◎ 第四話 記名
「もうじき食堂に到着する。ちゃんとした案内は、放課後にするとして......。
転入生も転校生と一緒に放課後案内しよう」
「まずは教室と、食堂、あとは保健室などを把握しておけば不便はなかろう」
「職員室の場所は、もうわかるな?転校生として、すでに挨拶に出向いたはずだ」
「特別に行きたい場所があるときは、その職員室で教師に聞くか、俺を電話で呼び
出してくれたらいい」
「他に急用がなければ、五分以内に駆けつける」
「気軽に呼び出してくれて構わない、番号を教えるから控えておいてくれ」
「あっ、俺の番号とメアドも教えとくよ!えっとね〜?
銭ゲバ、あっとま〜く......♪」
「ふん。無駄話をしているうちに、だいぶ食堂が近づいてきたな」
「いま俺たちが歩いている渡り廊下の中途から、外にでられる」
「食堂は、すぐそこだ。昇降口まで行くと遠回りだから、生徒はだいたいこの近道
を利用する」
「わ〜い!今日は好い天気だね〜っ、世界中がキラキラしてるよ☆」
「明星、いきなり飛び出すな。犬かおまえは。せめて、靴を履きかえろ」
「転校生たちも、ほら。上靴は、ここで脱げ」
「このへんに並んでる下足は、どれでも勝手に使っていいことになっている。足の
サイズにあうものを選んで、履きかえるといい」
「ふん。二人とも上靴に名前を書いていないのか、他のと『ごっちゃ』に
なりそうだな」
「転校生。マジックペンがあるから、これで上履きに名前を書くといい」
「氷鷹くんはマジで用意がいいというか、かるくド*えもんだよね......?」
「てゆ〜か、『お母さん』っぽい〜☆」
「誰がお母さんだ。何があっても対応できるよう準備しておくのが、委員長としての俺の流儀だ」
「動くな、転校生。ついでだから、上履きに名前を書いてやる」
「おかあさ〜ん、俺の上履きも名前書いてなかったから書いて書いて☆」
「お母さんと呼ぶな。ふむ、転校生は足がちいさいな......。女の子だったな、そういえば」
「これなら名前を書くまでもなく、他の上履きと『ごっちゃ』になることはなさそうだな」
「まぁ念のため、書いておこう。備えあれば憂いなしだ」
「動くな転校生、文字が歪む。......スカートが視界を塞いで、邪魔だな」
「氷鷹くん。君にそんなつもりがないのは重々承知だけど、ちょっとセクハラっぽくみえるよ?」
「ホッケ〜ったら、セクハラオヤジ〜☆」
「『お母さん』なのか『オヤジ』なのか、せめて統一しろ」
「ほら、転入生も書いてやろう」
「ふん、書けたぞ。では行こう、もたもたしていると食券が売り切れる」
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