二十歳な二人*前哨戦



軽くシャワーを浴びた後、ペットボトルのミネラルウォーターで水分補給しているところをついじっと見つめると、視線に気付いたジロくんが振り返り首を傾げてきた。
なんでもないと首をふって返すと、続けて水を一口、二口、ごくごくと勢いよく含んでいく。

露になる喉元と、流れていく水の動き。

ペットボトルから離れた唇は僅かに半開きで、水に濡れたためか潤い、ほんのり赤くなっている………せいなのか、それとも最近忙しいためソウイウ行為がご無沙汰だったためか。

―おいおい、まじか。


濡れた唇と無防備な喉元が酷く色っぽく見えて、思わず反応してしまった己の下半身に少々驚いた。
ご無沙汰なのは二人での行為はもちろん、一人での処理もまったくしていなかったので、……となると、ささいな光景でも反応してしまうモン?

ってか、そんなに溜まってたっけ?


隠すのも何だかなぁとベッドに腰掛け、はたして治まるかそれともどんどん堅くなっていくだろうかと、おもむろに視線を下げて観察していたら頭上からため息が聞こえた。
見上げると盛り上がった俺の下腹部を呆れ眼で眺めるタオル一丁のジロくん。


「…なに?」

「丸井くんこそ、なにソレ」

「勃っちゃった」

「ナンデ?…どのタイミング?」

「わかんねぇ。ジロくんが半裸だから?」

「半裸って……風呂上りだもん」

「最近ヤってねぇからかなー」

「……あっそ」


静まるかと思いきやジロくんが寄ってきて、目の前には滑らかな肌と胸元の薄紅の飾りが可愛らしくツンと上を向いていて………治まるわけないだろ。
思わず至近距離まで迫ったジロくんの胸にそっと手を置いて尖った先端を軽く摘んだら、反射的に呟かれる吐息とともに『痛い』との声も。


「寒い?」

「ん…別に、そんなに」

「乳首ビンビン」

「その表現、どうなのさ」

「へーへー」


どうやらジロくんの乳首の尖り具合と、俺の勃起状態との関連は無いらしい。
ただ単に生理現象で部屋に入ったときに少し肌寒かったからだと言われ、エアコンの温度をあげようとしたけれどそこまで寒くもないみたいだから、そのままにしておく。

しかし、ジロくんを前にした俺の下半身はどんどん熱を帯びてくるし、肝心のジロくんはきょとんと可愛らしく首を傾げて不思議そうに見つめてくるし。
そういうつもりでジロくんを家に呼んだわけではなく、ただ、最近忙しくて会えてなかったから、ようやく時間が取れた今日という日が格好のチャンスだったってコトで。


チャンス?


…あぁ、そうそう。
そりゃあ、そういう雰囲気になってジロくんが嫌じゃなければソッチ方面にも持ち込もうとは思っていたことは否定しない。
ジロくんは何も言わないけど、向日に聞いた話だとコイツも中々忙しいみたいだ。
明日も休みでは無いので泊りは無理だろうし、そうなったらあまり無理にお願いすることも出来ない。

せいぜいジロくんのために腕をふるって、夕飯食べたら駅まで送って、バイバイかなー。

帰したくはないけど、お互い多忙で明日も朝から予定が詰まっていることを考えれば、……俺はジロくんとヤるとパワーチャージで元気いっぱいになるけど、受ける側の負担は比べ物にならない。
翌朝、辛そうなジロくんの腰を何度もさすってマッサージしてきたことを思い出すと、恋人同士の営みとはいえ中々お願いしにくい。

明日が休みなら遠慮なしにいけるし、ジロくんは基本的に俺の欲望?希望?…というか、お誘い関連を拒まず受け入れてくれるから、普段は好きなようにやっているのだけど、さすがに翌日のスケジュールがタイトだと躊躇してしまう。
きっとジロくんは『いいよ』と笑って両手を広げてくれることは今までの経験上予想できるけど、さすがにコイツが翌朝受けるダメージを考えると、いつものように優しさに甘えることはできないだろ。
そりゃ、俺がちゃんと理性を保って、一回だけと決めておけばいいのだろうし、それならジロくんの腰も翌朝引きずる程にはならないはずだ。
ただ、いくら『ジロくんのために』と思っていようが、いざ行為に及ぶとひたすら快楽を追って、果てる頃には『一回だけ』なんてふっとんでしまう。


ジロくんのカラダは甘くて、いいニオイで、まるで中毒性のある危険な―


…なんて、どこぞの小説かドラマで聞いたようなフレーズを持ち出してたとえようとした数ヶ月前。
行為を終えて小休止とばかりにそれぞれ過ごしながら件の『中毒性』について説き始めたら、ジロくんはベッドのうえで全裸のままカバンから取り出したスナック菓子をもしゃもしゃしながら『やめられない、とまらない〜♪ってヤツ?』なんて歌いだして、ニッと花もほころぶ満面の笑みを浮かべた。

俺らってやっぱ、オトナっぽい雰囲気的にはならねぇのな。

射精後の気だるさでベッドで突っ伏していたはずなのに、いつのまに起き上がって、かっぱえび●んを食べていたのにはいささか驚いたけど、片手でガッツリつかんで大口あけて、豪快にバリバリ口を動かしているのを見たら、つい食い意地がはってしまって。
ジロくんからかっ●えびせんの袋をぶんどって、ラッパ飲みならぬ袋ごと一気に口へと流し込んだら、『全部食べちゃうなんて、ひどいC〜』と悲しい顔して眉を寄せ、ボカスカ両拳で腹を叩かれた。

―やめられない、とまらない。

さすがのキャッチフレーズに納得というか、何というか。
部屋の隅に置いてあるお菓子ボックスから新たな『かっぱえ●せん』を引っ張り出して、仲よくシェアし『やめられない、とまらない』を二人でバリバリ、行儀悪いけどベッドの上で味わったとある日の思い出。


………じゃなくて。


目の前のジロくんをじっと見つめながら(正確にはジロくんの胸というか、肌というか、カラダ、というか…)、アレコレ妄想しつつ。
ヤリたい。
今すぐベッドに押し倒して、ジロくんの肌を撫で回したい。
ヤリたい。
ぷるんと濡れてるジロくんの唇に触れて、そのまま口内を味わいたい。
ヤリたい。
風呂上りでほんのり赤く染まったジロくんの頬を撫で、できればそのまま胸元にキスを落として、その下のお尻に―


「まるいくん?」

「………も撫でて、ついでに」

「こら、ブン太!!」

「うぉ!?」


あらぬ妄想を膨らませ、『ヤリたい』一色で頭の中のジロくんをひん剥いて好き勝手していたら、目の前の本物のジロくんからチョップを食らった。


「なにしてるの……大丈夫?」

「なんでもねぇ」

「ねぇ。どしたの?」

「……いや、何でも」

「さっきからボーっとして、じーっとこっち見てぶつぶつ言ってるC」

「え、何か言ってた?俺」

「カラダがどーとか、肌がうんたら、オレがどーしたこーした」


あっちゃー。

ただの数秒の間だと思っていたけど、ジロくんが水分補給を終えて目の前に来て、俺があれこれ考えだしてから数分たっていたらしい。
ヤリたい、ヤリたい、ヤリたい………そんな想いがつい口に出ていたのか。
ジロくんが訝しんでいる。
やべぇ。
ここは正直に頭さげてヤラせてくださいと頼むか……いや、そんなことすっと、また『アホなことやってないでよ』とため息ついて呆れるに違いない。
いいや、呆れられたとしてもオッケーしてくれるなら、それはそれでいい。
いいやいいや、違う。何言ってんだ、俺。
ヤラせてくださいと素直にお願いできるなら、前半で悩んでなんていねぇだろい。
問題はジロくんじゃなくて、俺だ、俺。

俺が、ちゃんと一回で満足して………一発じゃ治まんねぇのはわかってるけど、理性を総動員させてなんとか我慢、我慢、我慢
いいや、まだヤッてもねぇのにその後を考えてもしょーがねぇ!

…って、投げやりになっても、それこそしょうがない。

ささやかな希望はアレコレ妄想しているうちにどんどん膨れていって、目の前には美味しそうなカラダもといジロくんがきょとんと大きな目をくりくりさせて、こちらをのぞきこんできていて。
俺のアホみたいな希望と葛藤なんてお見通しで呆れてるのかもしれない……と、恐る恐る見上げると、じっとこちらを見つめている瞳が揺れて、やがて相好を崩し笑い出した。

「ジロくん…」

「はは…っ…も、まるい、くんっ…、素直すぎだし」

「なんだよ」

「顔にぜーんぶ出てる」

「え、うそ!」

「にやにやイヤらしい顔してたら、今度はぐるぐる悩んで、んでもってぶつぶつ言って、オレの胸チラチラみるC」

「…そんなにあからさまだった?」


ぎょっとして思わず両の手のひらをあわせ、『悪ィ』と呟いたら、ジロくんはぶんぶん首をふり、ころころと声をあげて笑い、両手をまわし俺の頭を抱えてぎゅっと寄せた。


…え?


ジロくんに抱きしめられながら、頬に触れるのは触りたくてしょうがなかったジロくんの胸。
これは………どういうことだ?
いいの?


「まるいくん、しよ?」

「はい。………って、ハイ?!」

「あはははは、びっくりしすぎだC」


ハっとして、顔をあげたら数センチ先の距離で、ふき出してるジロくんのキレイな顔。
いつ見ても可愛い、万人に愛される太陽のように明るく周りを照らす、天使のような愛しい、愛しい…


「まるいくん?」

「…かわいすぎて攫われないかいつも心配だから、あんま周りに愛想ふりまいて欲しくないけど天真爛漫な可愛さは周りに自慢したい。う〜ん、ここんとこが葛藤だろい」

「またぶつぶつ言ってる。もうっ…こら、ブン太!」

「うぉ!?」


いつもは別にぶつぶつ呟く癖は無いんだけど、今日は心の声がついつい出てしまうようで、またしてもアホなことを呟いていたらジロくんに再度のチョップを食らい、ベッドに押し倒された。
目の前には、俺の腰にまたがってる上半身裸のジロくん。
腰に巻いたタオルがずれていて、ジロくんのモノが見え隠れしていて……誘ってるとしか思えない。
いや、れっきとしたお誘いをさっき受けたよな?な?な?
よし。
ジロくんからのお誘い、断るワケにはいかねぇ。
遠慮もするわけにはいかねぇだろい。ジロくんに失礼だしな!

さっきまで配慮していた『翌日のジロくんへの負担』だの『一発で満足するべく理性を』だのがスコーンと頭から抜けて、いかに目の前に捧げられた好物……ならぬ、美味しそうなジロくんをどうやっていただこうかと思い巡らせ、頬が緩んでしまう。


「い〜い眺め」

「…ばか」

「なに?乗っかってるってことは……ジロくん、頑張ってくれんの?」

「お望みなら」


お。
珍しくジロくんが積極的だ。

さっきよりは勢いはおさまったけど、それでも堅く保っている俺のちんこをサラっと撫でて、形を確かめているのか何なのか。
ジロくんの手がわさわさと動いて強弱をつけ、ピンポイントで絶妙な刺激を与えてくる。


「…っ」

「まるいくん、なんかすでに準備オッケーだね」

「…そりゃ、俺のちんこはいついかなる時も、ジロくん専用」

「まぁたアホなこと言って」

「んっ…」


『一回イッとく?』

普段はエロさなんて微塵も感じさせない純粋で穢れの無い、無垢で素朴なイメージなのに、意外とこういうふうにストレートに切り込んでくるジロくんは、色っぽくて、可愛くて仕方ない。

こくこく頷いたらジロくんの笑みが深くなって、誘うように蠱惑的な濡れた瞳で、こちらから視線を外さず姿勢を変えてくる。
そのままジロくんの頭が下がったと思ったら、俺のモノを撫でていた手を添えたまま、ペロっと舌を出してにっこり笑顔を向けられたモンだから、俺のちんこもムクっと首をもたげてビンビンっつーか、単純っつーか。


「…っ…あっ…」


くっ…


ジロくんのテクは相当で、パクっと口に含まれたらあっというまに昇天しそうになる……ところをグッとこらえて、勝負とばかりに我慢、我慢、我慢………できるワケねぇ!!

あんまり早いと男のプライド……って、ジロくんの前で繕ってもしょーがねぇんだけど、なんというか、いや、ほら。
俺も普段そんなに早いワケじゃねぇのよ?
ただ、ジロくんがテクニシャンすぎて。

ジロくんに突っ込んで繋がっているときが最高に気持ちいいのは間違い無いんだけど、ジロくんにいいようにされるのは決まってこうやってフェラされてる時だったりする。
俺の感じるポイントを知りつくしているからか、すんげぇ我慢できないところをついてくるんだよなぁ。

巻きつけるように下から舐めあげられ、軽く甘噛みしながら舌先で俺の先端にツンツンと刺激を与えてくる。

……反則だろい。


あー


すっげぇ気持イイし、最高だし、もっとジロくんにペロペロして欲しいのは間違いないんだけど、それと同時にジロくんをひっくり返して後孔を思いっきりせめて泣かせたい欲がむくむくと沸いてくる。

奉仕されんのもそりゃ好きだけど、やっぱりジロくんを気持ちよくさせたいし、感じてる顔が見たいし、何よりも自分がイクより一刻も早く繋がってジロくんの中をぐちゃぐちゃにして、一番奥で果てたいという欲求が―


…中で出すの嫌がるけどさ。

それでも、その後で一緒に風呂はいって、ジロくんの体の隅々まで洗ってやって、恥ずかしがってイヤイヤするジロくんを強引に頷かせて、後ろをキレイにしてやるのが至福のひと時―



「だからぁ、全部、声に出てるC…」

「んっ…あ?えぇ?」

「ぐちゃぐちゃだのペロペロだの……ほんっと、まるいくんって」

「あー……いや、まぁ、いいから。続きして」

「……」

「ホラ、咥えて」

「……はいはい」

「ジロくんの天才的なテクで、ぺろぺろして」

「…奉仕されるよりしたいとか呟いてなかったっけ?」

「ジロくんの中でイクのと、ジロくんの口でイクのは選べないほど究極の選択でもある」

「…もう、アホなんだから」

「アホ言うな」


上気した頬と瞳が色っぽかったはずのジロくんの笑みは、すっかりいつもの呆れ顔になってしまった。
これはまずいとばかりにジロくんのフワフワな金髪を両手でガシっと掴み、そそり立つちんこに寄せると盛大なため息とともに、『ばか』なる何度目かわからないいつもの台詞をはいて、ありし日のかっぱえび●んの如く大きな口をあけて、パクっと咥えてくれた。


あれ?
さっきと扱い違くねぇ?
天才的テクニックどころか、若干雑というか。

…とりあえずしばらくジロくんに任せてみよう。
もし、このままペロペロだけで延々とイカせてくれなかったら、ジロくんひっくり返してアンアン言わす!


密やかなる決意を胸に、ひとまず股間に顔をうずめて一生懸命口を動かしているジロくんを眺めながら、次にやることをアレコレ考えることにした。

ジロくんの舌テクが雑なままだったら、頭掴んで腰ふってやるか。
いやいや、それはもういいとして、逆に俺がジロくんのちんこ咥えて昇天させてやるか。天才的テクニック返し。
それともストレートに、ジロくんうつ伏せにして腰あげさせて、後ろをほぐして………あれ?ベッド脇にあるはずのチューブがねぇな。
最近お気に入りのローションっつーか、クリームっつーか、潤滑財的な?
無いとなると、他のヤツは。

確か、仁王に貰った外国土産の、花の香りがするソレ用のクリームがあったような。どこに置いたっけ………あ。
そういや『仁王から貰ったローションなんて危なくて使えない』って、ジロくんに没収されたんだった。
となると―


…うん、ここらでストップ。
これがまた、もし声に出ていたら、ジロくんに三度目のチョップをお見舞いされるに違いない。


―ジロくんの口技を堪能しよう。

とりあえずは集中することにした。





(終わり)

>>目次

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最近エロ書いてないなーとふと思ったため、リハビリとばかりに書き始めたリハビリエロなブンジロです。

―ここで終わりか

リハビリゆえ

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