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真価を問う


何度目かの溜息を吐くと、涙も一緒に出そうになって、くっと歯を食い縛る。
自分の不甲斐なさが悔しくて、情けなくて、腹立たしくて、それなのに涙を流すなんて、もっと情けなくて絶対に嫌。
少し上を向いて下唇を噛み、息を止め、胸の奥からやってくる震えを押し殺す。

入隊してもうすぐ五年。
憧れの護廷十三隊、しかも一番人気の十番隊に入隊出来たことは、本当に奇跡以外の何でもないと思う。
霊術院の成績は最初は平均だったけれど、努力の甲斐があって五回生からは一組だった。
けれど入隊して、上には上が山程いることを思い知った。
分かっていたつもりだったけれど、現実を突きつけられて落ち込んだ。
少し自信のあった剣術も全く歯が立たなかった。
悔しくて、強くなりたくて、この五年間必死に努力してきたつもりだった。
新入、平隊士の主な仕事である雑用をこなしながら、空いた時間は全て鍛錬場で過ごし、時間も忘れて鍛錬に打ち込んだ。
だけど五年経っても、五年前と変わらず、同期で一番弱いのは私のまま。

先程の稽古で、同期に木刀で打たれた肩がずきりと痛む。
けれど肩よりももっと、胸が痛い。
死神の寿命は長い。
五年なんて、一瞬に過ぎない。
死神として駆け出したばかり、たった五年でこんなことを言っている自分が情けない。
上官達はもっと努力して、何十年、何百年も、私なんかとは比べものにならない程努力をし続けて、今を築いている。
分かっているけれど、必死に努力したつもりが、同期との実力の差は五年前と全く変わっていない。
たった五年。
でも、私にとっては。

十番隊に入隊希望だった、同じ組だった彼女の言葉を思い出す。
希望者全員が希望の隊に入隊出来るわけではない。
私よりも成績が良かった彼女は、別の隊に配属された。

「どうしてあの子が」

そんなこと、私が一番分かっている。
だからこの五年、見合う死神になろうと努力した。
けれど何も変わっていない。
彼女は、来月から席官に上がることが決まったそうだ。
私は、何も変わっていない。
このままじゃ、私は。
死神としてはまだ始まったばかりだ。
けれど、でも――。
込み上がる焦燥感に、苦しくなる。
喉がきゅっとなって、触れてもいないのに首に圧迫感を覚え、じと…と嫌な汗が背中を伝う。
抑えきれなくなった震えが口から漏れそうになった時、かさ、と後ろから音がして弾かれたように振り返った。

「!!」

振り返って、絶句する。

「悪い、邪魔したか」

そこにいたのは、銀色の髪に翡翠色の瞳の少年。
十番隊の隊長、日番谷冬獅郎その人だった。

「…ひ、ひつ、がや隊長…!」

盛大にどもって声が裏返ってしまい、恥ずかしくなって顔が熱くなる。
自隊の隊長と言っても、雲の上の人だ。
入隊式の時に初めて近くで見て、それからは朝礼で遠くから見るくらいで、会ったことは殆どない。
こんな風に近くで一対一で会ったことなんて初めてだ。

「お、お疲れ様です…!」

頭を下げて、混乱しながら何とか挨拶をすれば、隊長は「ああ」と短く頷いた。

「此処、良いか」

何が、と思えば、隊長が手にしていた竹皮の包みを軽く上げた。
はっと、既にお昼休憩に入っていたことに気が付く。
隊長は此処にお昼ご飯を食べに来たと言うことだろう。
隊長が何故こんなところに、なんて考える余裕はない。

「し、失礼しました!」

そうと分かれば一秒でも早く此処を去らなければならない。
慌てて置いていた手拭いを拾い踵を返そうとすれば、

「良い。お前が先にいたんだろ」

そう言われて、足を止める。
直ぐに立ち去るべきかと思ったけれど、立ち去る方が逆に失礼になってしまうだろうか。
ど、どうしよう。
隊長の姿を目にした時から頭は真っ白で、上手く頭が働かない。

私がそんなことを考えている間に、隊長は私の直ぐ傍の木の根元に腰を下ろした。
稽古で同期に打ち負かされて、取り乱しそうになって逃げて来た裏庭。
植え込みで向こう側から見えない此処は、そんな時に逃げ込むのに丁度良い場所だった。
いつも人気がないから、完全に油断していたのだ。



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