紅色散る
後ろにいたはずの姉さんの背中は赤く染まって、どさりと地面に突っ伏した。追って斬撃が俺を狙ってきたのを以蔵くんが受け止めて、俺は姉さんを抱えて走る。以蔵くんは斬撃をやり過ごしながら後を追ってくる。
近くにあったどこぞの蔵に飛び込んで息を整える。少し遅れて以蔵くんも入ってきた。
「大丈夫か、慎太」
「うん…俺は」
勝手に声が震える。姉さんを抱きしめてる腕が震える。顔に血の気がない、額に冷や汗が滲んだ姉さん。息は荒く、意識を失ったまま。どうして、こんなことに。
「姉さんを早く、医者に見せなきゃ」
「慎太」
「早く、行かなきゃ、早く、早くっ…!」
「慎太落ち着け!」
以蔵くんが立ち上がろうとした俺の肩を押さえる。
「今何の策もなく出て行っても揃って斬られるのがオチだぞ。紘を助けたいなら落ち着け、冷静になれ慎太」
「う、ん…」
「ここからなら長州藩邸が近い。そこに紘を連れていけ」
「以蔵くん、は?」
「俺は反対に行って囮になる。すぐには出るな、足音が聞こえなくなったら行けよ」
「そんなっ…!以蔵くんが危ないよ!」
「俺はこんなときの為についてきたんだからいいんだ。慎太、捕まるなよ」
「以蔵くんっ」
言うが早いか以蔵くんは蔵を出ていってしまう。すぐに岡田がいたぞ!と言う声が聞こえてこの蔵の前を何人かが走り去る音を聞いた。
「なんで…こんなことに…」
俺は元気のなかった姉さんにまた笑って欲しかっただけなのに。
危険は承知で連れ出した。でもまさか、こんな。
腕の中で冷えていく姉さんの体を温めるようにぎゅうぎゅう抱きしめる。
武士なら泣くなと、武市さんは言うだろうか。
でも無理だ。狂おしいくらい、すき、なんだ。
俺は姉さんの体を抱いて蔵を出た。裏道を選んで走って走って走って、ただひたすらに。息も忘れるくらいに。
腕の中のこの人の笑顔がもう一度見られるようにとただそれだけを考えていた。
紅色散る
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