ニューオリンズ

「ちんたら走るのは性に合いません。フリーウェイに出ますけどいいですよね?」

 という宣言通り、レイは早朝からいっそ爽快なほどのスピードを出して道を西へ西へと進んだ。シュウが「アメリカのシルクロードに酷い物言いだな」とぼやいたのは華麗に無視されていた。ナマエはアメリカの道路事情にも車事情にも詳しくないので全てお任せである。「アメリカのシルクロード」というのは、ナチトレイスが過去に移民だかが未開の地を切り開いて通った由緒ある道だからだそうだ。
 そういえばこの二日で気づいたことだが、二人とも、運転は巧いのだが…どうもスピード狂の気がある気がする。しかも時々荒い。

「海が見たいな」

 とナマエがぽつりと呟くと、車はすぐさま南下した。自由な人たちだ。

「ニューオリンズまで抜けましょう」
「お任せします」

 まだ南部の地名には詳しくない。全てお任せである。
 途中、何だかタイヤの調子がおかしいと言ってカーディーラーの店に立ち寄った。と言ってもこの辺りはどこまで行ってもカーディーラーの店しかなく、食べ物を手に入れるにも用を足すにもどうせそこに入るしかなかったのだが。
 ナマエのことを気遣ってくれているのか、二人とも、一度も「トイレは大丈夫か」なんてことは聞かず、ただ二時間おきくらいに必ず車を停めてくれた。ものすごくスマートだ。うっかりすると惚れていたかもしれない。先にカップルだと聞いていてよかった。

 今日の朝食はハンバーガーだった。朝から食べるにはきついくらいのサイズだったが、残さず食べた。旅では食事が大事だ。やはりこれもいつの間にか買ってこられていたので、ナマエが財布を出す隙は無かった。





「おおー、海だー。」

 車から出て少し歩いたナマエは、目を輝かせた。その数歩後をついてきていたレイも微笑まし気に笑う。

「浜辺に下ります?」
「んー、煙草吸ってる人がいるんでいいです」
「この辺はビーチじゃないですけど。ていうかあんな男気にしなくていいんですよ」

 シュウは車の傍で一服中だ。少し離れて見ても実に様になっている。ナマエはにや、と笑った。

「レイはシュウが大好きなんですね」
「な……っ」

 レイはシュウの扱いが雑だ。だが裏を返せばそれだけ気を許している仲なのだろうと思えば微笑ましかった。言葉を失ってはくはくと口を開閉させるレイに、ナマエは更に言い募る。

「私がいるからって別に気、使わなくていいんですよ?一度もキスとかしてるとこ見てませんけど」
「………。……いいんです。僕たちはもともとスキンシップが激しい方じゃないし」

 愕然としているレイは気付いていない。煙草を吸い終えたシュウがこちらに近づいてきていることに。ナマエはにやけないよう必死で平然を装った。

「今日の夜はモーテルに泊まった方がいいかもですね。もちろん私は別に部屋を取りますから安心してください」
「…ナマエ、あのですね、」
「……ふ、あははっ」
「え?」

 ナマエが堪えきれず笑い声を漏らした瞬間、レイの後ろから、がばりとシュウが現れた。不意打ちは成功。シュウはレイの額にキスを落とした。ナマエはとても幸せな気分になった。日本でこんなにオープンなゲイカップルは見たことがない。
 …たったこれだけのことがこんなにもナマエを勇気づける。



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