やみに飲まれる

 スネイプは闇の魔術に傾倒するようになった。リリーとはめっきり会うことも無くなって、代わりというわけではないもののナマエとはまたぽつぽつと喋るようになった。前のように心を通わせることはない。ただ同じ寮の人間というだけのこと。
 ナマエはスリザリンであるからだろう、真っ向から闇の魔術や死喰い人を否定したことはない。いつも少しだけ困ったように首を傾けて、それでもスネイプの話を聞いてくれるのだった。

「君ほど優秀な魔女なら、ルシウスも君を屋敷へ招いてくれるだろう」

 ルシウスの屋敷に招かれるということは、すなわち闇の世界に足を踏み入れることを意味していた。スネイプは何度かそう誘ってみたけれど、ナマエはいつも苦笑して首を横に振った。スネイプも無理に誘うことはしなかった。





 ホグワーツを卒業した後、ナマエは幻術士になった。仕事は主に、マグル向けの偽装。だが、時には魔法使いの目を欺くような偽装すらも行う、屈指の幻術士。忘却術とはまた違ったアプローチで人々を欺く彼女は、たちまち方々から熱烈にスカウトされるようになった。彼女が明確に誰のもとにつくと宣言したことはなかったが、スリザリン出身にも関わらずダンブルドアに協力的であることも相まって、ナマエの名はその界隈では有名になった。

「リリー……」

「ナマエ。……あなたまであちら側に染まってしまわなくて本当によかったわ」

「……セブルスのこと、怒ってる?それを引き留めなかった私のことも」

「…………いいえ。スリザリンにも、いろいろあるんでしょう」

 彼女は「いいえ」と言ったけれど、その表情は硬く、声は強張っていた。

「分かってほしいんだ、彼は本当に―」

「何も言わないで、ナマエ。…今は何も聞きたくないわ。今は」

 今の状況は、何と言おうが、戦争だった。闇の勢力と、その他の魔法界との。
 スネイプは闇の側にいて、リリーやジェームズはその反対にいる。ナマエは立場を明確にしていないながらもダンブルドアに協力している。
 それだけが事実だった。
 ナマエは溜め息をついた。

「……結婚、おめでとう」

「……ええ、それだけ、受け取っておくわ」

 彼女は変わらず美しく、そして、正義の側に居る。
 ナマエにはまぶしすぎるくらいの、光の中に。



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