雪解け(本編壱) | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

 13 答えは確かにあったのに


新年度が始まる前、新規採用の隊士が決まると同じに、異隊や昇進降格、引退等、上からの指示だけでなく個人の申請や推薦を元に、辞令が下る。
それは十番隊も当然同じで、早朝の隊主会を終えた自身には、朝礼でそれを言い渡す務めがある。

「荻野、お前に十三番隊の副隊長へ昇進及び異隊の辞令が下りている」

その言葉に、隊士達が少し騒めく。

「……はい。少し考えさせていただきます」

少しの間の後、彼女は頷いた。
表情はいつものと変わらず、笑っていた。
他の隊士の辞令も伝え、帳面を閉じる。

「以上だ。今日も一日怪我のないよう、隊務に励んでくれ」
「隊長…!」

朝礼が終わるなり、血相を変えて迫る松本に、眉間の皺が寄る。

「何だ」
「何だじゃないですよ!あの子、考えるって言ってるんですよ!」
「断るんだろう」

これまで何度も辞令を蹴ってきたのだから。
昇進だろうが異隊だろうが、関係なく。
今回も同じだろう、そう思っていた。
しかし、

「これまで辞令を伝えても、その場で即答で断ってたんです。なのにあの子、考えるって言ってるんですよ。もしかしたら…了承するんじゃ…」
「何だと?」

松本の言葉に、大きな思わず声を出していた。

今になって、何故異隊を了承する必要がある?
自分には十番隊だけだと、此処しかないと、彼女は言っていたではないか。
それなのに、何故。

「もしかして…、」

松本が、思い出したように口を開く。

「何だ」
「あの子、この間言ったんです。今まで自分には十番隊しかなかったけど、これからは他に大切に思えることを、生きる理由を見付けたいって」

それを聞いて、言葉を失う。
思い当たることがあったからだ。

「もう、同じことにはなりません」

その言葉の真意を掴めずにいたが、仮説が立つ。
彼女は、これまでの環境を変えようと思っているのか?
百年以上抱いてきた、生きる理由にしてきた、十番隊への執着を、自ら断ち切ろうとしているのか――?

「隊長、引き留めて下さいよ!…隊長!」
「…いや、俺が口を出すことじゃねぇ」
「隊長……」

固く握られていた、松本の拳の力が抜けていく。
銀色が揺れる彼女の後姿に、声をかけることは出来なかった。

彼女が異隊をしないと、何故決め付けていたのだろう。
これは驕りだろうか。
彼女が異隊を断ってきたのは、自分が隊長に就任する前の話しで、今年も同じだとは限らないのに。

 / 戻る /