冬・12月30日





「おいジロー」

「んー…」

「ったく、お前が遊びたいっつーから来てやったんだろ?」

「うー…」

「寝てんじゃねー」

「むぅ……」

「おいコラ。一昨日貸したゲームソフトどこやった。お前のカバンにもねーし、部屋にもねぇし」

「……」



「…なぁ、侑士。これ、何?」

「さて、どうしたんかなぁ」

「丸井んとこ泊って、昨日帰ってきたんだろ?おーい、ジロー?」

「はしゃぎすぎて疲れたん?
(それとも無事、最後まイタしてダルイ、なーんてな。アカン、岳人の前では言われへん)」



「お前、まさか丸井の―」

「…っ…」

「―家に、ソフト忘れてきたんじゃねぇだろうな」

「……」

「おーら、ジロー!おーきーろーっ」

「…ん…ヤ。寝る…」

「寝るなら呼んでんじゃねぇよ!」

「……」

「なぁ」

「……」

「…ホント、どーしたんだよ」

「……」

「何かあったんだろ?」

「……」

「…わかるよ。何年の付き合いだと思ってンだ」

「うぅ…がく、と」

「お前のことなんてお見通しなんだよ。ほら、言え」

「………なんか、前も…こんな、こと…」

「何百回も言ってるっつーに。ほら、キリキリ言え。とっとと吐け」

「……」

「亮呼ぶぞ」

「…ヤ」

「なら侑士」

「も…んだい……がい…」

「おるっちゅーねん」

「跡部呼んで欲しいんだな?」

「……」

「(あれ?ヤダって言わねぇ)…おい、ジロー?」

「ん…」




「なぁ、侑士」

「…あぁ」

「こいつ、まじ寝?」

「みたいやなぁ。こっち見てるようで、見てへんし」

「なんだよ…」

「ジロー、どうしたん?」

「わかんねぇ。昨日丸井んとこだったはずなんだけど」

「楽しいお泊りやんな」

「お泊りとか言ってんじゃねー。……さっき電話きたとき、コイツ話したそうだったから」

「珍しい」

「え?」

「いつも、丸井と会った次の日、元気いっぱいやん」

「ま、そうだな」

「全然寝んと、丸井と遊びに言った話を一から十までするのがジローやんな」

「…ウルセーくらいにな」

「何か聞いたか?」

「なーんも。この部屋入ったときからずーっとうとうとして、呻いてばっかし」

「俺が合流する前から、状況変わらんの?」

「昨日、丸井と駅で別れたのが夕方ちょい前くらいで」

「は?ジローのスケジュール把握しとん?」

「ばっか、ちげぇよ。コイツからゲームソフト、丸井ん家に忘れたかもってメールがきて」

「あぁ、さっき言うとったやつか」

「そ。丸井と別れてすぐだったから、家に取りに行くかもって」

「今ここに無いってことは、取りに行って無いんか」

「知らねぇけど、その後連絡無かったからさ。んで、さっき電話でうだうだ言うから、来てやったワケ」

「で、入れ違いで俺が岳人ん家着いた、と」

「てなワケで侑士に今日貸す予定のソフトは、多分丸井ん家だな」

「…となると、借りれるのは年明けっちゅうことか」

「まぁ、丸井んとこ取りにいくなら、そのまま持ってっていいぞ」

「アホ。遠いわ」

「はぁ〜。侑士に貸す予定だったヤツはまだいいけど、他にも何本かコイツ持ってったんだよなぁ」

「全部忘れてん?」

「こいつのリュックも、部屋もリビングも、どこにもねーもん。ったく、ジローのヤツ」




「…寝とるん?」

「寝てる。起きてたら何があったか言うだろうし」

「聞いて欲しいから、岳人呼んだんちゃうん?」

「さぁな。別に言いたくなくても、誰かのそばにいたがるとこあるし」

「せやなぁ。けど、結果的に岳人には話すんか」

「ま、俺と亮が畳み掛けて、コイツがアップアップになって喋るパターンっつーか」

「ジロー、何も言わん時もあるやん」

「そういうケースは、コイツ絶対に言わないから、俺らも諦めて放っとく」

「なんや、放っとくんか」

「言いたくねぇことはぜってー言わねーもん。無理やり聞いてもしょーがねぇし。放置!」

「放置、ねぇ」

「しばらくしたら話してくるから、そん時聞いてやる」

「ええお兄ちゃんやな、お前ら」

「ま、躊躇してそうなときは、亮も俺も容赦無しで突っ込んで、ジローが全部言うまで付き合ってやるし」

「幼馴染、か」

「跡部もすげぇけどな」

「跡部?」

「これ絶対言いたくないんだろうなーって俺らが放置した時に、跡部が変に責任感?みてーなモンだしてさ」

「…まさか」

「そ。ジローを跡部ッキンガム宮殿連れてって、根気よく聞きだして、見事アイツに白状させましたーと」

「ようやるわ」

「中1か中2か忘れたけど、そんくらいの時。それ以来、ジローも跡部にすき放題言うようになったしなー」

「元からやん」

「そうだけどさ。跡部に甘えるようになったっつーか」

「ああ、そういや最初ん頃よりは懐くようになったか」

「コイツ、パッと見は八方美人で愛想いいけど、中に踏みこまねぇと懐いてこねーじゃん」

「そんな時期もあったなぁ」

「よく言うぜ。侑士だって、最初の頃はコイツにめちゃめちゃ邪険にされてただろ」

「…ええ思い出や」

「しみじみ言ってんじゃねー」





「丸井の時は違ったんかな」

「え?」

「ジローから近づいて、踏み込んで」

「……」

「最初から懐いて、甘えてた」

「…だから、コイツの特別なんだろ?」

「岳人…」




「もーいいよ。わかってるし。コイツと丸井がお互いに好きなのも…なんだ、その。
同性で、高校生で、色々あるかもしんねーし、大変なことなのかもしんないけど。
けど、俺にとってジローは大事な幼馴染で、それがかわることは無いし。
別にコイツが誰と付き合おうが、何があろうが、俺はコイツの味方でいてやりたい。
だから、何かあってコイツが泣いたり、辛い思いしても、コイツがそれでいいなら見守るだけだ。

…出せる範囲なら、口も手も出してやるけどな!」





「岳人……かっこええわ」

「へっ!亮も一緒だぜ、たぶん」

「俺も、跡部も、皆一緒や」

「だよなー……いや、跡部はどうかな」

「…悪い、適当なこと言ってもうた、今」

「コイツが泣いたら、何より跡部が怖ェんだけど」

「気分は一人娘を持つおとんやしなぁ」



「…なぁ、今回のコイツ、やっぱ変だよな」

「まぁ、いつもの丸井と会った後のジローにしては」

「すっげぇウルセーのに、今日は全然その話しねぇし」

「最初からこんなん?」

「ああ。部屋入った時はまだ起きてたけど、それでもベッドから動かなかったし」

「俺が来たときはもうウトウトしてたなぁ」

「何聞いても『うー』だの『あー』だの。会話になんねぇ」

「けど、呼ばれたんやろ?」

「聞いて欲しいのか何か聞きたいのか、どっちかだろうけど。まだコイツん中でまとまってないのかも」

「そうか」

「まさか、アイツに無理やり何かされたんじゃ」

「なワケあれへん」

「だよなぁ。今の丸井に、ンなこと出来ると思えねー」

「半年前とは別人やで、アレは」

「特にコイツの前だと、もうデッレデレで見ちゃいらんねぇ」

「雰囲気も柔らかなったしな」

「おー。心配してたのがアホらしい」

「本気で好きな奴が出来たら、人は変わるいうことやな」

「……侑士、キメェ」

「心理やん。岳人も小説の一つや二つ読んでー」

「ラブロマンスはいらねぇっての」




「まぁ、ジローにベタ惚れで、宝物のように扱ってる丸井が、ジローの嫌がることするとは思えんなぁ」

「だよなぁ」



(例え抑えが効かなそうになったとしても、無理やりはせぇへんやろ。
ジローもホンマに嫌なら抵抗するやろうし。黙ってヤラれるタイプでもあれへん。
ケンカか?……いや、丸井とケンカしたなんて今まで聞いたことないしな。
わからんなぁ)






「…まる…い…く…っ…」




「「……」」


「…ジロー、泣いてる?」

「何があったんやろなぁ」





―いつもの様子と違いすぎて、ダブルスコンビには原因がわかりそうにない。
どうしたもんかと顔を見合わせながら、起きるまでしばらく待つかとそれぞれ携帯をいじり、部屋の主の漫画本をあさり、と数十分の時を過ごす。
そして。












「…ねぇ、岳人。前にさぁ」

「うん?」

「夏に、言ってたヤツ」

「ああ、何だよ」

「えっと…」

「?」

「あの…覚えてたら」

「だから、何?」

「立海の、その…仁王と、丸井くんの話で」

「なんだよ、はっきり言えよ。何が聞きたいんだ?」



(何やジロー、もじもじして。
夏、立海?何や?

仁王と、丸井。立海?……あ、まさか―)




「前にさ、仁王と丸井くんのこと『立海の遊び人』って言ってたでしょ。
あれって、どういうこと?」



「へ?」

「(やっぱり…)」




「忍足も知ってる?
オレ、あのときはただ人気があって、モテるんだってくらいに思ってたんだけど、もしかしてそうじゃない?
あの時岳人、忍足も一緒って言ってたよね?
ねぇ、忍足も『遊び人?』なの?それって、どういうこと?」



「岳人、どないしてくれるん」

「…侑士、悪ィ」

「火、ついたやん」

「いや、あれは言葉のアヤというか」

「…俺、完全なるとばっちりやで」

「まぁまぁ…って、どーするよ、コイツ」

「完全に覚醒しとるやん。聞かな引き下がりそうにないし」



「ねぇねぇ、聞いてる?忍足」

「あー…」



「じゃ…侑士、後はよろし―」

「ちょお待ち、岳人!」

「何だよ、聞かれてんのはお前だろ?『遊び人』についてなんて、俺はわかんねーし」

「それこそ、俺、単なる巻き込まれやん」



(ジローに本当のことなんて、言えるわけねーだろうが)

(俺かて言えんっちゅーねん)

(夏の付き合う前ならともかく、今は丸井とソウイウ仲になってんだから)

(だからって俺からも無理やって。丸井のためにも言えるかい!)

(ジローと付き合ってからは真面目で遊んでねーみたいだし、そんな丸井の昔のことなんて)

(彼氏の元カノが気になる今カノ的なシチュエーションなんか?コレは)

(でもよ、元カノっつっても、丸井の場合は彼女云々の話じゃねーじゃんか)

(あー、まぁ『遊び人』やしなぁ)

(そんなこと今、ジローが知って何になるんだっつーの)

(せやなぁ。ジローも、丸井が過去誰とも付き合ってないなんて思わんやろ)

(そりゃそうだ。丸井の過去の彼女なんて、ジローは気にするヤツじゃねー)

(『遊び人』を、モテる丸井が元カノ何人もいる、くらいの感覚やったんかな)

(文字通りの『遊び人』ってか。けどよ、それを知ったとしても、今の丸井はちゃんとしてるし、俺から見てもジロー大切にしてんのわかる)

(あの強気な男が、ジローにはてんで頭あがらんで、色んな顔するしなぁ)

(昔をどうこう言っても、今の丸井を知ってるジローなら、何聞いても平気だろ)

(…と思うなら、岳人が言えばええんちゃう?)

(ばっか、言えるわけねぇだろ。聞いてくるっつーことは、コイツん中で何か引っかかってるってことだろ?!)

(なんや、現場でも押さえたんか)

(は?)

(浮気現場)

(……)

(なーんてな)


((ないない))


(あんなジローにデロデロの男が、浮気なんて出来るわけないやん)

(当たり前だ!浮気なんてするような男にジローやれるか!!)

(岳人、お前いま、跡部みたいになってんで)

(!俺に失礼なこと言うんじゃねー)

(せやけど、あの丸井にそんな疑惑、欠片も思い浮かばん)

(…だよなぁ。すっげぇコイツのこと大事に大事にしてる感じで、見ているこっちが恥ずかしいっつーの)



「ねぇ、聞いてるの?忍足。岳人も」

「「……」」



(なぁ、侑士)

(…なんや)

(とりあえず根気よく聞きだして、畳み掛けようかと思うんだけど)

(ジロー、言うんか?)

(この感じだど、絶対『言いたくない』っぽくは無いから、粘れば言う気がする)

(宍戸おらんけど、岳人一人で大丈夫なん?)

(何のためにお前がいるんだよ)

(…俺、か?)

(亮の代わり、ちゃんとやれよ)

(何すればええねん)

(俺が聞くから、援護射撃。どんどんかぶせて)

(ようわからんけど、まぁやったるわ)

(左右から言い続ければ、コイツいっぱいいっぱいなって最終的に全部答えるから)

(催眠術みたいやなぁ)

(言わなかったら終了、放置決定。よし、行くぞ)

(…ハイハイ)



「ジロー、あのさぁ…」





―年の瀬の昼下がり。
電話口で元気のない幼馴染が気になって、招かれるまま彼の部屋にお邪魔したものの…
花もほころぶ幸せいっぱい、ノー天気な笑顔で迎え入れると思いきや、当人はベッドにうつ伏せて顔を上げずに呻いてばかり。
直後にもう一人の友達がかけつけても、寝転がる彼の様子は変わることがなく、うとうとしだし眠る始末。
ようやく起きたと思ったら……問われる内容の理由がわからず、どうしたものかと困りつつ、根気よく探り出しを決意する二人だった。






(今年も、終わっちゃうな……年明けたら、丸井くんのとこ、行かなきゃダメ、だよね…
岳人のゲームソフト、取りにいかなきゃ…どうしよう)



―今年最後に見た大好きの人の姿を思い浮かべると、―青空が広がる駅前の道路、停まるパステルカラーの鮮やかな車。
そして、彼が『一緒にいる』はずの彼の親友と過ごしていた自分と、外車の美人を指し『今でも続いてたんだ』と呟く彼の後輩。
皆が口々に言う『今のブン太』『今の丸井』。『今』じゃない彼は、いったいどうだったというのか。
眠気と気だるさに襲われながらも、心の中に巣食ったもやもやが、だんだんと大きくなっていくがして。
こんな感じの自分は好きじゃないと布団をかぶり、訪れる眠気に身をゆだね、そのまま暗転。夜がふけて今年が終わろうとしていた。






(終わり)

>>目次
****************

短編「ブン太とジローの夏休み一週間」から4ヶ月後、冬休みの二人の一週間でした。


終わりかい!?

―終わりです
@一週間の最終日ゆえ

何かしらの救いといいますか、結末、フォローはしようと思いますが。
今のところ、2014.3.30現在、続きは未定です。
夏休み、冬休みなので。キリがいいのは春休みなのでしょうが、となるとこの状態で本編何ヶ月あくねんという話ですネ。
『会話文』くくりなのですし……おさめるには短編一本書くしか―。

いや、ほら、氷帝小話とか、ショートショートとか、長編とか、色々やりたいことがあるゆえ

いつか書きます。きっと。そう遠くないうちに……なんちゃって。


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