一度果てた後でベッドのうえで寝そべり、他愛もない会話を交わすこと数分。 互いに課題で忙しく電話やメールでやり取りはしていたけれど会えない日々が続き、少しの時間が出来たとしても忙しさの合間にお茶するくらいの僅かなもばかり。 こうやって片方の家に寄り、寝室で深い時間を過ごすなんて到底無理だった。 そんな忙しさの中なんとか時間を作って会いにきてくれた恋人に、久しぶりだと腕をふるい夕食をふるまって、さて駅まで送ってバイバイ。 …と思いきや、明日の昼まで大丈夫だからと相変わらずの可愛い笑顔で『終電までいるね』と断言した彼がシャワーより戻ってきてから小一時間。 コウイウのは受身の方が負担大きいから。 なんて遠慮しようとした丸井の葛藤なんて何のその。 太陽のように明るく朗らかな金髪の愛しい人は、丸井の大好きな陽だまりの笑顔で数ヶ月に一度あるかないかの『お誘い』をしてくれて、その後は抱き合って恋人同士の営み………と進んで休憩中の現在。 彼の奥で果てたいと思いつつもそこは一応の遠慮を見せておこう。 けれども大切な『1回』だと思えば変に急いてしまうのはもったいなさすぎるので、挿れる前に何発か抜いておくかと、与えられる愛撫に気持ちよさげに喘ぐ恋人を眺めながらこそこそ自慰めいた行為を……密やかに。 幸い芥川は久々の快感に甘い声をあげて色っぽい肢体を見せてくれていて、裏ではせっせと奉仕している丸井が『最高の一発』のために勢いをそぎ落とそうとコソコソしていることなんて気付いてはいない。 バレればきっと『本当、アホなんだから…』と呆れるか、哀れんだ瞳でため息をつくにきまっている。 (あ…イク…っ) 彼の滑らかな肌に証をぶちまけたい衝動がわくも、何事も物事はスマートにいきたいもので。 出来れば目の前の可愛い人には見られたくないので寸前に出し、ベッド脇のティッシュ箱から急いで数枚抜き取り思いのたけをぶちまけた。 そんな、休日の夜のこと。 >> たいがぁばーむ?事件 by 丸井ブン太 「もう…っ…」 久しぶりの行為だからと準備は入念に、ゆっくり、じっくり、丁寧に。 ただ一箇所をを集中的に探り、触れた時に今までとは違う声色があがったのを機に、ここぞとばかりにそこを攻めてはひたすら甘い声を響かせる。 中を傷つけないように優しく丹念に指を動かし、快感で小刻みに震える芥川に目を細め愛しげに撫でていると、弱々しく首をふりながら次を促してくる。 「まるい、く…。も、いい…か…ら」 一番感じるポイントだけをしつこい程入念にほぐしてくる彼に、いいかげんにしてくれとその赤い髪を握り訴えてみるも、言葉にしようとするたびに中の指の動きを変え、激しく突いてきたり、かぎ状に曲げて大きくグラインドしたりと、その長い指を抜いてくれない。 けれども芥川としてもそろそろ限界で、組み敷かれながらもチラっと見えた視界の端には露になった彼の下腹部と、盛り上がったモノを何やらさすっている彼自身の片手。 何故、いつものように覆いかぶさってこないのか視線で問えば、困ったように笑って、いつものアレが無いのだと。 ソウイウ営みで使う潤滑剤の中でも、丸井が最近気にいっているのは、ほんのり甘いとろみのある純国産。 植物性オーガニックタイプで口にいれてももちろん問題のない体に優しいものは、本来は女性用化粧品の部類なのだが、一度使ったら今までのそのどれよりも馴染みがよく大のお気に入りとなった。 学生の身では中々手が出にくいブランドとその値段だが、幸い中学時代からの友人の姉がその化粧品会社に勤めているため、親戚扱いとして社員価格で融通してもらっている。 なのでいつもストックはある………はずが、ベッド脇にはすっかり空のボトルが転がっているだけ。 (しまった……どうすっかな…) 1.今回は諦めて挿れない 2.無しでやる 3.代用品 1はありえない。 なんせ元々、今日は無理だろうと半ば諦め、自制しようとしたところで芥川からの貴重な貴重な貴重なお誘い。 これを断るなんて男じゃねぇ!……なんて心の中で誓ったのは30分ほど前のことだったか。 2も出来れば避けたいところ。 無くてもできないことは無いが、恋人への負担を考えれば何かしらの潤滑剤は使いたいところ。 いつものモノを補充しておかずストックも無いのは全て丸井自身のミスではあるものの、きっと芥川は無ければそれでいいと微笑んでくれるだろう。 しかし、どんなに入念に慣らしたところで、繋ぎがあると無いでは彼への負担が違う。 愛する人へは少しの痛みも与えず、気持ちいい快感だけで包みたいと切に願うからこそ、今まさに考え考え、とりあえず結論が出るまではと、彼の後蕾をじっくりゆっくり解しているところ。 だが、愛撫を与えながらも違うことをずっと考えていたためか予想以上に時が経っていたようで、髪をぎゅっと掴まれて見上げた先に、頬を染めて潤んだ瞳がたまらなく可愛らしく、色っぽい恋人の姿。 これ以上その敏感なトコロを攻められたらワケわからなくなり、頭も真っ白になるから止めて欲しい―制止させたい思い。 同時に、もう前戯はいいから繋がりたい―先を促したい思い。 そんな二つの感情が揺れる瞳から伝わり、一瞬「2.無しでヤル」に進もうとするも、最後の理性が働いて何とか「3.代用品」を探るべく部屋を見渡した結果、掴んだ瓶。 金の蓋に、緑のパッケージ。 外国産のものだが、以前、詐欺師に貰った海外土産の怪しいクリームとは違い、ブランドは聞いたことあるので安心できるだろう。 潤滑剤の代わりになるのか謎なところだが、いわゆる「軟膏」のため、まぁ大丈夫だと思いたい。 なんせコレをくれた後輩は、中学時代から愛用の軟膏を万能だと信じて疑わず、確かに彼が肌身離さず持つ万能薬をこういう行為に使ったこともあれば、その時は問題なかったはずなので。 後輩の愛用品とは違うものだが、それでもくれる際に『同じようなもんッス、多分』と、ただの軟膏だと教えてくれた。 姉の海外土産に貰ったものだが彼自身の愛用品は国産のオロナ●ンなので別の軟膏は不要と、ある日の飲み会で後輩の切原に渡され持ち帰るも、部活に明け暮れていた中高時代とは違い日常生活でこういう薬を使う機会などなく、棚に置きっぱなしになっていた。 ソウイウ意味での潤滑的な意図とは違うだろうが無いよりはマシだと言い聞かせることにして、蓋を開けてみる。 半透明な薬を人差し指で掬ってみれば、意外と固めでオ●ナインのようにクリーム状ではない。 (どんくらいありゃいいんだ?…とりあえず、ちょっと多めに) 思うほど掬えないが、それでも半固形状な薬を多めに取り、指で練り合わせて体温を移していく。 緩く滑らかになったところで二人の繋がる大事なトコへそっと忍ばせて一気に奥まで進め、ゆっくりと円を描くようにまわし、馴染ませる。 「ひゃ…っ…」 しつこいほど中で動き回っていた指が抜かれ、しばらくして再度入ってきたのはわかったようだが、何やら入念に、中のあらゆるところまで万遍無く動く指に違和感を覚えそっと丸井を見つめてくる。 少し不安そうに眉を寄せる彼を安心させるべく、柔らかな金糸を撫でて目尻にキスを落とし、そのまま下がって軽く啄ばむように唇に触れる。 「あ…んっ…まるい、く…」 「うん」 ただただ気持ちよくさせて、自分の下で喘がせたい。 『何もしなくていいから、寝転がって、可愛い声だけ聞かせて』 じゃれ合いを終えてベッドに押し倒し耳元で甘く囁けば、照れくさそうに頬を染めて自分も気持ちよくさせたいと嬉しいことを言ってくれたが、そこは拝み倒して『今日は好きにさせてください』と言い切った。 その際にノリでベッドの上で正座し、頭を深く下げたため『まぁたアホなことやって…』なんてため息つかれたけれど。 普段なら恋人からの奉仕は喜んで受けるところだけど、『一回だけ』と決めている今日、そんなことをされたら単純な自身のモノはすぐさま、そして何度でも爆発するだろう。 少し前にその可愛らしい唇で銜えてもらい、果ててはいるのだけれど。 しかし、いよいよ始めますかと切り替えたら、なるべく長く『1回だけ』に集中したいので、出来れば恋人にはされるがままになってもらいたい。 理由を言えばきっと、気にしなくていいから満足するまで抱き合おうと両手を広げてくれるだろうが、そこは自制することにして。 『一回だけ』に留めようとしている決意は微塵も見せずただお願いすると、結局は折れてくれる。 『何考えてるかわかんないけど……ま、いっか。好きにして?』 それが、開始の合図。 そしていよいよ… しつこいと頭を叩かれながらも、せっせといじくり倒した後ろは柔らかくほぐれ、最後の一押しと念入りに塗りこんだ潤滑剤で準備も万端。 『一回だけ』のまさに最骨頂、そう。挿入の瞬間です― 声に出したら次は無言で呆れられるかもと知りつつ、頭の隅では実況中継の如くあれこれと逐一囁く自分がいて、今まさに待ちに待った瞬間を迎えるべく腰をただし、ただ一点の的を狙い先端をあてる。 「あ…っ…」 先端が僅か入り込むと反射的に息を呑む声があがり、なるべく圧迫感を与えないようゆっくり腰をすすめて、ひとまずすべて収めることにする。 「ジロくん、痛かったら言って」 「う…ん…、あ、あっ」 (入った…ジロくんの、なか) ―温かい。 おそらく無意識だろうが適度に締め付け、腰を揺らし奥へと誘う恋人は最高に可愛くて、いやらしくて、……何よりも愛しくて仕方ない。 (かわいい…) 「あん…っ…ン…」 「動いて、いい?」 「う…ん…。―っ、ひっ、あ、あ、あぁぁん」 「…え?」 いや、まだ動いてませんけど。 頭の隅の実況が冷静な一言を囁き、かろうじて声に出なかったものの、恋人の甘い声が一転して切羽詰ったような慌てた声色になり、怪訝に思って彼の顔を覗き込む。 「ジロくん?」 「はぁっ、はぁ…っ…ま、まるい…く…」 「ど、どした?」 「うぅぅ…ッ…い、いっ…」 「い?」 ―イイってこと? それにしては、眉を寄せてどこか苦しそうな顔。 ヨガってんのかなんて軽口は隅に追いやって、軽く腰をゆすると幾分表情が和らいだ気がするが、動きを止めるとやはりぎゅっと目を閉じて唇が戦慄き、その姿はどこか苦痛を訴えているかのようで。 ―苦痛?いや、そんな、まさか。 あれだけ慎重に前戯を施し、少しの痛みも感じさせないよう念入りにほぐしたというのに。 咄嗟に中に埋めていた自身を抜き、潤滑剤を足そうと軟膏をさらにすくって指を入れようとした瞬間、弱々しい制止が入る。 「そ…れ、ちょっ…と、待っ…」 「うん?あぁ、ごめんな。もうちょっと我慢して」 「だ、だめっ…あぁん」 え、ダメって? (?…まぁ、いいか) 薬をたっぷりとった指を差し入れて、奥へ奥へとすすめ塗りたくるも、中は十二分に柔らかく唾液と軟膏でかなり潤い、まったく問題のないように思える。 本人も、いい加減に挿れてくれと訴えていたはず……だからしてこれ以上は不要なはず。 しかし芥川の表情は、挿入の圧迫感やその際に感じる痛みというよりも、根本的に何かに苦しんでいるような、苦悶とも取れる気がする。 「ひぃっ、ヤ、それっ―あぁぁぁああん」 「へ?ちょ、ジロくん??」 「い、い…っ…」 「イイ?…じゃねぇよなぁ」 「い、たい、よぉっ、…ううっ」 ―痛いって言った?いま。 思わずぎょっとして顔を近づけ、まじまじと覗き込むと、心なしか額から汗が滲んでいるような。 それも、激しく運動をしたからではなく、浮かべる苦悶とあいまって冷や汗としか思えない。 「そ、れ…っ…」 「え、コレ?」 苦しげに顔を歪める恋人の視線の先は………放り投げた軟膏? さすがにこうも荒い息で途切れがちに紡がれる単語を拾えば、もっと慣らすために塗って欲しいという訴えだなんて、思えるわけもない。 (あれれ?これ、ダメなやつだった?) しかし思い返せば、後輩は『海外版の万能塗り薬らしいッス』と言っていたではないか。 用途的にはオロナ●ンと同じで単に国産や否や程度の差、との認識。 さらには常用の潤滑油が切れていたことが後押した先に出てきた丁度イイものだったはずが。 (オロナ●ンより固めで、ちょっとスースーしたけど…) 掬い取った時は感じなかったが、中に塗りこめて抜いた指が外気に触れたとき、冷んやりと清涼感にも似た刺激を覚えた。 ただ単にそういう成分が入っているのかと、刺激のまったくない国産の例の軟膏とは違うのだな、程度の感想がよぎっただけで大して気にはしなかったのだが…。 しかし、この痛がりようは何だろう? 「おく…が、ひりひり…っ…して…うっ、うぅ」 ―その瞬間、塩をふられたナメクジ― もとい、傷口に消毒液をぶっかけて苦悶でのたうちまわる切原を思い出した。 その後、止血前に直接かける馬鹿がいるかと三強に怒鳴られていた結末までも。 いくら刺激の少ないものだとしても、敏感なところには控えるようにと― 敏感な、ところ? (…あ。やべぇ) 「うぅぅ…ひっ…く…」 「ごめん、本当ごめんっ、ジロくん!」 「わぁぁぁん」 「あーあー、泣くな…くそっ」 金糸を胸に抱え、ぎゅっと強く抱きしめて耳元で何度も謝り、天を仰いでどうしたものかとため息を………零しそうになる自身を諌めた。 泣きたいのは芥川の方だろう。―いや、もう泣いているか。 (どうしよ……でも、中いじるほうが、ちょっとはマシなのか?) 一番敏感で無防備なところに刺激性のあるものを直接、しかも多めに塗ってしまった結果が、冷や汗とともに涙を流して苦しげに眉を寄せる恋人の姿。 時間が経てばおさまるだろうが、それまでただこうやって抱きしめるだけでいいのだろうか? 何とか彼の苦しみを和らげる、何かいい方法は― ―その時、友人宅で鑑賞したAVのワンシーンが脳裏を過ぎった。 数ある作品の中で、知人が面白半分で紛れ込ませたゲイ物、しかも縛りテーマのスカ有り浣●プレー付き。 中身を綺麗にする云々で大量の液体を― (な、何考えてんだ、俺。ンなことしたら―) コロされるに決まってる。 何にでも試したがる丸井に、これだけは絶対に嫌だと泣いて拒否したのがSMやらスカやら、そっち系だ。 かろうじてコスプレOKで、試したい体位も協力してくれるけれど(心底嫌がることもあるが)、基本的にオーソドックスな普通のセックスを好む芥川だ。 現に、友人の海外土産という怪しいラブグッズを内緒で試したら、今までに無いくらい乱れ快感を我慢できず何度も欲しがり、非常に楽しかった一晩。 ……なのは丸井だけだったようで、その後一ヶ月は口を聞いてくれなかった。 いくら苦しくて泣いているからといって、勝手に風呂場へ連れて行き中にお湯ぶっこんで―――いやいや、後が怖すぎる。 言い訳の一つもしたいところだが、芥川側からみれば『勝手に得体の知れないものを塗った』ことになりはしないか? しかも、またしても『友人(が実姉から貰った)の外国土産』。 ―いいや、違う、違うんだジロくん。これは……そういうつもりじゃなくて― 多種多様な言い訳が頭をかけめぐるも、苦痛に身を捩じらせている腕の中の恋人は、落ち着いたら無言で帰宅しそうな気もするし、事情を素直に話せば許してくれそうな気もする。 ありとあらゆる我侭を言うのは基本的に丸井で、笑顔で受け入れてくれるのは懐が広く、おおらかな芥川であるからして。 (なんだっけ…明日は確か、こいつ朝から講義……てことは後、一時間くらいで帰さないといけないか。 終電が……いや、もう、この状態じゃあ) 子供をあやすように優しく髪を撫でては震える体を抱きしめて、涙を拭いながらどうしようかと考え、考え、浣●は論外までも、他の刺激で気を紛らわせれば少しは楽になるかと、どさくさに紛れてもう一回挿れてみようと思ったその時。 腕の中の彼が途切れ途切れ呟いた小さな声が耳に入ってきた。 「お…く…っ…むずむず、するっ…」 「………俺、どうしたらいい?」 「…れ、て…っ」 ―!!! (い、い、いま、ジロくん、言ったよな??挿れろって言ったよな?) 常日頃、非常に単純な思考回路で、お気楽、いいように捉えすぎ、ポジティブすぎる、と散々言われている赤い髪の彼である。 多少の脚色や、脳が都合よく変換して受け取るのは毎度のことで。 (…いいや、うん。明日とか、もう。 終電間に合わなかったら泊めて、朝起こせばいいだろ) 数時間前見せていた遠慮はどこへやら。 心の中に留めておいていた配慮、心配り、恋人への負担、明日の予定。 その全てがサーっと消えていき、かわりに支配するのはどこか動物的で即物的な感覚ばかり。 こうなってくると『後が怖い』なんて躊躇していた数分前なんて何のその、お構いなしに進めてしまうのが自分の悪いところだな、とは全てが終わった後で反省する部分なのだが、リアルタイムではそんな後悔まで考えない。 「あぁんっ、うっ、うぅ…っ」 「くっ…」 「ひぃ、あぁぁっー」 抱いていた体をひっくり返しうつ伏せて、腰を高くあげさせて後ろから一気に挿入し、奥の深いところまで貫く。 そのまま華奢な腰の左右をぐっと掴み、押し付けるよう力をいれて深く交じり合う。 ひたすら乱れていた吐息に甘い色が戻ってきたのを感じ、そのまま推し進めることにして、恋人が声をあげている間はずっと突いてやろうと気合入れて、あれほど入念に期待していた『一回』を早くも最奥にぶちまけた。 「はぁ、はぁっ」 「……まだまだだろい」 「はぁ…っ…ま、まるい…く、ちょっ…待っ―」 「んっ」 「ひっ、あ、あっ、いやっ、やぁぁー」 終われば理性が戻るのはいつものことなので、今は本能に従うことにする。 怒るか、笑顔で許してくれるか、無言で這ってでも終電で帰るか、はたまた甘えてくるか。いや、最後のは無いな。 あれこれ考えるのは全てが終わった後にしよう。 ―攻め手の心が決まった。 一方の受け手側は。 息も絶え絶えに『はなれてほしい』と伝えたはずが、なぜこうなったのか。 むず痒かったところに丸井が入ってきたことによって薬の刺激が和らぎ楽になったことは確かで、離れず行為に及んだ彼に感謝した―と言えなくもないが、中で果てた後もかわらない硬度に一瞬正気に戻りぎょっとした。 けれども考える間もなく激しく突かれ、あがるのは制止にもならない喘ぎばかり。 徐々に遠のく意識に数時間後の自分を予想し、どこか冷静な目で『明日の大事な講義はたとえ参加できても何も頭に入らない』ことを悟った。 (まるいくん……目が―) ―イッちゃってるし。 こうなった丸井は何を言っても右から左で、一種のトランス状態に陥っているともいえる。 何度目か数えたことは無いけれど、身に覚えのある限りでは翌日の自分は悲惨なことになっており、そのどれもが足腰がたたず、這いつくばって丸井から離れようとするも捕まり、風呂場に連行されて隅々まで洗われる、という結末。 明日は本気で大事な講義なので、出来ればこちらに影響の無い範囲で腰動かしてもらいたいものだが、こうなってしまえば何を言っても聞こえてないし、何よりも彼のリズムが早く強すぎて、口をつくのは言葉にならない喘ぎばかり。 怒るのか、許すのか。 ひとまず全ては明日朝の体の具合、及び講義の参加状態によるなと思うことにして、これ以降は何も考えず快感に身を任せてしまおうと早々に理性を飛ばした。 たとえトランス状態になっても、翌朝はきっちり確実に起こしてくれる彼なので。 (終わり) >>目次 |