▽ばいばい

「…ごめんな、バイバイ」



「_っ!!」

咄嗟に開いた目。そこには見慣れない、真っ白の天井。
…嫌な夢を見た。感じる彼の体温が、嘘だったと思わせてくれる。
その場にいるのが嫌で、私の腰に巻き付く彼の腕をそっと解いてベットから出た。
初夏でも早朝に裸でいるのは寒いもので、思わず腕を摩った。

ベッドの横に立って、さっきまで私の夢に写っていた遼の寝顔を見下ろした。
初めて、連れてきてくれた遼の家。今まで、何度もこんなことしてきたのに。

それは、彼女のいない家の寂しさを埋めたかったから?

知ってたよ、遼が最近あの子とうまくいってなかったコト。
だから、昨日だって連絡したの。タイミングが良かったのか悪かったのか、丁度別れたときだったのね。

微かに香る、甘い桃の香水。たまに、遼からしてた匂い。

この部屋に落ちてる黄色のマニキュアだって、彼女の忘れ物でしょ?
私には、真っ赤なマニキュアを勧めたくせに。

どうせ、味を変えたかっただけ。
マシュマロに飽きて、ガトーショコラが食べたくなっただけ。
それにしては、長い付き合いだったのは、私が必死につなぎとめていたからかな。

最低。
私も、遼も。

こんなに悪態をついても、愛しさは消えないんだ。
でも、もう終わりにしよう。
こんなの、もう、耐えられない。

「…ばいばい、」

眠る遼に、最後のキスを落とす。自分の服をかき集めて、寝室を後にした。




彼に捨てられるくらいなら、私から、  






◇…本当は彼も彼女とちゃんと付き合いたくて別れたのかもね。
  入口がおかしいと、出口もおかしくなっちゃうんだよ。

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