涙雨の逢瀬 | ナノ
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姉様が、死んだ。
病が原因ではない。
自害だった。
隣には伊織が倒れていた。
驚愕に目を見開いた、伊織のその表情から、恐らく、姉様が伊織を殺し、後を追ったのだろう。

私の存在が、憎しみを生み、姉様に罪を犯させた。
罪は、私だ。
姉様ではなく、そうさせた私。
やはり私は、人を不幸にすることしか出来ない。
生まれるのは、憎しみだけ。
他に何もない。
憎しみは、憎しみを生む。
それ以外、何も生まない。
どうして、私は。

初めて、早くこの家を離れたいと思った。
このままでは、山吹を不幸にしてしまう。
既にしてしまっているかもしれないけれど、それでも今のうちに、山吹に憎まれる前に、この家から出たかった。
大切な人の前から、消えてしまいたかった。

姉様の葬儀が終わって数日後、当主に呼び出された。
言葉を交わすのは、何年ぶりだろうか。

「お前の嫁ぎ先が決まった」

嫁ぎ先は、この家よりも歴史も地位もある上級貴族の家だ。
内容は知らないし、知りたいとも思わないが、さぞ良い条件なのだろう。
相手は勿論私の顔を知ってる。
私は、顔も知らない、どのような人なのかも知らない。
けれど、それで良い。
知らないことは、幸福だ。

「ねえさま?ねえさまはお嫁に行かれるのですか?」

今にも泣きそうな表情で、私を見上げ、私の袂を掴んでいる。
この家で一番姉様の死を悲しんでいたのは、山吹だろう。
何も知らない、小さな弟。
あれが私の所為だと知った時、彼は私を憎むのだろう。

「蘇芳ねえさまもいなくなってしまって、紬ねえさまも、山吹を置いていかれるのですか…」

ぽろりと、胡桃色の瞳から涙が零れた。
その涙があまりに美しく、純粋で、優しく、目頭が熱くなる。
思わず引き寄せて、その小さな身体を抱き締めた。

「違います、山吹」

姉様がいなくなって、紫蘭も――それで、私は。
私が生きているのは、生きていくのは、山吹の未来の為だ。
良い条件の結婚をして、この家を、いつか山吹が継ぐこの家の支えとなれるように。

「山吹の幸せの為に、私は、」

言葉に詰まる。
山吹の幸せの為に嫁ぐのだと、貴方の幸せを願っているからいなくなるのだと、言いたくて、けれど言葉が出てこなくて。
今は、それさえも出来る気がしなくて、怖い。

「山吹の幸せを、いつも祈っています」

私の何もかもが、自分が、恐ろしい。
恐ろしくて、嫌いで、憎くて、堪らない。


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