雪解け(過去・番外・後日談等) | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

 未熟な太陽のその真下


「これが副局長の言ってた茸だ。似てる種類もあるから間違えるなよ」
「はい」

実際に生えていたお目当ての茸を見せると、彼女、周はにっこり笑って頷いた。
本当に分かってるのか、こいつ。
背負った籠に茸を投げ入れて、森に足を踏み入れた。

此処は南流魂街の二地区にある森で、副局長に頼まれた茸を採取しにやって来た。
何故一緒に彼女がいるのかと言うと、荻野隊長が一週間現世任務だとかで、局長のいる十二番隊兼技局で彼女を預かることになったからだ。
彼女は一人で大丈夫だと言ったのだが、局長が預かると聞かなかったのだ。
荻野隊長と局長は仲が良い。
保護者同士の勝手で、どうして俺がこんな奴と一緒に行動を共にしなければならないんだ。
副局長が彼女の珍しい体質と容姿の色彩に興味を示し、遺伝子を調べたいだとか何だとかで採血をしようとしだし、相変わらず笑って腕を差し出す彼女の手を掴み、引きずって技局を出て来た。
面倒くさい。

いつも死覇装に身を包んでいる彼女は、今は俺の替えの白衣を上から着ている。
局長が可愛い可愛いと面白がって着せたのだ。
その所為か、いつもにも増して彼女が眩しい。
脱げと言いたいところだが、少し長い袖を折りながら、局長が嬉しそうに笑っていたところを見た彼女は、きっと脱がない。

無言のまま只管茸を探し、籠に入れていく。
薄暗い森の中は、少し湿気があるが、眩しい太陽の下よりずっと過ごしやすいし、作業が捗る。

「おい」

まだ成長途中の小さいものを残して、周辺の茸を殆ど取り尽くしたところで、場所を移動しようかと顔を上げる。
が、彼女の姿がない。
薄暗い静寂の中、俺の声だけが響く。
返事は返って来ない。

「おい、」

何処行ったんだ。
俺はあいつと違って、霊圧探知の能力なんてものはない。
このまま放っておいても構わないが、彼女を置いて帰ればあの関西弁の副隊長が煩いだろう。

「めんどくせーな…」

森に入ってからは、只管東に真っ直ぐ進んだ。
来た道を戻ればその辺にいるだろう。
目を凝らせば、すぐに見付かった。
薄暗い奥の暗闇で光を放つあれは、彼女だ。
やはり彼女は、今まで通って来た道にいた。
後姿だが、腕が動いている――何してるんだ?

「おい」
「……阿近」

俺の声に振り向いた彼女は、「すみません」と謝罪を口にした。
彼女の方に近付けば、彼女の長い銀色の髪の毛が、植物の蔓に絡まっていた。

「何してんだ」

思わず溜息を零せば、

「見て分かりませんか、絡まってしまったんです」

むかつく顔で、むかつくことを言う。
自分のこめかみが、ぴくりと動いたのが分かる。

「そんなことは分かる。その時に何とか言えって言ってるんだ」
「解いたら追いかけようと思ったんです。でも、なかなか解けなくて」

そう言って、蔓に絡まった銀色を弄る。

「やめろ、余計に絡まる」

もう既に、簡単に解けるような絡まり方じゃない。
子供特有の柔らかいそれは、複雑に絡まり合っている。
茸取りに夢中になって、気が付かなかったのだとか。
やれやれ、面倒くさい。

「もう無理だ、切るしかない」

襷掛けしていた風呂敷を解き、持参した小さな鋏を取り出す。
しかし、

「切れません」

そう言って、彼女は首を横に振る。

「はぁ?何言ってんだお前」

溜息を吐いても、やはり彼女は首を横に振る。

「ガキみてーなこと言うな」
「私も貴方も、世間的にはがきですよ」
「うるせーな」

嫌悪を込めて睨んでも、やはり笑っている。
そして、やはり首を横に振る。

「これは切れません」

意味が分からない、何なんだこいつ。

「お前なぁ……」

もう一度深い溜息を吐けば、彼女が「すみません」と謝罪を口にして、一瞬、出掛けしなの記憶が蘇る。

副局長が、遺伝子やら何やらを調べる為に彼女の身体の一部が欲しいと言った。
血液や粘膜、髪の毛が欲しいと言った。
彼女は、どれも素直に頷いた。
けれど髪の毛だけは、首を横に振ったのだ。
何を考えいてるのか理解の出来ないいつもの笑みのまま、首を横に振った。
その時は特に気にも留めなかったが、どうやら彼女は余程この髪が大切らしい。

前 / 戻る /