江戸川コナンの母親

 江戸川文代と名乗る女と、闇の男爵<ナイトバロン>の扮装をした男に追いつめられたコナン。
 
 結局それらは実の両親である工藤由紀子と工藤優作が阿笠博士まで巻き込んで打った大芝居であったわけだが。

「テメーも知ってたのかよ!ナマエ!」

 タネ明かしが終わり、ぶすくれるコナンの前に、部屋の奥から現れたのは妹のナマエだった。

「そんなに怒らないでよ…私たち二人とも未成年なんだし、両親への報告相談連絡は当然のことでしょ?お兄ちゃん?」
「そうよー博士とナマエちゃんが話してくれなかったら何にも知らないままだったんだかから!」

 無表情にわずかに面白がるような色を乗せ、わざとらしく首をかしげたナマエを、後ろから有希子が抱きすくめた。新一としては全く面白くない。

「殺されるかと思ったんだぞ…」

 憮然と言った新一に、「そーかそーか」と頷いたのは優作だ。

「じゃーこんな危ない国はさっさと引き上げて、父さんたちと外国でのんびり暮らそうか!」

 当然のように言い放った両親は、二人とも微笑みを浮かべている。笑っているはずなのにどこか恐ろしさすら感じるのは一体なぜだろうか。
 両親がコナンを説得するのを、ナマエは黙って横で聞いている。
 しかしコナンはきっぱりと言い切った。

「やだね!これはオレの事件だ!オレが解く!父さんたちは手を出すな!」
「し、新ちゃん…」
「それに…オレはまだ日本を、離れるわけにはいかねーんだ!」

 そう言い切ったコナンの脳裏には恐らく幼馴染の少女が浮かんでいるのだろう。ナマエにはその様子がありありと想像できた。

「ガキ…」
「あ?なんか言ったかナマエ!」
「べーつに。そういうわけだから、私もまだ日本に残るからね」
「そんな!ナマエちゃんだけでも私たちと一緒に…」

 二人とも連れ戻せる気でいたのだろう、有希子は心配そうな顔でなおも言い募ったが、それを優作が止めた。恐らく息子があっさり言うことを聞くとは思っていなかったのだろう。想定済みだったのか、余裕ある表情で言った。

「よせ有希子…こうなったらてこでも動かんよ。それに、最初からナマエとは約束してたじゃないか。新一が残ると決めた時には自分も残る、とな…」
「でも…!」
「まあ、しばらく好きにさせてやろうじゃないか。そのかわり、危なくなったらすぐ外国に連れて行くぞ!」
「あなた…」

 そして優作はくるりとコナンに向き直った。

「それに新一は、ほかにもここを離れたくない理由がありそうだ…」

 どこまで察しているのか、この親父。コナンはわずかに頬を染めたが、てこでも口は割らなかった。



「なあ、今からでも遅くはないぞ?ナマエだけでも一緒に…」

 有希子が再び江戸川文代に扮し、一千万の養育費と共にコナンを小五郎のもとへ預けに行っている間。たまには父とデートだ、と連れ出されたナマエは、しつこい父に溜め息をついた。

「お兄ちゃんが残るなら私も残るって、前もって言ってあったでしょ」
「だがな…」
「昨日はあっさり引き下がって、理解ある父親みたいなふりしてたくせに」

 言いながら、ナマエは目の前に用意されたパフェをつついた。相変わらず味はよくわからないが、目の前の父親がおごってくれた高級な店のものであるだけ、口当たりはいい。

「お兄ちゃんには好きにさせるくせに、私には過保護になるわけ?」
「息子と娘じゃ訳が違うだろう?」
「“コナン君”なんて小学一年生だよ?危険の度合いに性別だけ持ち出すのはずるいんじゃないの?」
「まあそうは言うがな…」

 何だかんだ、優作も娘にはやはり甘いし過保護になるもの。なかなか解放してくれない父親に、ナマエは苦笑を漏らした。

「心配してくれてありがと、お父さん。でも私、やっぱり残るよ。目を離したら、誰かさんすぐに無茶しそうだし。そのくせなかなか父さんたちに頼ろうともしないんだから」
「ナマエ…」
「私は頼りにしてるんだから、呼んだらすぐに助けにきてよね。パパ?」

 滅多に使わない、とっておきの攻撃。上目遣いに小首をかしげながら、とどめに「パパ」だ。コナンほどじゃないとはいえ、ナマエも一応大女優の血を引く娘。これくらいのことはお手の物であった。

「〜〜〜仕方ないなあ。それじゃ、何か困ったことがあったらすぐに連絡するんだぞ。いいね?」

 でれでれと相好を崩した父親に、ナマエはちょろいな、とパフェに舌鼓をうつのだった。



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