Never do things by halves.

※ほぼオリキャラ。







 段々と小さくなっていく背中―黒いジャケット―待って―置いて行かないで―そんな風に、私なんかどうでもいいものみたいに

 シュウの背中が、最後に見た兄の姿と重なって、ぶれた。

「おにいちゃん、」

 ぱちり。目を開く。乾いた涙が目の端にはりついていた。体のあちこちが痛い。見知らぬ天井。

「Morning, 起きたかナマエ」

「…………ジョ、ン?」

 視界に入ってきたのは、ここへ来てシュウとレイを探しているうちに仲良くなった年上の友人、ジョンだった。二人を探すのに協力してくれて、だが結局は二人を見つけてはくれなかった、ナマエとアウトローな世界の架け橋となる存在。

「コーヒー飲むか?水の方がいいか」

 彼はぱっと足を動かし、一瞬姿を消すと、片手にミネラルウォーターのボトルを持ってまたすぐに現れた。ナマエはその間に自分の体のあちこちを確かめたが、傷はきれいに手当てされ、服も替えられているようだった。

「ほらよ。……ああ、服はちゃんとルームメイトの子に頼んで替えてもらったからな。心配するなよ」

「うん……ありがと」

 はっきりと聞いたことはないが、ジョンは恐らくゲイだ。だから別に、ジョンが替えたのだとしても気にはならなかったが。

「なんか、頭いたい」

 精神安定剤や睡眠薬を久しぶりに、あるいは大量に飲んでしまったあとのような、独特の鈍痛。
 ふらつく頭で、勝負に出るのは危険だ。だけど、だからこそ、今しかない。
 ナマエはさりげなさを装い、水を一口飲んで、口を開いた。

 ―去っていった背中。戻らなかった兄。残忍さを隠しもしなかったシュウ

「ジョン。」

「ん?」

 振り向いた、彼の、青い瞳。レイのものよりもっと薄い、ふたつの丸。
 ナマエは、その彼の心の鏡を、しっかり見つめた。どんな兆候も見逃さぬよう。

「私を運んでくれたのは、ジェイド・グリーンの瞳の、国籍不明の男の人だった?」

 微かに、恐らくはミリメートルよりも下の単位で、ジョンの目が見開かれた。
 あるいは都合のいい思い込みかもしれない。

―違う、アレックスだ。おれの従兄弟だよ。アレックスの目の色はヘイゼルだ。写真を見せたことがあったからお前の顔を知っていたんだ。」

 彼はそれから少しだけ困ったような顔をして、怒りと心配の言葉を並べた。あんな場所を若い女が一人でうろつくのがどれだけ危険か分からないのか、お前を襲ったのはグレイ・ギャングの一員だった。アレックスはたまたま騒ぎを目撃していて、ギャングの奴らが去ってからナマエを保護した。一人で倒れている女なんか何をされるか知れたもんじゃない、危険なことはしないと約束したのにどうして、どうしてせめておれに連絡をとらなかったんだ。そこまでおれは信用をなくしているのか、それともお前はお前が今求めていることが叶うならそのほかの事は一切全てどうでもいいとでも言うのか。

 彼の言葉はすべて彼の本心だった、と思う。軽い気持ちに聞こえる言葉はひとつもなかった。そして全て、本当のことだった。最後のひとつだけは辛うじて否定したけれど。

「ごめんなさい、ジョン」

「謝ったって許さねえぞ。自分がどれだけ危険なことしたか、ちゃんと分かってんのか」

「分かってるよ。……どうしたら許してくれる?」

「本当に、本当に分かってるんだな?」

「誓って。」

 分かっている。それは嘘じゃない。でも、分かっていてもやってしまうだろう、これからも、何度でも。
 もう二度とこんなことをするな、と言われるだろうか。今度こそ本当に誓わされるだろうか。そしたらナマエはもうジョンとは友人でいられない。それはとても悲しいことだった。けれど勝手なことをしているのはナマエの方だ。ナマエに悲しむ権利はないのかもしれない。

「じゃあ、ナマエ。約束しろよ」

 薄氷のような彼のクリア・ブルーの瞳が、ナマエをしっかりと捉えた。まだイエスとは答えられない。

―真実に辿り着け。何があっても、たとえどんな真実だったとしても、だ。追い求めることを止めないと約束しろ。」

「……え?」

「本当に大事なことなんだろ?諦められないくらいの。……それぐらいのケースでもない限り、応援できないだろうが。こんなこと」

 言葉の意味を正確に理解するのに、ナマエは友人の言葉を何度か反芻しなければならなかった。
 そして、理解したとき、申し訳なさと感謝と信じられない気持ちで、頭の痛みはどこかへ行ってしまい、友人を力いっぱいハグするより他にできることは、思い浮かばなかった。



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