雪解け(おうち掌編) | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


離床を阻む温度



二百年以上同じ時間に起床していると、起きる気がなくても目が覚めてしまう。
冬の日の出は遅く、まだ一時間以上は暗いままだ。
ぼんやりする頭で、周は隣の日番谷を確認しようと振り向く。

「んん……」

周の動く気配に気が付いたのか、日番谷が小さく声を漏らし、瞼が微かに動いた。
白銀の睫毛が震えたかと思うと、ゆっくりと開かれ、翡翠色の瞳が現れる。
まだ明るい月の光を受け、天鵞絨に見える瞳がちらりと光った。
その様子は、闇を優しく照らす月のような、闇に包まれた夜に光を差す太陽のようにも、周には思える。

「すみません、起こしてしまいましたか」
「…いや。…おはよう」

翡翠色の瞳を少し細め、掠れた声で日番谷が呟く。

「おはようございます」

周が挨拶を口にすると、日番谷の口角が僅かに持ち上がった。

「今日は冷えるな」

言われてみれば、布団から出ている顔が冷たい。
昨日も寒かったけれど、今日は更に気温が低いようだ。

「火鉢に火を入れましょうか」

部屋の温度を上げようかと、起き上がりかけた周の腕を、日番谷の手が制した。

「まだ良い」

そう言いながら腰に手が回り、引き寄せられる。

「寒いだろ」
「寒いので、火を入れた方が良いのではないですか」

火を入れれば、部屋の温度が上がり活動しやすくなる。
いくら寒さに強いと言っても、二人とも寒さを感じないわけではない。
冬の朝は布団から出るのが億劫になる。
自身の体温で温まった布団に、いつまでも包まっていたくなる。
けれどその億劫さも、日番谷に快適な環境を用意することに比べれば、周にとっては取るに足らないことだった。

「寒いから、行くな」

しかし、包まれた上にそんなことを言われると、とても布団を出られない。
日番谷の身体は温かく、肩口に顔を埋めれば冷えた頬が温かい。
火を入れた方が良いと思ったけれど、こうしている方が温かいかもしれない。
否、温かいからではなく、日番谷が引き留めてくれるなら、包んでくれるなら、例え寒くても、何だって構わない。
日番谷の身体が温かいのではない、周自身の胸が温かいのだ。

「お腹、空かれませんか」
「ああ。お前は?」
「大丈夫です」
「それなら、もう少しこのまま」

耳元で呟いて、きゅっと周の身体を引き寄せる。
返事の代わりに、温かいその胸元に頬を寄せた。


前へ戻る|次へ