仁王くんと慈郎くんのほのぼのした日1



土曜の午後。
部活も予定も無い日は、基本的にはただただ部屋で寝ていること多々。
または、親に頼まれ、いるかいないのかわからない店番をしている。

『とりあえずレジのとこに座ってなさい』

とは毎回言われるセリフで。
たいがいDSをやるか、漫画を読むか、あとは眠ってしまうか。

常連客も手馴れたもので、来店して店番の看板息子がぐーぐー寝てているのは毎度の姿。
手前の呼び鈴で奥の店主を呼ぶか、呼び鈴隣に置いてあるポッキーの箱をあけて、ねぼすけ君の鼻先にひょいひょいっとかざしてみるか。

後者は小さい頃から知っている、余程の常連客しかやらない荒業だが、芥川クリーニング店ではお決まりの光景として、お客さん憩いの1シーンとなっている。


今日もまた、クリーニング店に入ってすぐのカウンターでは、看板息子がむにゃむにゃと夢の世界に行っていて…





【 仁王くんと慈郎くんのほのぼのした日 】






パコーン!

店番と称して惰眠を貪っていた慈郎の柔らかな頭に、不恰好なハリセンの一手が炸裂――小気味良い音を立てた。



「うぅぅ」


痛いしぃ。


うらめしく顔をあげると、そこには目に入れても痛くないほどの、可愛い可愛い妹の姿。



「じろ兄ィ、本、とってきてくれた?」

「いたいぃぃ」

「ほーん!」

「ほん…?」

「……やっぱり忘れてるしぃ。許せないー!」

「うわっ、ちょっと待ー」



もういっちょ、バチーン!
と振りあげた妹のハリセンを両手で止めつつ、大きな目をさらに大きくあけ、ワケわからん…と妹をみやる。


「何だよ〜。まじまじ、急にカンベンだしぃ」

「今日休みだから本取りにいってくれるって、昨日約束したでしょー?」

「ほぇ?」

「2時までって言ったのに!」

「…あ。」

「もう2時になっちゃうしぃ!」

「……あー、ええっとー」

「美加ちゃん、来ちゃうよぉ」

「あー、みかちゃんと遊ぶんだったっけ」



慈郎の脳裏に、昨夜のことが浮かんできた。
夕飯後、リビングで兄、妹とテレビみつつ団欒していると、先日妹が本屋で注文した画集の話題になった。
外見や言葉遣いは年相応な妹だが、趣味や考え方は大人びており、ここ最近は建築やインテリア等のデザインに凝っているという。
そして、海外の美術館や博物館、ビルなどの若手デザイナーの建築を集めた写真集が欲しくて、ようやく注文したものが本屋に届いた、と。

一刻も早く取りに行きたいが、あいにく取り寄せたのは隣町の大きな本屋。
配送にしてもらえばよかったのたが、いつ入荷するかわからなかったため、店頭取り置きで目処がだったら連絡をもらう手はずになっていたらしい。

(このやりとりを、親ではなく全て自分で行っていたので、兄としてもびっくりだが)



そして昨晩夕方、『明日、こちらに届きます』と本屋から待望の一報が入った。
幸い本が届く『明日』は土曜日で小学校も休みなので、本屋に取りにいける…!
と思ったが、塾のテストがあったことを思い出し、肩を落としたところ、長兄がナイスな一言を放った。

『慈郎、おまえ、取りにいってやれば?』


暇だろ?と、一言。
弟はーというと、まーどっちでもいいかな〜という表情だったが、長兄のセリフを耳にした妹が、キラキラした期待の目で次兄を見やるものだから。


『う〜ん、わかったー』

気軽に返事をした。



『まじまじ、じろ兄ィ?!行ってくれるのー?』

『いいよ〜部活ないしぃ』

『やったー!ありがとー!!』

『午前中に行ってくればいーの?』

『うん!塾終わったら美加ちゃんと遊ぶんだ〜。いったん家に戻ってくるから、そのとき本ちょーだい?』

『美加ちゃん家、持ってくの?』

『2時前に美加ちゃんが迎えくるから、それから出かける〜。
最初は一緒に見るって約束だも〜ん』

『りょーかいー』


2時には出るから、それまでに帰ってきてね。



そうお願いし、うきうきした表情で妹は部屋に戻っていった。

そして。




「お母さんが、じろ兄ィが昼からずーっと店番してるって!
そんでもって、昼まで寝てたって!!
ちょっと、どういうことなのー!?」


「………ごめんなさい」


「美加ちゃんに、本のことメールしちゃったしぃ!」

「うん、ほんとに……ごめ」

「美加ちゃんも楽しみにしてるのにぃ!!」

「美加ちゃんと本屋に行くってのは、どう?」

「これから映画だもん!座席指定で決まってるから時間ずらせないもん!!」

「あー…」

「ばかぁ!」



わーわー兄を責める妹に、申し訳ない気持ちがふつふつとわく。。。が。
チラっと見ると、ぶーたれてる一方で泣きそうな顔もしている。
やばい。


「わーったわーった。取ってくるしぃ」

「でも、出かけちゃうもん」

「ショッピングモールのシネコンでしょ?終わるくらいに、そこ持ってくから」

「………ほんと?」

「ほんと。映画、終わるの何時?」

「…4時半くらい」

「じゃ、そんくらいに入り口いるから。もしいなかったらメールして?」

「……いいの?」

「いいの。約束だしな」

「……ありがとう」


いいってことよ。



「お母さ〜ん、出かけるから店番終わってい〜い?」



キレイに結った妹のおだんご頭を軽く撫でて、母親に外出します!と許可を得る。
(ちなみに結ったのは長兄である)


「あ、美加ちゃんきた。じゃあ、行ってくるね」

「行ってらっしゃ〜い。後でな」

「うん、あとでね〜」



泣きそうな顔から一転、満面の笑顔に戻った妹は、軽やかなステップで出かけていった。







そんなこんなで、暇な土曜日あらため、妹のおつかいとして隣町の大きな本屋へ出かけることにする。
本屋には、手作りアップルパイと紅茶が美味しいカフェもあるので、一息つくのもいいかもしれない。

いつものリュックからラケットを抜いて、今日は休憩!と玄関脇に立てかけておいた。
車庫から出した自転車と、繋げた音楽プレイヤーから流れる軽快なオレンジレンジの音楽。
(まるいくんが『オススメ!』と貸してくれた)


準備は万端!






雲ひとつない青空の下、ペダルをこぐ足も音楽にあわせ徐々にリズミカルに動いていく。


さて、出発〜!






芥川慈郎、とある日の土曜午後。
隣町の『BOOKS-A』 へ、目的地を設定。


それでは、行ってきます!





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