愛情表現


「返せっ」

「やだね」

五分くらい前から続けられているこの会話。
原因は不動の悪戯だった。
不動はよく俺に悪戯をしてくる。マントを引っ張ってみたりボールをぶつけようとしてきたり、まぁ小学生みたいなことをするのだ。
今回はゴーグルを取られた。

あまり素顔を晒すのは慣れないし、恥ずかしい。
一度晒したことがあったがあれは仕方ない。
あれ以来一度も晒さなかった。そんな素顔をアイツはいとも簡単に晒した。
珍しさに皆の視線が集まるのも嫌だ。

「もう満足だろっ」

「やだ。返して欲しいなら奪ってみろよ」

そう言って走り去っていくクソモヒカ…不動。
恨めしそうに見ていると佐久間と源田が心配そうに寄ってきた。

「大丈夫か、鬼道。何ならアイツの残り少ない命、全部引き抜こうか?」

「佐久間、そこまでしてくれなくても大丈夫だ」

「そうか?まぁ、何だ。不動も可愛いとこあるんだな?」

「は?」

「鬼道気付かないのか?不動は…」

「佐久間、それ以上は」

「はいはい。まぁ苛ついたらいつでも言えよ。アイツ、メッシュのとこ以外全部引き抜いてやるから」

「あ、あぁ。ありがとう…」

イマイチ意味が分からない。
あんな餓鬼みたいな悪戯のどこが可愛いのやら。

「鬼道クン遅ぇよ」

「五月蝿い、返せ」

「はいはい」

あっさりと返してくれたことに少し驚いたが素顔はいやだからゴーグルをつける。
やはり落ち着く。

「不動、何で俺に悪戯するんだ」

「はぁ?分からねぇの?」

「分かるも何も…」

「鬼道クンのバーカ」

愛情表現なんだよ。
と、聞こえたような気がした。



End.

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