「おい侑士ー!」
「なんや岳人、おはようさん」
「おはようさんじゃねーよ!殺人事件とか超こえーし!やばくね?」
事件の所為か部活が全面停止にされ、岳人は俺の教室まで来て落ち着きなく喚いている。教室は登校時刻を過ぎているというのにスカスカで、何人か休んでいるようだ。聞けば鳳も休みらしい。
「ほんま物騒やんなあ。学校暫く休校でええんに」
岳人は「だよな!休校でいいよな!」と、また落ち着きなく教室を出て行った。
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放課後、完全下校だというのに跡部が部室へ向かったところを見掛け、追い掛けてみた。
「跡…、!?」
まさか。嘘だ。有り得ない。有り、得ない。そりゃないで…跡部。
「もう、跡部くん痛くしないでね?」
「あーん?てめえはマゾだろうが」
「もう、ばかぁ」
跡部と、俺のクラスの女子。
跡部はその女子の鎖骨辺りに顔を埋め、噛み付いているように見える。
「あ…っ」
「もう少し」
「跡部くん…っストップ、痛いわ」
口を放した跡部。女子の白い肌からは血液が。
「このこと、ばらしたらてめえも殺すからな」
「うん、ふたりだけの秘密だよ」
「ふん、わかったならもう帰れ」
「うん、また明日…あ」
女子と目が合った。
「忍足くん…、ごめん。また明日っ」
「…」
女子は去って行った。
「あと…、」
「…」
「跡部、今の…」
「あーあ、」
跡部は苛立ちを露わにしながら空を仰ぎ、呟いた。
「しゃーねー。また殺すか」
「また…!?またてどないことや…?」
「そのままの意味だ」
呼吸が、止まるかと思った。夢か何かだと思いたい。けれど、跡部の唇から垂れる赤が、『夢じゃないよ』と訴えてくる。
「なんで…殺したん…?」
絞り出すように問えば、跡部は淡々と答えた。
「てめーも知ってんだろ?『跡部景吾は吸血鬼だ』って噂」
「おん…」
「アレ、この前死んだ女が流したんだぜ」
「だ、だから殺したって言うん…?」
「…はっ!それ以外に何があんだよ?てめぇはもう少し頭が働く奴だと思ってたんだがな」
前髪をかきあげ、まるで可笑しくて仕方がないと言うように跡部は天を仰いだ。
跡部は、俺の好きな跡部はこんな狂った人間じゃない。
人間じゃ、ない。
俺は、吸血鬼を『ばけもの』と思った。
存在しない『ばけもの』と。
俺は、跡部を『ばけもの』と…?
一気に自己嫌悪の念が俺を襲った。
「…跡部、」
「あーん?」
「血、俺の血ならいくらでも吸ってええ。やから…」
「"俺以外に手を出さないでくれ"とでも言いてえのか?…は。戯れ言だ」
跡部はまた可笑しくて仕方がないと言うように笑い出した。
冷たくて、無慈悲な眼差し。けれどそんなところも好きで、愛したくて。
「俺様は好きになった奴の血しか吸わねえよ」
彼の、恋人になりたい。
c.a.r.d.i.n.a.l.(storyU)
カーディナルは牙を剥く
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