃんとキレイにするから」


急に出して、ごめんな?




困ったような表情で言われてはー別に怒ってはいないし、謝られることでも無いのだがー何と答えていいのやら。



「はぁ、はぁ…っ…、だ…いじょ…ぶ…」

「ジロくん」

「ちょ…っ…と、休憩…」

「うん」

「ったら……、おふろ」

「ああ。あ、お湯ためてー」



ベッドを降りようとした丸井の手を、咄嗟にぎゅっと掴み、もうしばらくここにいてと目で訴えた。

頬を上気させ、潤んだ瞳で見上げられたら、果てたばかりだというのに熱が一点に集中しだす。
だが、肩で息をしている彼に、これ以上は無理というもの。
自制、自制、と頭に叩きつけつつ、両腕をあげて自分を求める恋人を、胸へぎゅっと抱き寄せた。

交わされる瞳は、互いに色がまだにじみでていて…


唇からちらちら覗く桃色の舌に、どうしようもない衝動がわきおこり、そのまま顔を近づけた。
察した慈郎も、自然とまぶたを閉じたがー











予想してた感触が、いつまでたっても訪れなくて…




「…まるいくん?」





そっと目をあけると…
こちらをじっと見つめ、困ったように眉をよせつつ少し考えこんでいるかのような彼の姿。



「まるいくん?」

「……」



どうしたというのだろう。
いつもなら、優しく唇を寄せ、そのまま深く長く絡ませ合う時が続くというのに。



「どしたの…?」

「…いや」


きょとんと目をまるくしてこちらを見つめる双眸は、たまらなく可愛くで。
今すぐにでも口づけて、息継ぎできなくなるくらい深く、貪って、苦しげな息を零すであろう彼を、よりいっそう深く愛したい。
ふと、そんな衝動がわいてきたが……



「…もうちょっと、抱きしめてていい?」

「?………うん」



こちらが意図していることはわかっているだろうに…これは、はぐらかされたのか。
ジローの頭には疑問符が浮かんだが、これといって理由もわからず、どう聞いていいものか…
聞くものなのか?とも思ったため、言われるがまま腕の中で大人しくしてみた。


どき、どき、、、







徐々に落ち着いてきた鼓動を感じ、自分を抱きしめている腕をほどき、ゆったりと上半身を起こした。





「おふろ、いこ?」

「…おう」



お湯たまってないけど、いいのか?



入ってるうちに溜まるから大丈夫だしぃ。




笑顔で返され、二人で仲良くお風呂場へ向かい、さっと軽く洗いあった。
洗っている間、出しっぱなしにしていたお湯は半分もたまっていなかったけれど、二人でつかり、たわいも無い話を続けているうちに十分な水量になる。




『明日、草野球の試合あるんだけど、行ってみようかな〜と思って』
『出んのか?』
『わかんない。来れればこい、とは言われてるけど』
『都内?』
『場所は川崎だけどね』
『氷帝のやつら?』
『うん。亮ちゃんがたまに助っ人で出てる』
『明日、宍戸も出んの?』
『もっち。りょーちゃんはうまいからよく呼ばれるんだけど、明日は人数がちょっと足りないらしくて』
『だから、「これたら来い」なのか』
『うん。でも、一応、仮で確保してる人員もいるから、大丈夫って言ってたけどね〜』
『どこやんの?ピッチャー?』
『宍戸がエースで4番だよ。オレはー、ヘルプのときは内野が多いかな〜』
『ショートだろい』
『せいか〜い』



まるいくんだったら、ピッチャーだね、きっと。



にこっ


なんて、音が出るくらいの満面の笑顔で微笑まれる。


『明日野球いく?んで、一緒に試合でちゃう?』

『ど〜すっかな〜。いっつもテニスだから、たまにはいいかな』



ラケットはとりあえず持ってはいくけれど。


なんて笑いあってたら、ふとしたことを思い出した。



『そういえば』
『?』

『明日、赤也もゲームつってたな』
『切原?』
『アイツ、学校の昼休によくサッカーだのバスケだのやってて』
『うん』
『明日は「昼休み友の会」の連中と、草サッカーらしい』
『そっちはサッカーかぁ』
『厚木でやるんだと』
『誘われたり?』
『い〜や。今日ジロ君といるの知ってるしな。ま、もしきたらゲームしましょ、とは言われたけどな』
『まるいくん、サッカーとかするの?』
『昼休みに遊ぶ程度だけどな。赤也ほどじゃねぇよ』
『切原…フォワードだね』
『モロだろ。トップ下やるとか言って、周りが却下して、なんだかんだ毎回ウィングか真ん中でやってるらしい』



昼休みのサッカーは、そこまでポジション決めてやってるワケでもないみたいだが。



『まるいくんだと、どこかなぁ』
『どこだと思う?』
『やっぱ攻撃だよねぇ』
『もっちろん』
『やっぱセンターフォワードかなぁ』
『授業だと、そうだな。一番前にいることが多いな。ジロくんもそうだろい?』
『オレはね〜、フォワードのちょっと下の中盤が多いよ〜』
『ミッドフィルダー?ジロくんが?』
『ボール追っかけて守備ラインまでさがっちゃうし、持ったら持ったでエリア内までぐんぐん行っちゃうから』
『真ん中にいろ、ってか』
『そ〜。フォワードやってても自陣までボール追っかけちゃうから、カウンター対応が遅れちゃうんだよね〜』
『はは、ジロくんらしいな』


じゃあサイドバックでもいいんじゃねぇのか?
と言ったら、あくまで攻撃がしたいんだしぃ、とぶーたれた。



明日起きたときの気分で、野球かサッカー、どっちに行くか決めようか。
なんて話しながら風呂タイムを過ごし、じゅうぶんにあったまってからお風呂終了。

いつものように金色のペチャっとしている髪を、ふわふわになるまでドライヤーで乾かす。
自分よりも大きい手が、頭を撫でるように髪をすいているのは、とても好きな瞬間。心地いいものだ。
その間、ジローは気持ちよさげに両目を閉じて、…そのまま寝てしまうこともある。


「ジロくん、眠い?」

「…ん……」



いつもなら、『寝るなぁ!』と赤毛を若干逆立て、目尻をキッとあげて頭をゆさぶってきたり、頬をつねってきたりするのだがー



「乾いたらベッド連れてくからー」

「…んん……」




そんでもって、『くぉら!!まだ寝るなー!!』と、なおも落ちようとするジローにイタズラしてきたり、ヘンなところさわってきたりして。
ほら、今も、きっと…





「このまま寝ちゃっていいぞ」




「んっ………え?」






パッチリと、目が覚めてしまった。




「ど、どした?ジロくん」

「……」


まじまじと丸井を見つめる。
どうした、はこちらのセリフだ。



「まるいくん……」

「うん?」

「なんかあったの?」




いつもなら、もっと騒がしいし、もっと無茶苦茶なこと言うし。
そもそも情事後に風呂に入ったら、そのタフネスぶりを発揮して『ぜってーキレイにするから。その前にもういっかい!』と懇願してくる。

風呂上りに髪を乾かしてくれるのは毎度のことだが、心地よさに意識を飛ばそうとするとワーキャー言って引き止める。
一緒にベッドに入って、一緒に寝るんだ!
なんてこと言って、こちらが先に寝てしまうのを全力で妨害するというのに。

いや、それよりも。




「ねぇ、まるいくん」

「…なに?」



丸井が右手に持つドライヤーをOFFに変え、そっとテーブルの上に置いた。
その行為の意図がわからず、ハテナを浮かべていた丸井だが、徐々にジローの顔が近づいてきて…


首に両手をまわされたと思ったら、数センチ先にはキレイな肌と、赤い唇が見えてきた。
数秒のことだったが、ひどく長く感じられて、スローモーションで近づいてくる恋人の両頬をー



「ちょ、待っー」

「……っ!」




咄嗟に、迫ってくる顔を、両手でガッチリ押さえてストップさせてしまった。




「……」

「……」




(やっぱり。……なんで?)



「まるいくん。
……キスしてくんないんだね」

「…っ」



そっとまわした両腕を解いて、少し丸井から距離を取る。



「いや、その…」

「今日、ちょっとおかしいよね」

「ンなことー」

「あるC」

「あー…」

「なんかあったの?」

「……いや」

「ねぇ」

「……」

「まるいくん?」

「……あ、あぁ」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……もういいC」

「…ジロくー」




何か言い足そうで、でも言い辛そうで。
少し待ってみたが、進みそうにない。



「先、ベッド行ってるね。まるいくんは髪ちゃんと乾かしてからきなよ」



言い残すと、テーブルに置いたドライヤーを丸井に渡し、そのままベッドルームへ消えていった。




パタン




一人、リビングのソファに残された丸井の耳に、ドアの無機質な音が響いた。





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