目の前にキラキラした金色が光ってる。


「……気が付いたか」


「んえ?」


目が覚めるとナマエを見下ろすDIOと目があった。
見慣れた天井で、DIOの部屋のベッドにいると気付いた。


「私、生きてる?」


「ああ」


「よかっ…痛て」


体を起こそうとすると傷口が痛んでまたベッドに戻ってしまう。


「ああ、ナマエ様。勝手に起き上がってはダメですよ」


ベッド脇に立っていたテレンスさんが忠告してくれる。
おこしかけた体をベッドに沈めるとDIOの手が頭を撫でてきた。


「……死んじゃうかと思った」


「あれくらいの傷で死ぬわけがないだろう」


小さくつぶやいた言葉もDIOに拾われる。
些細な傷だと笑う彼を見てるとこっちは人間なんだよって怒りたくなるが、久しく人間の感覚がないんだ。
ずれていても仕方ない。


「だって、痛くなかったんだもん。本で死ぬ前って痛みがひいていくって読んだから。びっくりしたの」


「ああ、そうだ。それだ」


「?」


「DIO様、その前に食事を召し上がっていただいた方が…」


「ム……そうしてやれ」


テレンスさんに支えてもらいながら体を起こしてベッドに寄せてあった車イスに乗せてもらう。
今まで骨折も大きな病気もしなかった。
車イスに乗るのはこれが初めてだ。
怪我は歩けない程の深さではないが、負担を小さくするために乗りなさいと促された。
石造りの館内を車輪で通るとなると振動が大きいのでは?と不安になる。
しかし乗ってみるとスルスルと車輪の回る音が聞こえるくらいで体に負担はない。
テレンスさんのおす車イスに乗りながらDIOの部屋を出てすぐ隣の部屋に入った。
こんな近いなら頑張って歩けたんじゃないかな。
軽い食事を済ませて薬(鎮痛剤と抗生物質らしい)も飲みおえる。
短い距離を再び車イスで通ってDIOの部屋に帰るとベッドの上でDIOが読書をしていた。


「こっちに来い」


車イスをベッドの近くまで押してもらう。


「ダービー、さがっていろ」


「かしこまりました」


言われた通りにテレンスさんが部屋を出たのを確認したDIOがナマエの両脇に手を差し込んだ。
そのまま彼女の体を持ち上げて強引に移動を強いる。
まるで猫を抱え上げるときのように。
胴体がのばされたせいで痛む傷口。


「っだ!いっててて!いたいよ!いたい!」


「うるさいぞ」


DIOの手が離れたと思っても未だに立ち直れないナマエはそのままDIOの上に馬乗りのようになって崩れていった。
テレンスさんがいたらこんな行動きっと止めてれただろう。


「………痛かった」


痛みの余韻に動きが制限される。
そのままDIOの胸板に顔をうずめた。
…良い匂いがするとか口がさけても言えない。
ここから動かさないということはしばらくここに乗ってても良いんだろう。
頭をずっと撫でられている。
慰められているようだ。
その感触は怪我をして心細かったナマエには安心感を与える。
痛みの波がひくまで大人しくDIOの胸板を間近で眺めながら待つとしよう。
「それは悪かったな」
笑いながら言う彼の言葉に一切の誠意を感じない。
そもそもDIOに誠意を求めることが間違いなのだ。


「ナマエが話題になっていたから、会わせないようにしていたのだがな…私の不注意だった」


「………」


「すまないと思っている」


見せかけの誠意かもしれない。
与えられると思わなかったからといって疑ってしまうのも申し訳ないくらい、指先と声色から伝わってくる何かがあった。
胸の奥がくすぐったくてむずむずする。
この感覚をどうにもできず、言葉にすることもできないので黙って聞く。


「話は変わるが、傷が痛くなかったと言っていたな」


DIOが何か言うたびに小さく振動する胸板から両手をつき顔を起こす。
痛みが落ち着いてきたからだ。
そそくさ移動しようとすると腰を掴まれて動きを妨げられる。


「ッぐ……ぅ………」


予想しなかった動きにまた傷口が痛む。
先ほどと同じようにDIOの上に戻ってきた。
DIOの体温は低い。
それにさっきまで自分が触れていた温かさとまじってぬるい。
人が座っていた席に時間をおかずに座ったときの不快感と同じだ。


「まぁ、待て。それで、痛みがなかったのはお前のスタンドの能力に関係していると思う」


「あ……」


言われて思い出す。
今までと違う形状ながらも、傷口の上にいたセトル・ダンの姿を。


「いま傷口は痛むか」


おかげさまで、って嫌味のひとつでも、つけようかと思ったけどやめた。
おとなしく頷くだけにする。


「スタンドをだしてみろ」


「いま?」


「痛むときでないと意味がない。ダービーからいつもと違う姿をとったとは聞いてるが、そのときスタンドに触れていないようだからな」


さぁ実験だ、と言いそうな笑顔である。
そういえば実験好きでこの人キメラみたいなの作ってたんだよなぁとうんざりする。
スタンドをだすには体力を消耗する。
上体だけを起こして、痛む体に鞭を打ち集中する。
DIOの大きな手によってワンピースを傷が見えるくらいの高さまでまくり上げられた後、包帯がするするとほどかれていった。
下着が見えちゃってるなあと余裕のない頭の隅で考えながら特訓でやったようにスタンドを出現させる。


「セトル・ダン!」


そう呼んでやればいつもは背後に揺らめくセトル・ダン。
しかし、今回はまた傷口の上のあたりで丸まって転がっている。


「わぁ…」


「痛みは?」


「!…ないかも!!!」


「フッ……読み通りか」


上機嫌な声色のDIOに顔を向けようとしたら突然視界がくらくなった。


「え?!」


瞼の上に少し柔らかさを感じる。
手?


「心配するな。ザ・ワールドで覆ってるだけだ」


あっていた。
でもスタンドだ。
目を覆われている。
DIOがなにを考えているのか分からない。
けど、今DIOの上で座っている私はザ・ワールドの手によって視界が塞がれてしまったことだけが事実だ。


「まだ痛みはないか?」


「え?痛くないよ?」


「そうか。スタンドはその傷が治るまで出せるときは出していたほうが良い」


言い終わると手がどけられる。
館内の淡いロウソクの光でも眩しく感じて目がちかちかする。
それでも目はすぐに慣れて、DIOの顔が確認できる。


「DIO、聞こえてる?」


「ああ。そう丸くなるときは聴力になんら影響を与えないらしい」


「そっか……て、え!?」


どれだけ連続でスタンドだせるのかな、と思い傷口を見て驚く。
女性に刺されたところとは別に新たな傷が増えていた。
お腹を横切るように細く赤い線が走っている。
血がまだかわききってない。
できたての傷だろう。
もしかして目を隠されてる間にやられた?
そうとしか考えられない。


「これ…」


「すぐに治るだろう」


「………」


たしかに傷はかなり浅い。すぐに治る。
それでも先に一言つたえてくれればいいのに…
ぱさり、と掴まれていたワンピースのすそが離されそのまま落ちる音がする。


「と言っても、治癒の早さはスタンドの有無に関係ないようだからな。こちらの傷はしばらくかかる」


「仕方ないよ」


ワンピースの下でむき出しになっている傷が空気を感じ取る。
包帯つけてもらわなくっちゃ。
テレンスさんにお願いしたらいいのかな。


「もう眠いか」


そう聞かれれば確かに眠い。
でも今日の出来事は私の身体を疲弊させることよりも変に興奮させた。
刺されるなんて初めてで、しかもそのあときちんと生きている。
不運のような奇跡のような、どちらにもつかない非日常を体験した。
目だけは冴えてしまっている。


「まだ、眠くないよ」


「ならば話をしよう」


先ほどとは違って丁寧に体をつかまれた。
DIOの体の上から滑るように隣に移動させられる。
スタンドのおかげか、それとも丁寧な動きのおかげか痛みは感じなかった。


「今日はなんの話をすればいいの?」


私のいた時代の技術に興味があるらしく、話をすると言えば大抵はその話題だった。


「どこまで知っているか、初めて会ったときそう聞いたのは覚えているか?」


とうとう来てしまった。
初対面のときはそのまま流されたのでもう良いかと思っていたが、そういうわけにもいかないらしい。
DIOの言葉に頷く。


「それを今日は話してもらおうか」


「その前に私がなんで知ってるかっていうのを伝えておきたいんだけど良い?」


「かまわない」


聞かれたことから脱線するので一応尋ねてみた。
了承をもらえたのでそのまま話を続ける。


「私が知ってるって感じるのは夢でみるからなんです」


「…夢?」


「あ、冗談じゃないよ?本当なの。で、これからその夢で知ったことを私の知ってることとして話すね」


漫画になってますよ〜なんて言えるわけもなく、多少の間違いがあっても誤魔化しのきく夢に頼ることにした。
それから一部の粗筋を天井を見ながら思い出しつつ辿る。
ときどきわざと間違えながら。
その間DIOは一言も話さず私の話に耳を傾けていた。
DIOがジョナサンの体をのっとったところで一息つく。
さて、ここからどこまで話そうか。
そう考えていると、


「それから先も夢で見ているのか」


頬をすっとなでられる。
未来まで知ってるなんて言えない。
低いけれどたしかに感じる体温があっという間に消えてしまうのだ。
この館はぼろぼろになって両陣営ともに被害がおおきい。
それをDIOに伝えたら、果たして状況はよくなるだろうか。


「見てても言えないよ」


「それが私の助けになると知っていてもか」


「だめだよ」


「言わなければ殺すといえば?」


言わなくても死んじゃうし、言ってもこれからの展開が大きく変わると非力な私では手の打ちようがない。


「死んだら言えないよ」


「フフッ……命乞いはしないのか」


「私よりDIOの方が大切だもん」


「ほう、言うではないか」


「………やっと会えたもん」


「夢はずっと見ていたのか」


「うん。ふふ、何年も見てたよ」


「そうか」


「そうだよ。あ、眠い」


「急だな。ゆっくり休め」


これ以上はなして追求されても困るし、実際しゃべりすぎて喉がだるい。
大人しく引き下がったDIOにぽんぽんと二度頭を撫ぜられたあと意識がおちていった。



次のページ








×
「#切ない」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -