まるいくんとジロ君のとある1日



「ちょ、ちょ、ちょーっと待った!」
「待たねぇ」

「あ、こら!」
「うるさい」

「ねぇ、ちょっ、まるいく…、んッ」
「大人しくしろぃ」

「だ、ダメだって…ッ!!」
「往生際が悪い」

「いやいやいやいや」
「いやじゃねぇ。オッケィっつったろ?」

「す、すとーっぷ!」
「…ジロ君、いいかげんにしねぇと」

「…………な、なに?」
「口ふさぐぞ」




「え、うぁっ、……んっ…」




暗転




(オッケィなんて、言ってナイしー!!)








【 まるいくんとジロ君のとある1日 】




「はぁ」


ーパコーン
ジャッカルの強打を軽くいなし、ため息ひとつ。



「ったく…」


ーパコーン
うまく逆サイドに返してきたジャッカル渾身のストレートを、これまた俊敏な足でおいつき、悪態をひとつ。




「(怒)」


ーシュッ
ため息ばかりついていた表情が一転、眉を寄せてシワを作りつつ打ち返す球は、どこか力が抜けているフォアハンド。


これにはさすがにパートナーも黙っているわけにもいかず。





「おい、ブン太」



ラリーを止めて、ため息・舌打ち、と悪態オンパレードな相方の元へ駆け寄ると、赤い髪は心なしか逆立ち、大きい目は釣りあがり、、、、、
…とまぁ、絵に描いたような『機嫌の悪い』丸井ブン太の姿があった。

もちろん部活中である。






ちなみに本日は土曜(学校はお休み)の部活だが、2,3年は1泊2日の遠征で不在にしており、1年のみの半ば自主練となっている。
レギュラー、準レギュラーは1年ももちろん遠征参加とされていたが、何故だが所用が重なり辞退する1年がちらほら。
高等部へ進学しても、立海の3強はあいも変わらず3強で…

・立海大付属高校テニス部No1、1年の幸村くん→とあるイベント
(本来なら部活優先だが、本人の趣味でもある草花、その道の第一線で活躍しているフローリストの特別イベントが土曜日午後からあるらしく、『せっかく当選したんだし、行かないなんてウソだよね』と天使の笑みで3年生の部長の首を縦にふらせたんだとか)

・No2の真田くん → 家庭の諸事情で前々からこの日は休むと告げていたらしい
(いわく、土曜日に実家の道場で行われるこども剣道大会の審判を頼まれており、かなり前から申し出ていたためすんなりと部活オフのOKと貰っていたんだとか)

・No3の柳くん → どこかの大学の特別講義に出るんだとか
(幼馴染のデータマンとともに、スポーツ科学だかスポーツ医学だか汁だとか、、、何かの特別講義を受けに、都内の大学へ行くらしい。
その講義の重要性と自身が参加することの意義を一から十まで事細かく並べ立てられた3年部長は、その勢いにのまれ『休んでよし』としか言えなかったらしい。



レギュラーの中心メンバーである3人の1年生は揃って欠席。
ならばそのぶん、他の1年にもチャンスをー、、、と3年部長は思ったらしいが、次点を埋められる1年は揃って色々な理由をつけ辞退した。


「土曜は両親不在で妹の面倒をみんきゃいかんき、泊まりの遠征は難しいぜよ」

「(アナタに妹がいたなんて初耳ですけどね。というか素直に『弟』でいいんじゃないんですか…?
仁王くん…あなた、真田くんと幸村くんが不在の土日で命拾いしましたね)

すみません部長。私も日曜は午前中スピーチコンテストがありまして、学年代表で出ますので前日からの遠征は…」



「(土曜は前から約束してたし、ぜってー遠征なんて無理!…つーか、遠征するなんてスケジュールにも無かったし、言われてなかったろい!
だいたい元々日曜はオフで部活は土曜午前だけだったから予定入れてるっつーの。
あっちも土曜は部活午前中だけだっつってたし、午後オフ+デートに泊まりは1ヶ月以上前から決まってたことだぜぃ)

すんません…俺も、土日両親が不在で、小さい弟どもの面倒みなきゃでー」



「(ブン太……お前、あんだけ『土曜は午後オフ!デート!泊まり!』って騒いでて、家の用事って……ま、黙っとくけどよ。
仁王も似たようなモンだろ。こいつら………真田と幸村が休みで良かったな)

日曜は家の用事が…親戚のブラジル料理屋の新装開店するんですけど、その手伝いがあって。土曜の自主練は大丈夫なんですが遠征はー」




中等部から持ち上がりのテニス部1年即戦力どもは、揃いも揃って土日の遠征パス!と部長を困らせた。
(理由的には(幸村はともかく)『休むのはしょうがない』理由なので部長は何も言えなかったのだが…)



そして、現在土曜日午前中の自主練ももうじき終わろうとするなか、仁王・柳生がラリーを続けている隣のコートではジャッカルと丸井も同じくラリーをしていたのだが…





「今日、全然身が入ってねぇじゃねーか。どうしたんだ?
真田がいたら鉄拳制裁モンだぞ。幸村にもバレたら、後が怖ぇ」



朝から丸井はおかしかった。
いつものようにグリーンアップルのガムをかんでなければ、休憩中に間食することもない。
プレーも精彩を欠いているとでも言おうか、いや、動きはまぁまだマシなのだが、表情が曇っている。
惰性?
とりあえず体は無意識にでも動くのだろう。
ボールには追いつくしショットも正確に返っている……が、普段の勢いと強さが欠けているとでも言おうか。

今日は『午後オフ+デート!泊まり!!』でウキウキしていたのでは無かったのか?
少なくとも、昨日まではうっとおしいくらいのニヤけ具合で、まわりに花が飛んでいたことを思うと今日との落差に、『どうしたんだ?』と気にかけずにはいられない。



…過去、同じようなことで声をかけた結果、『聞かなきゃよかった』と後悔したことを忘れていたとしても。





「ブンちゃん、今日はうきうきお泊りデートじゃないんかの?」

いつのまにラリーを終えたのか、息ひとつ切らしていない仁王はラケットのヘッドで丸井の頭を軽く小突くと、にやにや笑みを浮かべている。


「『お泊りデート?』
丸井くんはご両親がご不在なので弟さんたちの世話があるんじゃないんですか?」

「柳生。ヤボなことは聞いちゃいかんぜよ」
「すると、遠征休みの口実だとでも?」

「ふっ。ブン太もお年頃やの」
「…仁王くん。私たちはまだ高校一年生なのですよ?」
「プリ」


「う、ウソじゃねぇし!
親父も母さんもいないのは本当だし…。な、ジャッカル!」
「ん?…ああ、本当だぜ?1泊2日の温泉旅行って前におばさん言ってたもんな
(ただチビたちも一緒で、ブン太が一人留守番+アイツが泊まりにくるってだけで)」



(い、言うな、ジャッカル!ヒロシにバレると面倒くせぇ)
(あ、あぁ)


-立海が誇るダブルスペアのアイコンタクトは、意思の疎通もバッチリである。




「そうなんですか…失礼、丸井くん。疑ってしまいましたね」

「そうそう。ブン太の両親が不在なのは本当のこと。で、俺の両親が不在なのも本当のことプリ」


「なぁにが本当のことプリですか!
だいたいあなた、いつ妹ができました?丸井くんはともかく、仁王くん!あなたという人は真田くんと幸村くんが不在の遠征だからってー」

「両親が不在なのは本当のことぜよ?ただ、姉ちゃんはいるから弟の面倒みなきゃいかんことは無ー」

「仁王くん!」

「柳生よ…細かいことは気にせんほうがええき。
だいたい真田も柳も幸村も、ましてやおまんもジャッカルもブン太もいない遠征に行くなら、びっちり自主練に出たほうがー」

「あなたが『両親不在で遠征不可』と申し出たのは最初に真田くんと幸村くんが断ったすぐ後でしょうが!
どうせあなたのことだから、今日ご両親がいなくでお姉さんと弟さんと夜に焼肉ディナー・肉の日コースを楽しみにしていて、急な遠征が入って困ったけど真田くんも幸村くんも不在だから肉の日コースを取ったとか、そういうことでしょう!?」


*柳蓮二の一口メモ*
『29日は「ニク(肉)の日」ということで、仁王は毎月家族と外食し、各行き着けのステーキ屋、焼肉屋等で「29の日コース」を食べるのを楽しみにしているらしい。
特に焼肉屋の肉の日コースは値段が得になるのもさることながら、特別な部位を出してくれたり、仁王家含め常連にこっそりサービスしてくれるそうだ。』



「さすが柳生。パートナーのことをよくわかっとるき」
「なぁにがさすがですか!」
「遠征は急の急で決まったこと……が、肉の日は前々から予約していた先約。断るわけにはいかんじゃろ」
「肉の日は毎月くるでしょう!」
「甘い。今月はなんと和牛のサガリとザブトンが格安価格でー」
「座布団が何ですって?!」
「今月の肉の日は希少部位じゃけん逃せん。…そして、姉ちゃんと弟だけに味わせるわけにはいかんぜよ!アデュー!!」



そう叫ぶと、レーザービームのフォームのままラケットを突き出し、部室へ走っていった仁王。

「あ、仁王くん!待ちたまえ!!」

…………を追って、柳生も走り去る。




どうやら自主練は終了ということで、引き上げるらしい。




「相変わらずだぜぃ」
「…だな」
「なぁ、ジャッカル。俺らもあがりでいいか?」
「ああ。これ以上やっても今日のお前はだめだろうしな」
「…わりぃ」
「今日だけだぞ」
「………うん」



ポン、と丸井の肩をたたき、残っている同級生部員に後のことを確認した。
他の部員はもう少し打っていくようなので、コートの片付けは任せることにして、こちらも部室に向かう。





「今日はあっちも部活は午前あがりなんだろ?」
「ん?俺、言ったっけか」
「昨日言ってたろーが」
「…うん」
「こっち来んのか?」
「…たぶん」
「今日お前ん家泊まるんだろ?なら来るんじゃねぇのか?」
「……のはずなんだけど」
「?」



(早く部室戻ってメールチェックしねぇと。
……ジロくん、起きてるかな)



本当は二人とも午前中は部活で、
泊まりにくるジローが部活終了後、立海までブン太を迎えに来て、
ブン太の部活あがりが早かったら、立海じゃなく行き着けのカフェで待ち合わせして、
お茶して、ぶらぶらして、スーパーで買出しして、家に帰って、
一緒にご飯作って、テレビみて、ゲームして、そんでもって夜になったら…


…なんて計画が。。。





『まるいくーん!!どうしよーッッッ!!
部活11時で終わりって聞いてたのにぃぃいいー!!なんか急に遠征に行くとかみんな言ってるしぃ!!』

『あぁ!?(そっちもかよ!)』

『オレ聞いてないしぃ。練習終わったら午後から移動で郊外に練習試合しに行くとか行ってるよぉー!!しかも泊まりだって』

『まじで!?』

『まじまじ!がっくんは居残り組って言ってたから、全員じゃないかもしんないけど』

『居残り組は午前中で終わりなのかよ?』

『わかんねぇ…』

『お前は居残り組なのかよ?』

『わかんねぇしぃ…』

『そこ聞いとけよ!!』

『あぁぁー号令かかっちった。練習始まっちゃうよぉ』

『ちょ、ジロくー』

『ごめん、確認してメールする!!休憩中に連絡するよぉ〜』

『あ』




-ツー、ツー、ツー…








「…って、連絡きてねぇじゃねーか!!」

ダッシュで部室に戻り、着替える間もなくロッカーから携帯を取り出したが、想い人からの着信も、メールも無く。。。

(弟’sの笑顔が眩しい、写メール着きの温泉旅行記は母から数件届いている)




「ブン太。愛しのジロちゃんはまだかの」
「うるせぃ」
「…芥川くんですか?今日こちらにいらっしゃるんですか?」
「の、はずじゃの?」
「・・・・・・」
「『午後オフデートでお泊り♪』」
「お泊り?芥川くんと一緒に丸井くんの弟さんたちのお世話をするんですか?」
「柳生よ。察しんしゃい。ブン太は留守番、家族は温泉旅行ぜよ」
「?ご両親が温泉旅行なのでしょう?」


「わーわー、おい、仁王!!てめっ、余計なこと言うんじゃねー(ヒロシにバレると後がやっかい……幸村くんにバレる危険が)」


「ふっ……日日華の角煮まん」
「あぁ?!(中華街まで買いに行けってのか!?)」


「(口止め料というヤツぜよ)」
「(コンビニで十分だろーが!!)」


「ブン太の弟たちも温泉ー」
「あー、江戸清の肉まんでもいーんじゃねーかな!!」

「黒ゴマあんまんも旨いのぉ〜」

「(てめェ!!増やすんじゃねぇ!)
ふ、ふかひれまんも旨かったな、そういや」

「(自分で増やしてるぜよ)
が、今回は王道に肉まんでええき」

「角煮じゃねぇのかよ」

「ほんじゃ、日日華の角煮まんと、江戸清の肉まんでハシゴしてもらおーかの」
「あんだと!?」


「…中華街にでも行くんですか?あなたたち」


「……………あぁ…。
(クソッ!仁王め。
……赤也にメールしてみっか。あいつ、どうせ暇だろぃ。。。パシらせる!!)」







「焼肉まで時間あいちょるき、付き合ってやるぜよ、ブン太」
「は!?」


「あぁ、そういうことですか。元町でしたら氷帝からも電車1本ですね。
立海までだとバスに乗らないとですけど、中華街なら芥川くんとすぐ合流できますね」

「!!」


「柳生とジャッカルはどうするんか?」
「私は明日のコンテストの準備もありますし、先に失礼させていただきます」
「俺も、すぐ親戚ん家いって手伝い入るから、パスだな」
「じゃ、赤也でも誘ってみるかの」
「…まさか店に並ばせるために呼ぶのではないでしょうね」
「…プピーナ」
「仁王くん!!」



そんなこんなで柳生・ジャッカルが去り、続けて仁王・丸井も部室を後にするが、、



「……さんきゅ」
「なぁに。角煮まんが食いたかっただけんことよ」
「角煮マンだけだかんな」
「せっかくだから肉まんもいただくとしよう」
「おまえ、あんま食わねーくせに、食ったら肉の日コースが食えねェだろぃ」
「肉は別腹……。そういえばジロちゃんから連絡はきたのか?」
「………きてねぇ。電話もつながらねーし。ってかあいつ、電源はいってねーよ……(電波繋がらないなんてありえねーだろ)」
「ま、ここで待っててもどーにもならんし。元町へ行くぜよ」
「あぁ……って、おまぇ、誰にメールしてんの?(このタイミングで)」
「ん?いや、なぁに。ちょっとパシリをー」
「?」




(ジロくんと連絡がつかねー。。。しゃーねーな。待つしかねぇし。
とりあえず肉マンと角煮まんとあんまんとフカヒレまん食って、タピオカミルクティとオーギョーチと、仙草ゼリーと杏仁プリンとー)






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