※不二塚不二
タイトルに対し、酷い話です。死ネタバッドエンド。
グロくは無いけど酷く痛々しい。
そして異常に長い。
不二君に注意して下さい。










































「手塚、」


不二が俺を呼んだ。

いつもと同じ穏やかな声で。
いつもと同じ穏やかな笑顔で。


「一緒に帰らない?」


「ああ、構わない」



どうして俺はお前の歪さに気付いてやれなかったのだろう。

そんな自らの無能さに、俺は一生後悔するだろう。



「ねえ手塚、今日僕の家に来て」


その申し出を拒んでいたら、お前はまだそこで笑っていただろうか。













◆ ... ままごと遊び















「手塚?どこへ行くんだい?」


「お前の家に行くんだろう」



不二はにこりと笑った。



「僕の家はこっち」


「…、え?」



おかしい。
そう感じた。
確かに俺はおかしいと思ったんだ。

不二の家はそっちじゃない。
確実に、今まさに俺が通ろうとした道の先で、不二が向いた方ではない。




不二は笑っている。
不二が嗤っている。





俺を見ると、「ほら、行こう」と手を引いた。


――――バッ


咄嗟に、掴まれた腕を振り払った。振り払ってしまった。

不二は驚いたような顔をしたけれど、直ぐに微笑んだ。


「どうしたんだい手塚、変だよ」


は、は、と息を荒げる俺の頬に、振り払った指が伸びる。
その指をまた払うすべなど無い。

不二が少し、不安そうな顔をしたから。振り払えない。




「ほら、行こう」


「あ、ああ…」


頬に触れる直前に指は引かれた。
ただ今は不二を追うしかない。そう思った。
















‥……――◇◆◆



















「…不二、ここはどこだ」


「ふふ、手塚は面白いね…ここは僕の住むマンションだよ」




達…?
俺も、という事なのか。
問うてはいけない気がした。




トントントン、と不二が階段を上がる。
トントントン、と俺が不二を追う。



色の褪せた金属製の扉がいくつか列んでいる。いずれも人の気配はない。
そして、錆び付いた細い柱が何本か列んでいる。いずれも脆く力無い。



それらをいくつか過ぎた所、同じく色褪せた金属製の扉の前で不二は立ち止まった。
そして、躊躇無くその扉を開いた。鍵は開けなかったように見えた。閉めていなかったらしい。


「ほら、入って」


「あ、ああ…」


俺は、緊張している筋肉を無理矢理動かし、俺の家に足を踏み入れた。


玄関には、今不二が脱いだ靴だけがある。
他には、靴べらもなにもない。


「ほら、あがって」


玄関じゃあ、寒い。そう言うように不二は俺を部屋の奥へと促し、リビングらしい部屋の扉を開けた。



俺は、玄関から左にみえる開け放たれた部屋を見て絶句した。



その部屋の壁に、床に、天井に、俺の写真が一面に貼られていたのだから。しかも隙間なく。

俺は吐き気がした。





けれど不二は何もないような声で、

「早く早く」

と急かすように手招きした。

俺は吐き気を飲み込んで立ち上がる。
そして不二に歩み寄る。


「ほら、入って」

そう行って不二は俺の横を抜け、玄関へと向かった。

後ろから、鍵とチェーンが閉められた音がした。





「…っな」

そしてまた、俺は絶句する。









そのリビングは異常だった。

広いフローリングには簡素なベッドしか置かれていない。
カーテンも、蛍光灯もない。
備え付けであろうキッチンには、不気味な程に沢山の種類の調理器具が飾られたように置かれている。

生活感なんてまるでない。

『これから君はここで生活してもらう』なんて言われれば、誰もが『冗談じゃない』ときびすを返すだろう。



…だが、俺にはそれができない。
後ろには不二が居るのだから。





「いい部屋でしょう?僕達の家…。ねえ手塚、幸せに暮らそうね」





俺は意識を手放した。









‥……――◇◆◆




















「…手塚、手塚」


「っ、…不二!?」


気が付けば俺はベッドで寝ていた。
隣では不二が心配そうに見ている。

不二は、何故か大量の錠剤の入った瓶を持っている。



俺は身の危険を感じた。

頭が警報を鳴らしている。《逃げろ》と。
けれど、体が重くて立ち上がれない。
叫びたくても空気が乾燥している所為か声が出ない。



「手塚、顔色が悪いよ。沢山薬飲んでしっかり休んで」


「い、いら、ない…」



不二は心外そうに目を見開いた。



「いいよ、僕が飲ませてあげる」


そう言って不二は錠剤の瓶を開け、錠剤を何粒かつまみ口に運んだ。

不二が口を動かすと共に、ガリガリと音がする。

まるで、菓子でも食うかのようにそれを繰り返す。





「不二…ッ、お前は、狂っている…!」





絞り出した言葉に、不二は驚愕したような顔をし、手を止めた。


そして微笑んだ。
聖母のように、優しげに。




すっ、

不二は俺の肩に、肩から頬に手をかけ、顔を近付けた。



柔らかな唇が触れる。
それと共に不二の舌が、堅く閉ざした筈の口内に侵入する。






ドロリ、



口内に、ドロドロに融け、液体に似た物質が流れ込む。

気持ちが悪い。吐き出したい。

けれどまだ不二の舌は口内に。






ねっとりとした余韻を残し、不二の唇は離れた。



息苦しさに酸素を求めて喘ぐと共に、口内の物質は飲み込まれた。





「はぁ、は、ん…はぁはぁ…ふ、不…二…、…っ」


「ほら、手塚。ゆっくり休んで」






俺の意識は飛ばされた。














‥……――◇◆◆
















目が覚めた俺は動くことができなかった。

動かせるのは目や口、そして臓器だけ。


指先すらも動かせない。



一方不二は主婦のように掃除や料理を繰り返している。

だが総て空回りしている。
部屋は生活感を失うばかりだ。

床には割れた食器が散乱し、生ゴミの入った袋が放置されている。

不二は、料理をしてはそれを捨てる、を繰り返しているのだ。



俺はそんな光景を見ていることしか出来ない。
間違っていると止めることもできない。

ただ生かされている事実が悲しかった。












‥……――◇◆◆












もう、どれだけ時間が経ったのかなんてわからない。
ただ、乾燥した空気は、放置されっぱなしの生ゴミの所為か湿っぽくなっている。
不二は変わらない。






「手塚」






不二が俺へ近付いて来た。





「僕は出掛けてくるから」





そう言って不二は俺に口付けた。


鍵が閉まる音がする。
部屋に沈黙が降りる。








「…っ、」




指先が、ぴくりと動く。



体が、動く。




今なら逃げ出せる……!






そして俺は、堕ちるようにベッドを降りた。


筋肉が固まっている。
体がなまっている。


とりあえず今は逃げなければいけない。不二はいつ頃帰ってくるのかわからないのだから。





俺は重い体を引き摺るように動かした。
支えが無ければ立って居られない。





外に出れば、呼吸のしやすさに感動する。冷たい空気が心地良い。



柱に身を委ねながら、そのマンションの出口へ向かった。



「手塚?」








――――不、二?


何故不二がここに居るのか。
不二は、――――――










不二はどこへ行っていたのだろうか、





もしかしたら、出掛けると言うほどの距離では無かったのかもしれない。




「…っ」


なんて俺は馬鹿なんだ。











――なぜ、おれはにげようとしたんだ






俺は、不二を……――?













「手塚」



「な、ん…だ…?」













「どうして起きたの?どうしてここに居るの?なにしてるの?どうしてそんなに焦ってるの?ねえ……逃げるの?どうして?なんで?なんで?なんでどうして…?」





震える声で不二は問うた。

俺は答えない。



答えなどない。




「不二…お前はどこに出掛けていたんだ…」




「え?」






――――え?


何故お前がそんなに、







困惑しているんだ?







「不、二…?」


「え?え?…何?僕が、出掛け…、え?僕は…え?え…?」


「不二…っ落ち着…っ」




「いやああああああああああああ」

「不二…ッ!?」



不二は耳を押さえて発狂した。悲鳴のように。
鳥がばさばさと羽ばたく音がした。








「わから…ない…僕はなにを…?」


「不二…?」



不二が目に涙を溜めていることに気が付いた。
肩を抱いて、まるで寂しくて仕方がないと訴えるように。

すると不二が何かを思い出したように顔を上げた。









「そうだ…」


「…?」
























「僕ね、子供が欲しかった」


なんだ?


「裕太みたいに可愛い子供が…でも」


なんなんだ?


「裕太じゃ駄目なの、僕は、僕は…」








やめろ


「僕と、君の子供が欲しかった」




不二は嗤っている。







―――こわい


背筋が粟立った。







「でも、僕も、君も、何も孕まなかった…当たり前」


つつ…と、不二の病的に白くなった指が俺の臍を伝って腹を撫でた。



その白すぎる指が、虫が這うように錯覚し吐き気がした。












「ねえ、手塚…」




「なん、だ…?」
不二は少し不安げに俺を見上げた。
健気に自らの服の裾を握り締め、意思を固めるようにふるふると体を震わせている。服の裾を握った拳は、強く握りすぎて白くなっている。
























「手塚は、僕のこと、好き?」


















俺は、俺は、俺は、





















「お、れ…は……」


















「じゃあ、手塚は、僕…っを愛しって、る…?…えっ…ぅ、あ…」











不二は、親を見失った子供のように、うわああんと声を出して泣いた。






不二は、壊れている。
歪んでいる。そして酷く脆い。

今の不二はまるで硝子のようだ。

割れて、その破片で傷をつくる。






いつから?
いつから不二は歪に?



最初から?




















「俺は、お前を、愛していない」












不二は嘘のように泣き止んだ。




そしてまた、顔を歪ませる。泣き始める。







「手塚…たすけて…っ」


















「俺には、出来ない」
















不二は聖母のように微笑んだ。
酷く優しげで、酷く儚げで。美しい。














不二はマンションの階段をもの凄い勢いで登っていった。


「待て不二ッ」





ただ、不二を追い掛けた。

伸ばした手は届かず空を切る。









ガシャアアン







マンションの屋上のフェンスが壊された。
不二は躊躇なく屋上に入った。






「不二…?」






「君と幸せに、なりたかった」











不二は、短距離走のように戸惑いなく、段々と速度を上げて走った。


老朽化の為か外された、もとはフェンスがあった屋上の外へ。へ。




「      」





天を舞うように、不二は消えた。


















その下に、柘榴を思わせる紅が見えた。















君の所為だよ、なんて。











end...





「俺は、お前を愛したかった」















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