「あいつは俺様のことを何だと思ってやがる!」

持っていたジュースを握りつぶして俺様は庶民代表、幼馴染組を前に叫んだ。
幼馴染組リーダーである宍戸は心底恥ずかしそうに辺りをキョロキョロと見渡すと「静かにしろよ」と注意してくる。
こいつは何をいまさら常識人になろうとしてやがる。
馬鹿園児2人は横でケラケラと笑ってるし無性にイラつく。

「笑いごとじゃねー。俺様は本当にイラついてるんだ。」そういうと園児2人はいきなり真面目な顔になった。頬がヒクヒクしてやがる。あれは相当笑うのを堪えてるな。

「まぁ、ようするにあれでしょ?侑ちゃんが誰にでも優しいのが不満なんでしょ〜?はやい話しが嫉妬?」
「ちげーよ。あいつが優しいのは今に始まったことじゃねーし。」
「じゃあ何がお前不満なわけ?」
「あいつが俺様が嫉妬したり冷静さ失うはずがねぇって思ってる所がいらつく」
「普通そう思うC〜。だって跡部だよ?」
「そうそう。侑士愛されてるなんて少ししか思ってなさそうだしな」
「少しはあるの〜?」
「なくて毎日景ちゃん景ちゃん言ってんの?」
「それもそうだC~きゃはは」
「きゃははははは」

目の前で女子高生のような笑い声を響かせる園児達に殺意がわいてきたが、それを察したのかリーダーの宍戸が慌てて入ってくる。

「まぁ、こいつらも悪気はねぇから。跡部のことこれでも心配してるって。」

どこがだ。横でパフェを追加注文する園児達を横目で睨んだ。こいつらの目的は腹を満たす事である。
会計別にしてやろうか。

跡部がそんなことを考えながら2人を見ていると宍戸が真面目な顔で忠告してくる。
「でも、忍足のやつ絶対気づかないぜ。ヤキモチとかお前全然普段見せねぇし。やいてるとこでも一回見せてやれば。」

「・・・絶対嫌だ。」

宍戸の言葉に俺はとんでもないと首を振る。
俺様がヤキモチをやいて忍足がやかねぇなんてプライドが許さねぇ。
断固拒否だ。断固拒否。

宍戸は苦笑いをしながら「まぁお前だしな」と呟くと伝票を俺の手の上にのせる。

「よろしくな」と申し訳なさそうに言う宍戸の後ろで園児達も満面の笑みで手をあげた。


さすがこいつらのリーダーなだけある。
俺様は舌打ちをすると伝票を持ちレジへ向かった。



次の日の忍足もいつものように優しくメス猫どもに対応していた。
まぁ、昨日の宍戸達との会話の内容を知らないのだから当然なのだがそれが無性にムカついた。

「弁当作ってきてくれたん?・・・ん〜嬉しいんやけど俺恋人おるさかいもらえんわぁ」
「別に忍足先輩に付き合ってもらえるなんて思ってません!・・・ただ頑張って作ったからお弁当だけでも食べてもらえませんか?」
「もらいたいんはやまやまなんやけど他の子にも断ってしまったし・・・。ほんまごめんな。」

申し訳なさそうな顔をする忍足に女は「じゃあ、仕方ありませんね。」と物分りの良いふりをして去っていく。
本当に物分りが良いのかもしれないが俺様にはフリにしか見えなかった。

「忍足、あんな優しい断り方してるから弁当渡してくるような女が後をたたねぇんじゃねーか?」


忍足にヤキモチやいてるなんて悟られたくない。

だけど女に優しくしてるのもイラついて呆れたように指摘する。
そんなこと気づきもしない鈍感なあいつは「やって可哀想やん。朝早う起きて作ってくれたんやろうし。」と間抜け面で答える。

「それに何回も断っとったらくれんくなるよ。」

付け加えたその言葉に俺様は心の中で唾をはく。
(嘘つけ。さっきの女これで弁当寄越してきたの3回目だぜ)









放課後、部室に向かうとそこには忍足しかいなかった。

「あーん?他のやつらはどうした?」
「今日コート整備で休みやって。景ちゃん聞いとらん?」
「あぁ、そういえばそんなこと言ってたか・・・」

朝から忍足にイライラしすぎて頭からすっぽり抜け去ってしまっていた。
こんなミス自分らしくない。

「景ちゃん、今日お暇ですか?」
「ん?・・・あぁ。確か何もなかったな。」
「ほんま?」
「あぁ」
「なら久々にデートでもせえへん?映画のチケットあるねん。」
「ラブロマンスものか?」
「そうやで〜」
「ふっ。まぁ、良い。」本当は凄く嬉しいのにいつも通りの返事をして忍足と部室を後にする。
今日見る映画のパンフレットを忍足から受け取りながら話していると目の前に女が飛び出してきた。
いや、もしかしたら俺様が気付いていなかっただけでずっとそこに居たのかも知れねぇ。

「忍足君・・・ちょっと良いですか?」

遠慮がちに上目使いで忍足に話しかける女の鼻は赤くなっていて寒い中ここで待っていたことが窺えた。
忍足もそれに気付いたのか俺様の方を一瞬見てから「少しなら」と返事をした。

その返事を聞いて俺様は胸がぎゅうと苦しくなった。
そんなことには気づかない忍足は「ここじゃ恥ずかしいので・・」という女の言葉に頷き校舎裏へと歩いて行く。
何で行く必要があんだよ?
お前が好きなのは俺様だろ?
どうせ断るんだよな?そうだろ?

気づいたら俺様は忍足の服の裾を掴んでいた。
驚いて忍足がゆっくりこっちを向く。

「け、景ちゃん?どないしたん?」
「行くなよ・・・。俺様と居るだろ・・・。それに映画だって上映時間もうすぐだし・・・」

なんて言ったらいいかわからずにしどろもどろに言葉を紡ぐ。

「あっ、映画の上映時間気にしとったん?俺もすぐ追いかけるし先見ててええよ。」
「ち・・違えよ!」
「どないしたん?」

心配そうに覗きこんでくる忍足を見たら何故だか無性に何かが込み上げてきて俺様の頬に温かい雫がが流れた。

「?!」

驚いて何か言おうとしている忍足の後ろから女の声が聞こえてくる。

「あのぉ・・忍足さん、どうしたんですか?」

その声を聞いたらもっと涙が溢れてきて頬をつたっていく。
「・・っ、ほらいけよ・・ひっく・・」
「・・・・・・」

かっこ悪い。最高にかっこ悪い。
恥ずかしさと悲しさから下を向いているといきなり頭を撫でられた。
驚いて忍足を見るとニッコリと笑う。

女に向かって「大事な用あったん思い出したから帰るな。」と叫ぶと俺様の手を引いて歩き出した。
後ろで女の「えっ・・」という驚いた声がしたのにも振り向かず忍足は歩く。
学校から少し離れた所にある公園につくと忍足は俺様を公園のベンチに座らせた。
涙はもう止まっていてそれが逆に恥ずかしい。
「景ちゃん、やきもちやいてくれたん?」

座ると同時にそう聞かれ俺様の顔は一気に熱くなる。
それを見ていた忍足はふにゃあと顔を綻ばせ、俺様を抱きしめた。

「景ちゃん、かわええ〜!」
「・・うっせ」
「でもな、俺だっていつもヤキモチやいとるんよ?」
「お前が?」

まさか忍足がヤキモチをやいているなんて思ってもいなかったことで俺様は驚いた。

「うん。そやで。女の子だけやなくてレギュラー陣にも景ちゃんのクラスの男子にもみーんな嫉妬しとるんよ。」
「なんだよ、それ・・。そんなに嫉妬してたんじゃきりねぇな。」
「やろ?」
「俺様も・・・」
「ん?」
「俺様もいつも嫉妬してる・・・。お前は俺様のものなのにって・・。」
「けっ、景ちゃん!どないしたん、今日?!」
「別に・・お前が気付いてないだけでいつもそう思ってた・・」
「景ちゃん!」

抱きしめられた腕の力が強くなって痛い。
慌てて腕をたたいてやめさせると今度は深いキスをされる。

「・・んっ・・は・・・ッ」

激しすぎるキスに苦しくなり肩を叩くと忍足は慌てて俺様から離れた。

「ごめん!景ちゃんがあまりにかわえくて・・」
「・・別にいい・・・」

なんだか気恥ずかしくなってそっぽを向くと忍足の手が頬をつかみ、「予定変更。今日俺ん家来ませんか?」と囁いた。

俺様もこの場に流されたのか気づけば頷いていた。

嬉しそうに俺様の手を引いて歩く忍足を見ながら本当に夢中なのは俺様の方かもしれねぇと心の中で苦笑し、俺様も忍足の手を握り返した。

top


コメント
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -