他(短編・シリーズ) | ナノ
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お願い、やめないで


「あ、待って」

きゅ、と彼が帯を強く結ぶ。
結ばれたのは、私の手首。
頭上で組まれたまま、お遊びにしては随分強く、可愛らしい蝶々結びなんかじゃなく、拘束目的の固結び。

「分かってる?君は今から罰を受けるんだよ」

ぞくり、身体が震える。

「君は本当に、市丸隊長と仲が良いね」

言いながら、彼が私の浴衣を左右に開く。
また、身体がぞくりと震えたけれど、これは寒さなんかじゃない。

「市丸隊長は、私をからかっていらっしゃるんです」

市丸隊長は、私と彼の関係を知っている。
知っていて、知っているからこそ、あの人は私にちょっかいをかけるのだ。
それも彼が見ているところで、真正面ではなく、絶妙に見えそうで見えない角度で、あの人は。

「市丸隊長の性格は、副隊長が一番ご存じでしょう?」

聞いているのか聞いていないのか、彼は私を見下ろしたまま、その綺麗な指先で私の鎖骨をつつ、と撫でた。

「副隊長?」
「何度も聞いたよ、その言葉は」

鎖骨をなぞっていた指先が、首筋を伝って、耳に辿り着く。
つ、と指先が当たり、身体がびくりと跳ねる。
それを見て、彼が目を細める。

「市丸隊長に触られて、どうだったかい?」

つつ、耳朶から、対輪までなぞられて、ぞくぞくと甘い感覚が走る。
私は耳が弱くて、それを多分、市丸隊長は気付いている。
気付いて良いて、私の耳を触るのだ。

「僕にこうされるより、市丸隊長にされた方が良い、とか?」
「違います…!」

彼は私の答えを分かっているくせに、同じことを聞くのだ。
耳を触っていた指が、首筋、鎖骨、脇腹を撫でる。
胸元までいくと、谷間をなぞって、お腹まで降りてくる。
唯指で撫でられているだけなのに、身体が熱い。
彼が次はどこに触れるのか、もどかしくて、期待して、早く早くと急かしてしまう。

「君は異隊してきた時から、市丸隊長に気に入られていたね」

お腹から太腿まできて、自然と身体が固くなる。
けれど彼の指は、膝へ、脹脛へと降りていく。

「気に入られる為に、何かしたの?」
「な、何もしてません」

指が足の甲まで来て、彼が私の足を掴んで唇をそっと近付ける。
どきどきして、足に心臓が降りてしまったみたいだ。
けれど、私の思いとは反対に、彼の唇は離れていく。

「反省が足りないみたいだから、足も縛ろうか」
「え…?」
「縛道の四、這縄」

縄状の霊子が私の両足首に絡みついて、その先が柱に巻き付いた。
簡単に取れるレベルじゃない、拘束するための、それ。

「ふ、副隊長…」
「君が悪いんだよ。僕の話しなんてうわの空だったろう?」

だって副隊長が――。

「君はいつも、言いたいことを言わないんだから」

そう、私はいつも、思ったことの半分も言えなくて、周囲には大人しいと思われがちだけれど、本当は違う。

「そんなんだから、市丸隊長に付け込まれるんだよ」

彼が、今度は指先ではなく、掌で私に触れる。
私の頬を包んだ手は、白くて、指の長い、男性にしては綺麗な手。
私はこの手に触れられる度、胸が一杯で、苦しくて、嬉しくて、どうしようもなくなる。
彼の親指が私の下唇を優しくなぞって、綺麗な顔が近付く。
目を閉じるけれど、いつまで経ってもそれが私に触れることはなくて、目を開ければ彼の顔が至近距離にあった。
もう、数ミリで唇が触れる距離。

「本当に君はずるい人だ」

そう言って、彼の顔が離れていく。
頬を包んでいた手が、今度は首に、肩に、腕に、しっとりと触れる。
彼の掌は温かくて、少しだけ硬い。
右手に肉刺が出来ているんだ、なんて考えていたら、彼の手が下に降りていく。
その手つきは、唯触れるだけのそれじゃない。
欲望が含まれていると、受け取って良いのだろうか。
私の身体を滑るように、這うように、けれど、彼は態と避けている。
無意識に、下唇を噛んでいた。

「っ……」

下着の上から鼠径部を撫でられて、身体がびくりとなる。
彼の口の端が、少し上がった気がした。

「そうやってそんな顔をすれば、与えてもらえると思ってるの?」

一通り私の身体を撫でると、今度は彼の唇が降ってくる。
私の触って欲しいところを態と避けて、態と音を立てて、私の全身に唇で触れる。

「んっ…」

彼の唇が触れる度、身体が強張る。
無意識に、足が徐々に開いていく。
私はどんな顔をしているだろう。
彼は、時折私を見て、口の端を上げる。
そんな表情に、胸がぎゅっとなって、また下唇を噛む。

「傷になるから、噛んじゃ駄目だ」

彼はそう言って、唇で頬に触れた。
だって、だって副隊長が。
私は、彼に触って欲しくて、触って欲しくて堪らない。
時間をかけて、丁寧に私に触れてくれているのに、一番触れて欲しいところに触れてもらえない。

「あ、」

彼の唇が、下着の上から骨盤に触れる。
鼠蹊部に、恥骨に、彼の唇が触れて、身体の強張りが増していく。
彼の吐息が布越しに伝わって、恥ずかしくなる。
布の内側は、彼に触れて欲しくて、待ちきれなくて、止めどなく溢れている。
布一枚、ほんの少しの隙間が惜しくて、早く脱がして欲しくて、早く。

「っ……」

それなのに、彼の顔は離れていく。
水音がいつもより鮮明に響いて、彼のしっとりとした唇が私の内腿に押し当てられる。
足がぴくぴく震えて、また彼が笑った気配がした。
彼の唇が触れるところ、否、全身が緊張して、張り詰めていて、震えている。

「ふ、副隊長……」

もう待ちきれなくて、我慢出来なくて、思わず呼ぶと、副隊長は「なんだい?」と何も知らないような顔で言う。

「あ、の……」
「何?」

もう一度、副隊長が問う。
宥めるような、まるで小さな子供にかけるような、優しい声で。

「どうして欲しいか、言ってごらん」

苦しくて、焦れったくて、涙が出そうになる。

「――さ、触って、ください」

喉が変に詰まって、やっと出た声は、掠れていた。
副隊長は満足そうに、その薄い唇の端を上げる。
そして、

「――よく言えました」

私の耳元で、吐息混じりに囁いて、私の唇に噛み付いた。



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