突然の色事

 晏樹の撃退に成功し、危機は去ったかに思われたが。数年経って、もう子どもと言われる年齢ではなくなって(栄養状態のせいか背がさほど伸びず、未だに旺季には子どもと言われるが)。更なる強敵が現れた。

 孫陵王。確か彩雲国物語ではいなせなおじさんで、どっかの州牧かなんかだったはず。それが何で旺季の邸にいるんだか知らないが。二人は親友?らしい。今までも何度か見かけたことくらいはあるが、面と向かって話したことはない。

 その孫陵王が。同衾をしろとナマエに言ってきたのだ。
 失礼な物言いをしてはいけないと思うと下手に断ることもできず、あいまいに流していると、彼はこんなことを言って来た。

「知らねぇの?あー、なるほど、お前さん異国の人間だつってたもんな。ここじゃ家人の若ぇ女が主人の友人をもてなすのは普通なんだぜ?」

 絶対嘘だ。ナマエはじとりと陵王を睨み返した。ちなみに旺季は不在で、ナマエが客人の世話を一手に任され(押し付けられ)ていた。

「そんな目で見ちゃって。おじさん悲しいなー。君のことだって楽しませてやるぜー?」
「そのようなことは、しなくてよい、と、旺季さまに聞いております」
「何だ、もう経験済みかい。誰相手によ。ん?」
「………未熟で無知、ゆえの、あやまち、にございます」
「まぁ、んなことになるっつったらあの狐坊主くれぇだろ。悠舜や皇毅がんなことするとも思えないしな」
「………」

 図星をつかれて黙り込んだナマエに、陵王はにやりと笑った。

「お堅ェな。大体、あんなぺーぺーと俺を一緒にしてもらっちゃ困るのよ?ありゃあ言わば旺季の子分ダロ?それに比べて俺はあいつの親友!分かるかねぇ?主の親友へのもてなしにそれっくらいしたっていいだろう。格がちげぇんだよ、格が」
「…………」
「本当よ?何なら後で聞いたっていいんだぜ?別になーんも怖いことも悪いこともねぇよ」

 陵王はしつこく何やかんやと言い募った。ナマエは少し黙り込んで、口を開いた。

「………後で、旺季さま、確認、よろしいならば。…それが、ふつう、わたし、その通りにいたします。…わたしは、ふつうの、彩雲国の家人、なりたい…です」

 陵王がにやっと笑った。…嗚呼、早まったかもしれない。

「おういいぜ。ならそういうことで」

 男は、早業でナマエを押し倒した。とんだ好色め!と内心で罵倒するが、今言ったのは本心だ。どんなに勉強しても足りない。足りない。根本の文化が違うのだ。ナマエは早くこの国に馴染んでしまいたかった。
 もちろん、言うべきは言っておく。

「このようなこと、事前、言う、無粋、かもしれませんが……避妊、性病、有無だけ確認、させていただければ」
「……本当に面白いなァ、あんた。避妊はするし性病はねェよ。俺サマを誰だと思ってる?天下の陵王サマだぜぇ?全部任せな」

 下手に抵抗するより、避妊と予防さえしっかりしているなら抱かれてしまった方が楽だ。この国に来てからそんな風な思考が育ってしまった自分を嘆くべきか、逞しくなったと喜ぶべきか、ナマエには分からなかった。この国では下賤の女など物も同然に扱われる様を、ナマエは見て来たのだ。
 逞しい腕に引き寄せられ、男らしい汗のにおいを嗅ぎながら、ナマエは諦めて目を閉じた。微かな嫌悪感を押し込めることにはどうにか成功したようだった。





「とうとう子どもにまで手を出したのか!女に汚いのは知っていたが少年趣味があったなんて聞いてない!まさか貴様、悠舜や皇毅にまで手を出すつもりじゃあるまいな!」
「少年?なーに言ってんだ?サラシで胸おさえつけてなけりゃあそこそこ胸もでかい、イイ女だったぞ?」

 旺季は絶句した。女だと?しかも胸が…いや、それはどうでもいい。

「……まさかお前、今の今まで気づいてなかったのかよ?拾って何年だ」
「………」
「ほんっとお前も相変わらず唐変木だねェ。そんなんだから女の扱いがへたくそなんだ」
「……うるさい。大体お前、人んちの家人に手を出しておいてその態度は何だ!」
「何も無理やり組み敷いたわけじゃねぇぜ?そこまで抵抗されなかったし」
「恩人の友人とか言って言いくるめたんだろうが!しかも根も葉もないことを常識だと偽って!」
「本気で嫌がったらやめるつもりだったって。女のコ相手にそこまで鬼畜じゃねぇよ俺も」
「弱くて立場も低い女児だと分かっていたならそもそも手を出すな!ええい、見損なったぞ陵王!断れない相手を無理やり手籠めにするとは!大体うちの奇児は感情を素直に表にせんのだ!嫌がっているかどうかなどどうしてわかる!」
「何でさっきより怒ってんだよ。男ならいいのかァ?」
「んなわけあるかー!保護者として当然の反応だ!大体女児だと知っているなら、……妊娠させたらどうするつもりだ!」
「しねぇよ。あいつだってヤる前に避妊について言ってきたし。ま、万が一させちまったら嫁に来させるくらいの蓄えはあるし?」
「そのつもりなどないくせにふざけたことを言うな!」

 今まで泣かせてきた女は数知れず・女泣かせの孫陵王である。

 収集のつかなくなってきたやり取りに、水を差したのは皇毅だった。

「旺季さま、その辺りでお止めになってください。血管が切れそうで心配です」
「まだそんな年じゃない!」

 焼け石に水。皇毅はこめかみの辺りを揉んだ。
 皇毅の横にいた奇児は、胃の痛そうな顔をする皇毅の袖をくい、と引いた。その様子がまた幼さを強調していて。

(こんな幼児を陵王さまは抱いたのか……抱い……)

 と、皇毅は何とも言えない気持ちになった。思わず赤面したのを、斜め下を見ることで隠す。と、また奇児がその袖を引いた。

「旺季サマ、なに、怒っていらっしゃる?」
「あー…奇児、お前が入ると余計ややこしくなるのでな…」
「奇児!お前もお前だ!もっと気合い入れて抵抗せんか!!」

 びりびりと響いた旺季の怒声に、奇児は皇毅の袖をきゅっと握りしめ、恐る恐ると言ったように口を開いた。皇毅が初めて会った時から比べても、その言葉の上達ぶりは目覚ましい。まだ多少たどたどしく途切れがちになる癖はあるものの。

「抵抗…して、よろしかった、ですか?…もてなす、普通と…」
「〜〜〜やっぱり貴様が全部悪い陵王!!」

 堂々巡りはしばらく続いた。陵王は悪びれもせず、「旺季の前じゃぶりっこぶるたァ、オメーも悪い女だなぁ」と笑ってまた旺季に怒鳴られていた。


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