毛利小五郎成り代わり4
「――――ッ!!」
ばさっ、と音がして、横で小さな子どもが飛び起きる気配がした。今月はこれで三度目だ。小五郎は眠ったふりを続けながら、コナンの様子を窺っていた。
ハァ、ハァ
荒い息が聞こえる。…そりゃそうだ。まだ17かそこらだっていうのに、あんな恐ろしい組織に命を狙われて、平然としていられるわけがない。普段はけろっとしているし、灰原にも心配すんな、と言ってやっている頼もしい名探偵だが、いかんせん若すぎる。
「おっちゃんは…起きてねーな」
こちらをそっと窺う気配があった。小五郎は狸寝入りをしたまま寝返りをうった。
「くそっ、いつまで…」
コナンは泣いたことがないらしい。マンガの設定では。勿論小五郎だってコナンの泣き顔なんて見たことはない。それは不健全なことだと、思うのだが。
(泣き言くらい、素直に言やぁいいのに)
“オレ”の前でも、小五郎の前でも。
「ん〜、さみィ〜」
寝ぼけたふりをして、毛布を蹴飛ばし、ベッドの下に落とす。それを拾うふりをして、毛布ごとコナンを引き上げた。
「わっ、ちょ、おっちゃん!寝ぼけてんのかよ!」
「んあ〜」
「おい!」
聞こえない聞こえない。小五郎は寝ぼけたふりで毛布ごとコナンを抱き込んだ。…寒いなんて嘘だ。正直毛布だと暑いくらいだ。が、やはり人肌の温もりというのはそれだけで心地いい。子どもの体温はなおさらだ。
「ったく…」
ぼやきながらもコナンは抜け出すのを諦めたようだ。中身が高校生男子だと考えると、好きな子の父親と同じベッドで寝るなんて苦行に違いないだろうが、今の彼はかわいらしい小学一年生である。諦めてもらおう。
優しく背をとんとんと叩いているうちに、子どもはすっかり眠ってしまったのだった。