すっかり慣れてしまったものだ。
目の前でいつもの布をまとっているDIOをみてナマエは思う。
ここに来たときは素っ裸同然の彼に驚いたし、肌の露出が気になっていた。


「なんだ?」


「なんでもないよ」


贅沢な慣れだろう。
じっとみていたら視線に気づいたDIOに声をかけられたが、DIOに要があるわけじゃあないのでそっとしておく。
今日はDIOがくれた黄色が眩しいワンピースを着ている。
肩や鎖骨、首のラインが少しでるようなデザインだ。
吸血されたときの小さな怪我は治りがとても早く、今では痕を残さず癒えていた。
まだ寝るまで時間があるし、傷跡がなくなった記念もかねてワンピースに袖をとおした。
ナマエは先ほどまでヴァニラにスタンドの訓練の相手をしてもらっていた。
DIOは忙しいらしい。
ジョースター家のことで何かと館内はあわただしい。
代わりにテレンスさんとヴァニラさんの二人が私の訓練につきあってくれている。
最近、自分のスタンドの能力による消音と沈痛を他者にも自由に発揮できる。
そのためにヴァニラさんには少し痛い思いをさせてしまったが、気にするなと言ってくれた。
毎日すこしずつ成長しているんじゃないかな。
まだまだ役には立てないだろうけど。
スタンド能力が攻撃向きじゃないから仕方がない。
実は訓練を始めた頃から二人には体術やナイフの扱いを教わっている。
銃を提案されたがこれは使い方や組立方を覚えたくらいで、少し手間取ってしまう。
DIOには内緒にしているつもりだが、二人のどちらかが報告しているかもしれない。
今日も訓練を終えて汗を洗い流し書庫へ寄り道をしてから部屋にもどった。
すると部屋ではすでにベッドで横になったDIOが待っている。
ナマエはベッドの縁にこしかけた。


「やはり似合っている。良い」


にやにやしながらベッドに広がるワンピースの裾をつままれたのでいそいでおさえる。


「あっ!もう・・・ありがとう」


少しでも抵抗すればぱっと手が離される。
吸血された日から、なんといえばいいのだろう。
こういうちょっとしたイタズラのような。
ちょっかいのようなものをだしてくるようになった。
子供っぽいその行動に手を焼いているのも事実だ。


「もっとこっちに来い」


「はいはい」


彼の誘いに従ってベッドの中央に移動して座り直す。
傍らに書庫で選んできた本を置く。
わがままを言う小さな子供みたいでかわいいのだ。
ついつい言うことを聞いてしまう。
それにこうしていれば少しはおとなしくなる。
なにをするわけでもなく、ただ傍にいるだけ。
私は読書をはじめて、DIOはノートに何かを書く。
何かなんてしらじらしい言い方はよそう。
これは天国へ行くための方法だ。
ナマエの英語は片言レベルなのでノートに記された詳しい内容や書庫に並ぶ本の大半は理解できない。
DIOは芸術に関心があるのか、画集なんかもかなりの数を集めている。
文字が読めない私はそれらを眺めて暇をつぶしている。
これならナマエでも楽しめる。
お互い無言だ。


「そうだ」


DIOはノートをとじて呟いた。
何かとおもってそのまま彼の言葉の続きを待つがぼそぼそっと聞き取れないほど小さな声だった。


「え?なに??」


もう一度はなすときは聞き漏らすまい、と耳をDIOに向ける。
瞬間そのまま顔をがっちりとつかまれ頬に唇が押し当てられた。
もうキスなんて甘いもんじゃない。
ぶちゅーーーと、そりゃあもう唇のつぶれる感触がわかるくらい強く押しつけられた。


「ヒィイイ!!??」


思わず悲鳴をあげると唇も顔を押さえられた手がパッと離れる。
見れば楽しそうに笑うDIOがいた。


「なんだ?なにがそんなに不服なんだ」


「ぶちゅーーって気持ち悪い!!」


「このDIOが気持ち悪いだと?気のせいだろう。もう一度味わうが良い」


いたずらだ。
遊ばれている。
そもそも、古典的な手法で頬キスを許してしまっただけでも恥ずかしいのにもう一回とにじり寄ってくるDIOのなんとまあ肌がきれいなこと・・・
異性として悔しい。
ナマエを捕まえようと広げた両手には装飾品がキラキラと輝いて肌の白さを際だたせている。
もう一度あの感触を味わうと思うと嫌だな、とナマエは思う。
DIOの表情もなんだかいじわるだ。
さながら娘にいやがられながらもチューしようとする父親のようだ。
そんな感じだ。
それか、いやがるペットを触ろうとしているときみたいだ。


「やだ〜!もう二度と味わいたくない!!」


シーツをかぶって隠れるが、無慈悲にもシーツは破かれた。
え?破かれた??


「私から逃げられるわけないだろう」


爪でシーツを破りました。
こんな肌触りがよくて絶対に高いだろうシーツを何のためらいもなく破りましたこの人。


「えぇええ!もったいないよ・・・」


「ん?」


シーツの裂け目を指でなぞると断ちっぱなしだからかピロピロと糸がでている。
はぁ・・・そもそも金銭感覚も違うからもったいないとか思わないのかな。


「失礼します」


「入れ」


テレンスさんの声だ。
扉の方を向けばそこにいたのはテレンスさんだけじゃなかった。


「花京院く・・・ん?」


肉の芽が埋め込まれていると聞いていたが、まさかここまでとは。
すっかり目に光りが失われてしまった花京院を前に唖然としてしまう。
少し不気味なくらいだ。
肉の芽ってすごいんだね。
花京院くんは私の声には一切反応せず、ただDIOの方を見ていた。


「花京院、君の使命は何かわかっているか」


「はいDIO様。ジョースターの子孫の抹殺、及び血液の採取です」


「いいぞ。行ってこい」


「かしこまりました」


DIOに向かって一礼してすたすたと部屋を後にした花京院は私のことに気づいただろうか。
ほどなくしてテレンスさんも部屋を後にしてDIOと二人きりになってもしばらく言葉が出てこなかった。
破かれたシーツを手で遊んで何かをはなそうとおもっても考えがまとまらない。


「花京院くん日本に行くの?」


早くない?
てかそもそも日本に帰ってなかったっけ?
なんでエジプトにいるんだろう。


「ああ。おまえが奴とはなすと楽しそうだったからな。もう一度会わせておこうかと思って連れてこさせた。今までは日本に帰っていたぞ」


「肉の芽ってすごいね」


「肉の芽のことも知っていたんじゃあないのか。なにを恐れる」


「知ってたけど、予想以上というかなんというか・・・」


DIOに肉の芽を埋め込んでもらってからスターダストクルセイダースご一行になんとか合流するつもりだった。
正直に言えば怖じ気付いてしまった。
あんなにも虚ろな表情なのか。
さっき花京院くんはなにを考えていたんだろう。
そのときの思考もDIOを基準にしているのだろうか。
ああ!怖い!
自分もああいう風になるのかと考えるだけで不安だ。
自分の中で抱えている計画をきちんと遂行できるかどうか。
目をおとした先にあるワンピースの黄色だけがキラキラしている。
先行きは不安だが、花京院は旅立ってしまった。
時期が近い。



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