髪結い



龍馬さんの部屋から姉さんを連れて俺の部屋に来た。姉さん鈍いから、龍馬さんに何かされても拒絶とかしないんだろうなぁ。
畳に座らせて、姉さんが持っていた櫛で髪を梳かしてやる。ちょっと絡まってただけだったから思いの外すぐに綺麗になった。

「はい、姉さん出来たっスよ!」

「わあ、慎ちゃんありがとう」

にこにこと俺から櫛を受け取る姉さんはやっぱり可愛くて自然とこっちまで笑顔になってしまう。
姉さんが鈍くなかったらあっという間に龍馬さんや高杉さんや大久保さんに掻っ攫われてたんだろうなと思うとちょっとだけ姉さんの鈍さが有り難くなった。

「あ、そうだ!」

姉さんが櫛を持ったまま手を叩く。俺が不思議そうにしているとにこにこ笑ったままこう言った。

「私も慎ちゃんの髪梳かしたいな、いい?」

にこにこにこ。
一瞬思考が止まったけどハッと我に返り姉さんに背中を向けて髪を結っていた紐を解いた。

「はっはい!お願いするっス!」

「わーい」

失礼します、と姉さんが俺の髪に触れる。慎ちゃん髪長いよねーと言いながら優しく梳かしていった。髪の先端まで神経が通ってるみたいに触れられてるのを意識して心臓が勝手に早鐘を打つ。

「ね?慎ちゃん聞いてる?」

「ははははいっ?ななななんスかっ?」

しまった、盛大に吃った…。そんな俺に姉さんはきょとんとした顔で慎ちゃん、どうしたの?と聞いてくる。こんなとこみんなに見られたら間違いなくからかわれるっ

「な、なんでもないっス!」

「なんでもないって言う吃り方じゃなかったけど…」

熱でもある?と姉さんは俺の顔を横から覗き込み、びっくりして横を向いた俺の額に自分の額を当ててきた。

「え、」

「うーん熱はなさそうだけど」

鼻がくっつきそうなくらい近くにある顔に俺がただパクパクと口を開くしか出来ないでいると、慎ちゃん顔赤いよ?と姉さんは不思議顔。耐えられなくなって俺は姉さんの肩に手をかけて体を離す。

「慎ちゃん?」

「姉さんダメっスよ!男にこんなことしたら!俺だからよかったものの…他の人だったらどうなるか…」

「他の人だとどうなるの?」

「う、」

姉さんは本当に、鈍い。例えば大久保さんだったらこれ幸いと口吸いだのなんだのされてるだろうし、ああ見えて龍馬さんや以蔵くんや高杉さんはなんだかんだ言って照れるだろうから大丈夫だろうけど、武市さんや桂さんは侮れないし…

「慎ちゃん?」

大丈夫?と姉さんが言う。俺の口から、みんなが好意持ってることなんて言えない。というか言いたくない。俺は姉さんの肩に手を置いて「と、とにかく気をつけてくださいっス」と言うのが精一杯だった。

「?うん」

さっきは有り難く思った姉さんの鈍さが今度はまた歯痒く感じた。










髪結い

→岡田以蔵編に続く

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