いた

 言いに行かなくてはいけない。偉い人に、実情を。いや実情をそのまま話しても信じてもらえないだろうから……そうだな、記憶喪失なんてどうだろう。うん、案ずるより産むが易しだよね。けど確か軍のお偉いさんはみんな悪い人だった気がするから……この場合、誰に言うのがいいんだろう。やっぱマスタング大佐かなあ。でもそんな偉い人に話しかけていいのかなあ。
 結局、女性で、主要キャラで、人となりも知っている人物を頼ることにした。
 宿舎から司令部までは、軍服を付けている人についていけばなんとか辿り着いた。

 そして。

「あの、すみませんホークアイ…中尉」

 階級がうろ覚えだったが、目の前の彼女はそれを直しはしなかった。

「どうしたの、急によそよそしくなって。頭でも打った?」

 何と言うことだ、私はどうやら主要キャラと結構いい仲だったらしい。怪訝そうに、しかし少し心配そうに私を見てくるホークアイに胸が痛んだ。けれども仮にここで演技したっていつかぼろが出るに決まってるし、言わなくちゃ。

「あの、ごめんなさい、私………えーと」

「何?何か困ったことがあるなら早めに言いなさい。どうせあなたじゃ解決しきれないわ」

 辛辣ぅ。そして優しさが心に刺さる…!ごめんなさいホークアイさん、けど私あなたの同僚だったのか部下だったのか友達だったのかすら分かりません…!

 しかし、一体何と言ったものだろうか。
 私ちょっと別世界から来たんですけどどうしたらいいですか?…却下だな、頭がおかしいと思われて終わりだ。
 すみませんちょっと記憶喪失になってしまいました?…さっき思いっきりホークアイって名前呼んじゃったしなぁ。ああ、もう少し考えて発言しておくべきだった。

「えーっと、お手洗いってどこだっけ」

「……ついに若年性痴呆になったの?」

 彼女は思いっきり呆れた目をしながらも、場所を教えてくれた。
 手洗い場には鏡があった。……うーん、どう見ても中学生か高校生にしか見えないんだけど、何歳なんだろう私。階級は?ホークアイさんと一緒くらい?ってことは中尉?

「あっ、いたぁナマエ!こんなところに!」

 えっ誰。見たことある…ようなないような。波打つ髪をひとつに束ねたかっこいーお姉さま。

「探したわよーもう。今日非番だけど第2セクターで待機って言ってあったでしょ!」

 うーん、どうしよう。全然分からない。このまま話を合わせてもいいんだけど、でも、名前も分からないのはどうなんだろう。よし、ここは一か八かだ。

「あの……ごめん、名前なんだっけ?」

 ですか、と付け足すころには、そう聞いたことを後悔した。
 彼女は目を真ん丸にしてこっちを見た。それはもう、申し訳なくなるくらいに。

「あんた……そういう意味不明な冗談言う人間だっけ?」

「えーと、いやあの」

「何かあったの?また少尉に約束すっぽかされた?だから言ったじゃない、軍人はやめとけって」

 なんだか、すごく仲がいいらしい。もしかしたら友だちなのかも。私たちの部屋、ってことはルームメイト?うわ、やばいじゃん。ダメだよこれは。
 しゅんとしてしまった私に、彼女は本気で心配そうな目を向けた。

「あんた、本当に大丈夫?」

「……ごめん」

「ごめんって……」

 どういうこと?と、ようやく彼女は真剣に私の言葉を取り合う気になったようだった。

夢ならいいのに
(私はあなたたちを知らないの)




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