バーボンと妹

 ライがFBIだとばれた後も、ナマエは組織に捕えられたままだった。だが、ライへの憎悪が本物だと認められて、その後も殺されることはなかった。餌として、あるいは赤井に一矢報いるための駒として使えるかもしれないから、と。
   
 ウェルシュ・ウイスキーからとってウェルシュというコードネームが与えられた。

 ライと顔が似ているからという理由だけで、ライに恨みを持つ組織のメンバーたちに酷い辱めを受ける日々は、たやすく兄への憎悪を増長させた。

「恨むならライとその顔を恨むんだな」とはジンの台詞だ。

 ある日、報告へ来たバーボンに、ジンは裸のウェルシュを差し出した。顔を顰めたウェルシュに、愉悦と惨忍さを織り交ぜた笑みを向けながら、ジンは酷く愉しそうに囁いた。

「この顔が歪むところが見てぇ気分なんだよ…分かるだろう?」

「………まぁこの顔が歪むのが愉快であることは否定しませんが…」

 憎い男のものと同じ顔を歪ませるのは、それなりに楽しいことだろう。ジンにとっては。だが安室にとってはウェルシュはあくまで赤井の妹でしかなかった。しかし断る明確な理由もないし、あの男の妹を庇っているなどと思われては都合が悪い。

「早くしろ」

「…分かりましたよ。仰せのままに」

 バーボンは結局イエスと答えるしかなかった。

 ライの天敵であるバーボンにさせるあたりがジンらしいといえばジンらしいのかもしれない。何とも悪趣味なことだ。バーボンは溜め息を吐いて、しゅるり、とネクタイを解いた。幹部の命令だ、ただの余興とはいえ、下手に逆らえばこちらの身が危うい。多少の罪悪感を押し殺しながら、バーボンはウェルシュを押し倒した。

(ライより力が弱いな…まあ当然か)

 まともにやりあえばバーボンとライではライの方がわずかに力は勝る。同じ顔をしてはいるが、妹はやはり女、たやすくバーボンに組み敷かれてしまった。いかにも屈辱そうな顔も、ライならば浮かべそうにもない表情で。

「なるほど、たしかにこれは癖になるかもしれませんね…」

 それは思ってもいない言葉だったが。吐息と共にそう漏らしたバーボンに、ジンはグラスを傾けて、満足そうに笑った。



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