切原赤也の初恋物語1




高等部にあがっても中学からの持ち上がりが多いクラスメートと、部の先輩がたも代わり映えのしないメンツ。
そのため、高校生になったという実感もあまり無いまま、中学とさほど変わらない生活を送ること早数ヶ月。

相変わらず母校は同じ敷地内だし、高等部のテニス部も、昨年全国優勝を果たしている全国区強豪。
練習は中等部に比べれば厳しく、キツイものではある。が、1年の面倒をみる2年生はよく見知った先輩方だ。

3年生よりも強い2年の先輩らは、高校進学した彼を暖かく迎え入れた。
1年唯一のレギュラーとなり、2年の先輩たちとつるむ姿は、中学の頃に戻ったかのようである。

彼の高校での目標は、もちろん中学で果たせなかった『3強を倒す』こと。
そして…


彼一人ではどうしようもできない、もうひとつの隠れた目標が。。。





【 切原くんの初恋物語 】





部活が終わり、へとへとで部室に戻ってそそくさと着替えをすませた。
とたん、ぐぅぅ〜と、腹の虫が鳴り、家に戻るまで持ちそうにないな…と、帰りにどこか寄ろうか思案すると、


「はらへった…」


同じような状況に陥っている、仲の良い先輩と目が合った。


「なんか食って帰ります?」
「だな。」


といっても、この先輩の場合はいつものことなのだが。


「チカラ○しにすっか?焼き牛丼食いてぇ」

「え〜?それこの前行ったじゃないッスか」

「じゃあ吉村家でラーメン」

「この時間ッスよ?俺、並びたくねぇ」

「カレー?ココ○チならすぐ入れっし」

「俺ん家、昨日カレーだった」

「んーじゃ、定食屋は?キッチ○ジロー行くか?」


「ジロー…」


「おう。チキン南蛮とスタミナ焼き+メンチカツにすっかな〜。」

「…あ、ご飯系よりも別の方がー」

「じゃあ何ならいーんだよ」

「そおっすねぇ〜、あーでも、ラーメン食いてぇな〜」

「二郎にすっか?」


「ジロー…」


「ん?なんだ?」

「…いや、何でもないッス。ラーメ○二郎か〜、もうちょいアッサリでー」


確かにお腹はすいているし、何でも食べれるが、夕飯前の胃に入れるには、いささかコッテリしすぎているような。
丸井の提案するラーメン屋は、今日はちょっと遠慮したい気分だ。



「おまえら……少しは俺んちの売り上げに協力しよーとは思わねぇのか」

二人の背後から、うらめしそうに声をかけるもう一人の2年の姿。


「あーそういやそーだな。お前ん家でもいっか」

「ジャッカル先輩ん家?ブラジル料理屋っすか?」

「へ?お前、行ったこと無かったっけ?」

「今は中華料理…『らーめん桑原』ぜよ」


そのさらに後ろから、制服に着替え、テニスバッグを背負った銀髪の先輩が割って入ってきた。


「へぇ〜中華料理屋なんスか」

「じゃそーすっか。何食うかな〜サンマーメン、海鮮おこげ、チャーハン、あんかけ焼きそば、から揚げ、春巻き、んで、チンジャオロースと〜」

「…相変わらずッスね」

「ツケはきかねぇぞ、ブン太」

「わーってらぁ」

「底なしの胃袋じゃの…俺は、ワンタンメンだけにしとこうかの」

「仁王も来んのか?珍しいな」

「今日は家に誰もいないから、お前さん家で夕飯食べてくけん」


なんていっているが、この先輩が帰り道に夕飯済ませて自宅に帰ることはそう珍しくはない。
そして、その殆どがコーヒーショップだったり、カフェ等で軽くすませていることを考えると、ちゃんとしたご飯屋にいくことが珍しい。



「では、私は海鮮あんかけチャーハンにしましょう」

「「「「!?」」」」


部室を出ようとした4人の背後から、もう一人の声がかけられてー



「仁王先輩より珍しい人が来るもんスね」

「柳生…どうしたんかの」

「俺ん家は大歓迎だぜ」

「おう、皆でジャッカルん家の売り上げに貢献しよーぜぃ」

「私も仁王くんと同じく、今夜は家族が不在なものですから」





こうして5人肩を並べ、『らーめん桑原』に足を運ぶことにした。







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