雪解け(本編壱) | ナノ
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 04 君が望んだ面影


十番隊の執務室は賑やかだ。

「周さん、お疲れ様です」
「こんにちは、荻堂八席」

長年護廷に勤めている為、恐らく彼女を知らない死神はいない。
そして顔が広いだけでなく、信用がある。
他隊から彼女を指名しての任務も多い。
勿論、彼女の人柄もあると思うが。
彼女よりも立場が上の者でも、彼女に敬語を使う者も多い。

「周さん、最近来てくれないじゃないですか」

こうして、彼女目当てに十番隊を訪れる者は多い。
所用から戻ると、何度か見たことのある笑みが彼女に向けられていた。

「最近は負傷していませんから」

彼女は、何を言われても眉一つ動かさずに答えて、仕事の手を止めない。
勿論、いつもの笑顔を浮かべて。

「怪我してなくても、僕に会いに来てくださいよ」
「荻堂八席、こんなところで油を売っていると、また伊江村三席にお叱りを受けますよ」

いくら整った顔を近付けられても、だ。

「松本」
「あら隊長、戻ってたんですか」
「あいつを追い出せ。そしたらその書類、俺が処理してやる」

瞬時に、松本の目の色が変わる。

「荻堂、あんた自隊に戻りなさい!」

松本に何やかんや理由をつけられ、荻堂は自隊へ戻って行った。
荻堂はいつも、自身がいない時を狙って此処へ来ているようで、彼女に気があるんだとかないんだとか。

「失礼します」
「今度は何だ」

溜息交じりにそう言えば、此方は良く知った顔だ。

「九番隊副隊長、檜佐木です。瀞霊廷通信の最新号と書類を届けに参りました」
「ああ」
「お疲れ様です、周さん」
「こんにちは、檜佐木副隊長」

書類配達と言うのは名目で、彼女が目当てなのは見え見えだ。
副隊長がする仕事ではないだろうが、恐らくこの為に自ら進んで此処へ来ていると見える。
隊長机の前を通り過ぎると、真っ直ぐに彼女の席に向かう檜佐木。

「隊長、眉間に皺寄ってますよ」
「うるせぇ、いつもだ」
「いつもより多いと思いますけど」
「余計なお世話だ」

檜佐木はいそいそと瀞霊廷通信を開き、角が折り曲げられた頁を彼女に見せる。

「周さん、この間取材しに行った此処の甘味屋なんですけど、良い所なんですよ。雰囲気も味も良くて」
「そうですか」
「宣伝のお礼ってことで、店主に割引券もらったんです。あの、良かったら一緒に、」
「失礼します」
「今度は何だ」
「六番隊副隊長、阿散井です……あれ、先輩も来てたんすか」
「あんた達暇ねぇ」
「暇じゃないっす、ちゃんと仕事は片付けて――おい、阿散井なんつった。お前こそ何しに来た」
「や、俺は周さんに…」

そう言って、阿散井が落とした視線の先には紙袋。

「あら、」

松本は椅子から身を乗り出し、直ぐさま紙袋に書かれた店名を確認し、匂いを嗅ぐ。

「それ久里屋の鯛焼き?あたしも食べた〜い!」
「駄目っす、今日は周さんに、」

狙われた阿散井は、松本の手が伸びてきた瞬間、紙袋を頭上に持って行く。

「良いじゃない、周だって二つも食べられないわよ」
「違うんっすよ、俺は周さんと…」

どうやら阿散井は、彼女と二人で食べようと持って来たらしい。

「乱菊さん、それ食ってやってください」
「余計なこと言わないでくださいよ、先輩」
「俺に黙って抜け駆けしようとするお前が悪い」
「あんただって毎回周さんをメシに誘ってんでしょうが!俺は別に、」
「俺は良いんだ!」

騒がしくなる執務室。
暑いのも相まって、余計に煩わしい。
話題の中心にいる、と言うか騒ぎの原因になっている当の本人は、相変わらず書類整理を続けている。

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